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85話 獣人青年と牛舎で。

そうして屋敷まで帰ると、カーミラさんとキラちゃんが畑の少し先で私たちを出迎えてくれた。


意外なコンビだ。

これまでは特別仲良くしているイメージがなかったから面食らっていると、キラちゃんが私の胸元へと勢いよく飛び込んできた。


『お姉ちゃん~、見て見て。これ、格好いいでしょ~』


ぽふっと一度跳ねた彼は、上目遣いにこちらを見ながら目をきりっと細め、身体の左上部(頭というべきかもしれないが)を得意げに見せてくれる。

そこに括り付けられていたのは、星型をしたリボンだ。

格好いいというより、やっぱり可愛いのだけれど、そこは言わないでおいてやって、私は彼の葉を撫でる。


「たしかによく似合ってるね! どうしたの?」

『あの尻尾みたいな髪のお姉さんが作ってくれたんだよ~。ほら、こんなに』


彼はそう言うと、身体を覆うたくさんの葉の中から、次々とリボンを取り出していく。本当に、どれだけあるんだというくらい出てくる。


最終的には彼の身体の表面が埋まるくらいのリボンの数だった。

たぶん、なにかのきっかけでカーミラさんの小物づくり魂に火が付いた結果、こうなったのだろう。


『これがお気に入りなんだよ~』


キラちゃんはそれから、いくつかお気に入りだというリボンを紹介してくれる。

その話を穏やかに聞いているうち、リカルドさんによる事情説明、ギンとカーミラさんによる、お互いの自己紹介が済んでいた。


「とりあえず、一旦中で休もうか。移動疲れもあるだろうからね。ギンくんには、空き部屋を貸そう」


リカルドさんがこう促して、みんなで連れ立って屋敷の玄関へを向かう。

その途中、カーミラさんは一番端にいた私のさらに隣にまで回ってきた。


その顔色は少しよくない。どうしたのかと思って首を捻っていたら、


「……獣人って正直怖いのよね。はじめて見たし」


と、カーミラさんは私に近寄り、小さな声で打ち明ける。


その考え方はなにらおかしなものではない。

本土で獣人に出くわすことは、ほとんどないし、私だって経験はなかった。

そのうえ、そもそも危険な種族であると一般的には言われている。


私たちだって、少し出会い方が違えば、同じように思っていたかもしれない。

むしろ、これくらいの警戒心を持っているほうが本来は普通だ。


「慣れますよ、きっと」

「そういう問題じゃないっていうか」

「安心してください。少なくとも襲われたりはされてませんから。ゆっくりでいいんですよ」


私はカーミラさんに小さな声でそう伝えつつ、その肩を軽くぽんと叩く。

その一方で、なにか打ち解けられるようなイベントをできないだろうかと考え巡らせつつ、一度自室へと下がった。


少しして、食事の時間になる。

今日は、中間地点の開拓にあたり調理関係を任されたリカルドさんの部下・ヒョースさんが作ってくれたらしい。


私は彼に呼ばれて食堂へと向かう。

待っているとほとんど全員が集まったのだけれど、ギンだけはそこにやってこない。


「一応、部屋に声をかけたんだけど、返事がなかった。もしかしたら疲れて寝ているだけかもしれないけど……どうしようか」


リカルドさんはため息をついて、目を閉じる。

たしかにそういう理由も考えられなくはない。


が、私には一つ思い当たることがあった。


「私、探しに行きますよ」

「マーガレットくん?」

「任せてください。みなさんは先に食べててもらって大丈夫ですよ」


こう残して、自分の皿の上にあったパンをナプキンで挟んで掴み、食堂を後にする。

その足で向かったのは、屋敷の外だ。


もう日は沈みきっていた。場所の見当もついていなかったから、月明りを頼りに、彼の姿を探す。


すると存外すぐに、見つけることができた。

ミノトーロ達がいる牛舎の中、脇に積んでいた藁の上で、彼は人の姿のまま、あぐらをかいてそこに座っていたのだ。


私が目を丸くしていると、彼のほうから声をかけてくる。


「……マーガレット。お前、なにしてるんだ? 飯の時間だろ」

「それは、こっちのセリフだよ。ご飯の時間なのに、ここでなにしてるの?」

「それは……別になんでもいいだろ」


彼はそう呟くと、そっぽを向き、ぐっすり眠りこんでいるミノトーロ達のほうへと目を落とす。

彼がこういう素振りをするときは、まず間違いなく、なにもないわけじゃない。



そして、なにがあったのかは、大体見当がついていた。

私は彼の横、藁の束の上に腰を落とす。


「わ……!」


思った以上のふかふか具合だった。

藁は一気に沈み込んで、隣にいたギンをも巻き込む。


彼はバランスを崩して私の膝上へと倒れこんできた。


「お、おい。いきなり座るなよ」


起き上がろうとしながら抗議をしてくるから、私はまず一つ「ごめんごめん」と謝ってから、彼の顔を覗きこんだ。


「な、なんだよ」


なぜか頬を赤く染める彼に、


「聞えてたんでしょ、私とカーミラさんの会話」


私は考え至っていたことをまっすぐにぶつける。


「だから、こんなところにいるんでしょ? カーミラさんが怖がってるのに、一緒に居られないって考えて、ここにいた。あなたはそういうのに気を遣うもの。そうでしょ」


これに対して彼は、その目を大きく見開き、頭を浮かせたまま固まる。

少しして頭を私の膝上にもう一度落とした。


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大変面白い作品になりましたので、併せてよろしくお願いいたします。
焼き捨てられた元王妃は、隣国王子に拾われて、幸せ薬師ライフを送る〜母国が崩壊? どうぞご勝手に。〜

― 新着の感想 ―
[良い点] 獣人は耳が良い!そして、ギンさん気遣い出来るいい子! 膝枕v [気になる点] 怖いは仕方ない、これからどうやって仲良くなっていくのか…。
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