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79話 傷の手当もスキルで。




一応、服は着ていた。が、それは布切れと化していて、ほとんど裸の状態だ。


「リカルドさん、この人って……」

「いわゆる獣人だろうね。彼らは貴族と似た魔力で、姿を変えられる。この子はウルフヒューマンかな。本土にも昔はいたようだけど、最近ではほとんど見なくなった。僕もはじめて見たよ」


そう言いながら彼は、その獣人青年の側にしゃがむ。


「息はあるみたいだ」


そして、ほっと息をついた。

脱力しているようにも見える。


「恐ろしいな。危うく人を殺めるところだったよ」

「……でも、さっきの状態じゃ分かりようがないですよね。戦ってなかったら、今頃私たちが餌食になってましたよ、たぶん」

「だね。でも、おかしいな。ウルフヒューマンは、獣の姿になっても言葉を操ることができるはずなんだけど」


そう言われてうっすらと、かつて受けた歴史の授業の記憶がよみがえってくる。

獣人は現在、本土にはほとんど存在していないとされている。そのため、かつて起こった戦の解説で出てきたのだ、たしか。


……まぁ、記憶はとてもおぼろげで、それ以上のことは思い出せないのだけれど。


「まぁ言っててもしょうがないね。とりあえず一旦、小屋に連れ帰ろうか」

「そうですね。じゃあ私が腕のほうを――」

「いいよ。女の子にさせることじゃない。僕が負ぶっていくさ」


リカルドさんはそう言うと、獣人青年を自分の背中に乗せようとする。


そこで一度顔を歪めるが、ふらりと立ちあがる。


「だ、大丈夫ですか!」


と聞けば、


「……あぁ。ちょっと匂うだけだよ。大丈夫。少しずつ慣れてきたから」


彼はこう答える。


たしかに、獣臭さは漂ってきていた。とにかく敏感な彼には、耐えがたいものがあったらしいが、少し後にはちゃんとした足取りを取り戻す。


そうして小屋に帰りついた。



そこで私たちは、すぐに軒先で火を起こす。

そのわけは、獣人青年の応急処置を行うためだ。


「僕の剣での打撲もそうだけど、なによりひどい刺され傷だね。針が残っているのもあるよ」


蜂の巣の下で、蜂同士の抗争に巻き込まれていたのだから無理もないが、あらゆる箇所が腫れている。


しかも尻尾などは深く長い毛に紛れているから、なかなか厄介そうだが、そこはさすがの器用さだ。

調理具として持ってきていたらしい骨抜きで、次々に抜いていく。


「職人だ……」

「はは、ちょっとニッチすぎて仕事になりそうにないな。でも、こういうのは嫌いじゃないかな」


うん、たしかになんとなく活き活きとしている気がする。


逆に私は、こういうのは大の苦手だ。

でも、なにもしないで見つめているのは性に合わない。


私は迷った末に、灯りを一つ手にして、小屋を離れる。


「あんまり遠くに行かないでくれよ。なにが出るか分からないから」

「大丈夫です、ちょっとあたりを見るくらいですから!」


こんな大人と子どもみたいなやりとりを交わしつつ、私は【開墾】スキルを発動する。


使うのは、『植物の種類や性質の文章による把握』能力だ。

これをやれば視界に入った植物の種類や特性までが一気に表示されるようになる。



視界いっぱいが、文字で埋め尽くされるのはなかなか圧倒される光景だが、触れれば説明を畳むこともできる。


だから私は、スゲ草など見慣れた植物に関する説明をすべて折りたたみ、目的の植物を探す。

離れすぎないように、という言いつけは守りながら、ぐるぐると歩き回って、そして見つけた。


『ヨモギ……多年草。日当たりのいい場所を好む。その草や花は、毒消しなどに用いることができる。食用も可能』


ヨモギは本土でもたまに見かけた。

気候が違うからか、やや形が違うが、同じようなものだろう。


が、さすがに毒消しとして利用したことはないから扱いが難しい。。


そう疑問に思いつつも、私はその植物のそばにしゃがむ。

そこで改めて解説文をよーく見てみれば、「毒消し」という文字には下線が引かれていた。


……前まではなかった気がする。

そう思いながらも触れてみると、解説文がさらに展開された。


『生の葉をもみこみ、傷口にあてることでも効果はある。より効果的に利用したい場合は、葉をよく洗い、酒につけることで成分が抽出される。二週間程度で、利用することが可能』


などと、そこには細かく、消毒液の作り方などが書かれているではないか。


……どうやらまたしても、スキルが進化したらしかった。

私は少し戸惑うが、こんなに便利なことはない。


さっそく辺りに生えていたものを摘み、それらを腕に抱えて、リカルドさんの元へと戻る。


その頃には、もう処置は終わっていた。

リカルドさんは獣人青年の近くに座り、その様子を見ている。


「もう針を抜き終えてたんですね」

「ついさっきね。それで、君の抱えてる葉っぱは毒消しにでも使えるのかい?」

「え、どうして分かったんですか」

「君なら、なにかは見つけてくるかなと思ってたからね。見つけられなかったら、まだ帰ってきてないだろう」


……うん、たしかにそうだ。

本当になにもなかったら、きっと小屋の近くという範囲を飛び越えて、探しに出ていただろう。


「それで、どうすれば使えるんだい?」

「えっと、もみこむみたいです。綺麗な布を濡らして使いましょうか」


私は、まずヨモギ草を小屋の中にあった箱に入れる。そこで水洗いしてから、ヨモギ草の葉を手でもみこんでいく。

するとだんだん葉はやわらかくなってきて、白っぽい汁が垂れてくるようになってきた。


たぶんこの汁に薬効があるのだろう。

私はリカルドさんと二人、葉っぱをペタペタと獣人青年の身体に貼りつけていく。


そうして一通りの処置が終わって少し。

歓談しながら様子を見ていたら、獣人青年の長くモフモフの尻尾がぴくりと動いた。





引き続きよろしくお願いいたします!

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