表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/109

87話 二人で夜なべして。




その夜、私は一人、キッチンに籠っていた。


そこに持ち込んでいたのは、過去に採取してきたハーブや木の実など。

私はそれらを調理台の上にずらりと並べる。


やりたいことは明白にあった。

今日みたくギンが獣化した際に、その暴走を制御できるようななにかを作りたかったのだ。


今のところ、チルチル団子を食べれば、その暴走が止まることは分かっている。

が、エスト島のチルチル草は特殊で、その効能はかなり強い。

一口食べれば、彼の獣化はただ解けるだけでなく、そのまま眠りに落ちてしまう。



ならば、その効能をほどよく抑えた別のなにかを用意できれば、獣化したままでも、自我をコントロールできるようになるのではないかとそう考えた。



実験台は、もちろん自分だ。

最近はリカルドさんの隣で寝るという、刺激的過ぎるイベントのせいで、あまり寝られていなかったから眠くなるならなるで、大歓迎だった。


まず私は、チルチル草の粉を大量の水で溶かして、一口飲んでみる。


すると口の中には、嫌な苦みがじんわり広がっていて、顔が歪む。


「……なんか、本当に薬の味って感じかも」


さすが本土でも魔力暴走の治療に使われているだけのことはある。

正直言って、まずい。


そのうえ、効能はといえば微妙だ。

水を入れすぎたのか、しばらく待っても鎮静効果はない。


こうなったら、と私はもう少しチルチル草の粉を足して、新たな試作品を作る。

一度目がまずかったから、飲むのを少しためらっていたら、


「なにをやってるんだい?」


そこへ思いがけず、背後から声をかけられた


もうみんな寝静まった頃だと思っていたから、私はびくっと跳ねてから後ろを振り返る。

そこにいたのは、灯りを持ったリカルドさんだった。


たぶん、見回りにきていたのだろう。


「えっと……」


つい言葉が出なくなるが、なにも毒薬を作って潜ませるみたいな、やましいことをしていたわけじゃない。


「ちょっと実験をしてたんです。うまく効果を調整すれば、ギンの暴走を抑えられるかも? と思って」


私はならべたハーブ類を彼に見せながら、事情説明をする。

ひととおり話したあと、ふと彼のほうへと視線をやれば、頬をぴくぴくと引きつらせている。


明らかに、引いている顔だ。


「……効果も分からないのに、よく自分で飲めるね」

「え? 毒がないことは分かってますから。それに、大量の水で薄めて使ってますよ?」

「そうだとしてもだよ。普通はなかなか試せないんだよ」


……言われてみれば、そうかもしれない。


【庭いじり】のスキルを手に入れてからは、植物に毒があるかないか程度なら、判別できるようになった。

それ以来、ほぼ躊躇なく、いろんなものを食べたり飲んだり試してきたから、感覚がずれていたのかもしれない。


「それで、ちょうどいい塩梅のものは見つかったのかい?」

「いえ、まだ始めたばかりですよ。苦くて、飲む気がしないんです」


私がチルチル水の入ったグラスを見ながらそう言えば、彼はそれを手に取る。

中身を覗きこんでから私のほうを見た。

「……これは飲んでも問題ないものかい?」

「えっと、たぶん大丈夫です。さっき飲んだものから、そこまで量は増やしてませんから、ちょっと魔力が放出される程度の効果しかないはずですよ」

「そういうことなら」


と、彼はそのグラスに口をつけて、小さく一口含む。

あれ、もしかして今、間接的にキスしたことになるんじゃ……なんて思っていたら、彼は「うん」と一つ首を縦に振った。


「この苦味ならうまくやれば、消せると思うよ」

「え、ほんとですか」

「リンゴのジャムやらと混ぜてジュースみたいにすれば、うまくいくんじゃないかな。やってみてもいいかい?」

「えっと、でも、寝なくていいんですか」

「そこなら心配しなくてもいいよ。最近の夜更かしで、むしろ寝られないんだよ」


そう言うと彼はさっそく、調理に取り掛かる。

その作業する姿を見ながら、私が引っかかったのは、その言葉だ。


私は目を瞑ってこそいたが、緊張してろくに眠れなかったから知っている。

少なくともリカルドさんは、すやすやと眠りについていたはずだ。


もしかして彼も、私と同じように寝ているように見えて、実は起きていたのだろうか。

そしてその理由はもしかして、私といたから――なんて。


そこまで都合よく考え進めてから、私はそこでありえないかと首を横に振った。


「私も手伝います!」

「うん。助かるよ。じゃあ、まずはジャムをとってきてくれるかな」


――こうして私とリカルドさんの、美味しいかつ、効果のあるジュースづくりが始まる。


途中までは、そりゃもう苦戦した。

リカルドさんの腕にかかって、味は当然美味しくなったのだけれど、なかなか効果のあるふうにはならない。

そうしていくつか作り、お腹がちゃぽちゃぽしてきたころ、【開墾】スキルが勝手に発動した。


『全体魔力の約一割程度を放出させる。鎮静効果あり』


なんと実際に効果を体感せずとも、ジュースを見るだけで、その効果が見えるようになったのだ。


いわば、ブレンド能力と言おうか。


「……まったく君とスキルにはいつも驚かされるよ」

「ふふ。でも、今回はリカルドさんのおかげで、できるようになったんですよ!」


そこからは随分と楽になった。私たちはチルチルジュースに、色々なハーブを混ぜてみたりしつつ、試行錯誤を繰り返す。


そうして、一応のものが完成したところで、蓄積されたチルチル草の効果か一気に眠気が襲ってきて、それぞれの部屋へと引き下がったのであった。


こう、なんというか、夜中に2人で……みたいなの好きです!(共感してくださいw)


【大告知!】

なんと書籍化いたします。

6月25日の発売です〜!!

書影公開されております。活動報告もしくは、この画面の広告下に表示されておりますので、よろしければぜひ!

よろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【大告知】
本作、2巻が発売されています!
MFブックス様からの2月下旬の発売となりますので、ぜひに✨!画像がMFブックス様へのリンクになっております。
322411000126_01.webp 【ついで告知】 新連載はじめました!
大変面白い作品になりましたので、併せてよろしくお願いいたします。
焼き捨てられた元王妃は、隣国王子に拾われて、幸せ薬師ライフを送る〜母国が崩壊? どうぞご勝手に。〜

― 新着の感想 ―
[良い点] 夜中の共同作業…。こっそりと二人で…。皆にはナイショ!(ではない)こっそりと起こさないように作業…。なんか良いですね。ほのぼの!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ