8話 毒団子作りと、スキル進化
トレントと魔ネズミ駆除の約束を交わしたのち、まず私がやったのはトレントを落ち着かせることだ。
そのために用いるのは、さっき植えたばかりのレリーフハーブである。成長過程のもので、本当ならこれから育てるつもりだったが、緊急事態だからしょうがない。
その小さな白い花は、挽いた粉を服用することで、心身を落ち着かせる効果がある。
それを水に溶かして、トレントの根へとじょうろでかけたのだ。
『なんだか心が安らいでいくようだ……』
効果は、すぐに現れてくれた。
トレントはリラックスしたのか、すぐに入眠してくれたのだ。
「こんなふうな使い方もできるとは、驚いたよ。ハーブの効果はすごいな」
「これで安心ですよ。少なくとも、一日は大丈夫かと」
それに、あくまで治ったわけではなく、応急処置だ。
できるだけ早く大元の原因である魔ネズミを取り払わなくては、彼らの安寧は戻ってこない。それはそのまま、森の安寧にもつながる。
駆除のための方法は、【庭いじり】スキルがヒントになった。
夕暮れごろ、屋敷へと戻ってきた私たちは、石製のすりばちと布を一枚用意して、机の上に置く。
そのうえで作っていくのは、毒団子だ。
「駆除なんて、どうやってやるかと思ったら、まさかこんな方法とはね」
「平和的な解決でしょう? これであれば、追っかけ回さなくても駆除ができます。ネズミなんて一匹駆除したって、また現れますからね」
その際に材料とするのは、大量に引っこ抜いてきたスゲ草を炙ったものだ。
さっきリカルドさんに頼んで、火属性魔法で炙ってもらっていた。
このスゲ草は、火を通すことにより毒性を持つ。
私がそれをはじめに知ったのは、【庭いじり】スキルにより、その知識を得たためだ。
他に使い道はなく、普段は迷惑極まりない雑草だが……、こと害獣退治や害獣避けに当たっては最高の材料になる。
作り方もシンプルだ。
まずは、焼かれて真っ黒になったスゲ草をばちでひき潰す。
粉になったところで、小麦と混ぜ、成形していく――ただそれだけだ。
ただし、慎重さは要する。
焼いたスゲ草はその毒性から皮膚が爛れる危険性があるためだ。
手袋をはめていても、万が一ころころとどこかへ跳ねて、身体のどこかにあたってしまうやもしれない。
だから注意深く、そろそろと一口サイズの団子を握っていると、私の横手ではどんどんと団子の山が形成されていく。
「……早いですね、リカルドさん」
「はは、まぁ要領は肉団子と一緒だからね。料理を作っているようなものと考えたら、むしろここは、僕の領分だ」
たしかに並の手際ではない。一切不安を感じない手つきなのだ。
そのあたりの技術は、リカルドさんの方がかなり上手である。
それは、茹であげて団子が完成しても、そう。
彼の作った団子は綺麗な丸をしていたが、私の作った団子は少し歪な形をしていた。
「なんだか食べられそうな見た目になったね。緑色だし、よもぎ団子のようだ」
なんてリカルドさんは笑っていたが、間違っても口にできるようなものじゃない。
人間が食べても、身体がしびれるくらいの毒性はあるのだ。
私たちはそれを慎重にいくつかの小さな木箱に分けて入れ、森まで出かけていく。
もう日は落ちてしまって、薄暮の状態だった。森の中にほとんど光は届いておらず、視界はほとんどまっくら。
灯篭じゃどうしようもないくらいだったのだけれど、
「明かり役なら任せてくれるといいさ」
リカルドさんの力を借りれば、問題なかった。
彼のスキルである火属性の魔法で、ランプに火をつけて歩く。
そうして近くの木々についた牙の跡などを頼りに、生息地の近くを探して、当たり一帯に団子の入った小箱をいくつか設置し終えた。
帰り道を歩きながら、私は一仕事終えた気分でリカルドさんに話しかける。
「これで後は待つだけですね!」
「そうだね、うまくいくといいけど……。って、君が言うと、なんでもできる気がしてくるよ。
まったく君の知識とその【庭いじり】スキルには驚かされる。まさか、植物魔と本当に喋れるなんてね」
「あー、それについては正直私も驚きました。本当に急だったんです。ついさっき、突然トレントの声が聞こえて。前に王城で世話をしていたときにも、喋れたりはしませんでしたし……謎ですね」
「なるほど。そういうことなら、聞いたことがあるよ。スキルを使い続けていたら、進化することがあるって。もしかして、それじゃないかな」
はじめて知った話だった。
もしかしたら過去に耳にしたこと自体はあるのかもしれないが、少なくとも【庭いじり】なんて名前からして平凡なスキルが、それ以上どうにかなるとは思っていなかった。
けれど、それが本当ならば合点がいく。
「たしかにここ最近、大量に草むしりしましたもんね、私」
王城でもかなりの回数スキルを使ってきたが、ここへきてからの二週間はそりゃもう異常なくらい使った。
毎日、空になるくらいまで魔力を消費して、スゲ草を抜きに抜きまくったのだ。
「うん。文字通り山のようだったからね。帰ったらスキルカードを見てみたらいいんじゃないかな。スキルが進化したときは、表記が変わっているらしいよ」
「そうなんですか……! ちょっと見てみます」
こんな会話のうち、屋敷へと戻ってくる。
私はすぐに、島へと持ってきた数少ない私物の中から、スキルカードを引っ張り出してきた。
これは、魔法能力が発現する15の歳に、教会から与えられる証明書のようなものだ。
単に、名前とスキルが記してあるだけのカードである。
身分証くらいにしか使い道がない。が、念のため常に持ち歩いており、島に来るにあたっても意識せずに持ってきていた。
それを引っ張り出してみれば、びっくり。
「本当に変わってます……! 変わってますよ、リカルドさん!」
スキル名称【庭いじり】の文字のすぐ後ろに、「→」の記号が付け足されていたのだ。
その先に書かれていた文言はといえば――
「【開墾】……ですって。田畑を切り開く、とかそんな意味でしたっけ」
「とんでもないスケールアップだな、また……! というか、そのスキル。もはや開拓のためにあるみたいなスキルだね」
「た、たしかにそうかも」
やっぱり、私とリカルドさんの役割を入れ替えたのは、大正解だったらしい。
前が短かったので、今日は3話投稿になります。
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