77話 眠れない夜に
引き続きよろしくお願いします……!
星空を楽しみながらの、美味しい食事を終えてしばらく。
私たちは早い時間に、寝床へと移っていた。
まだ話し足りないという思いもあったのだが、こういうときに羽目を外して、いつものリズムを崩すのもよくない。
今日はよく動いたこともあったから、明日に向けて身体を休めよう。
そんなふうにリカルドさんは計らってくれたのだが、しかし。
……眠れるわけもなかった。
身体は疲れていた。
沸かした湯に浸した手拭いで身体は拭いていたから、眠りの妨げになるような気持ち悪さもない。
枕が変わったって、ベッドが硬くたって普段の私なら即入眠できる。最悪、外で寝たって問題ない。
が、しかし。
一向に眠気が訪れないわけは、すぐ隣で眠るリカルドさんを意識してのことだ。
一応、寝ている。
だが繊細な彼には多少ベッドが合わないのか、そもそもそうなのか。
結構、寝相が悪い。
毛布が半分以上ベッドから落ちてしまっていたから、私はそれをかけ直してやる。
「うーん……」
すると、漏れてきたのはこんな声だ。
寝言未満の、なんてことのない呻きなのだけど、彼にかかれば、どうにも色っぽく聞こえてしまう。
そのせい、勝手に一人、ドキドキしてしまう。
男の人と同じ部屋で寝るなんてこと、幼い頃に父親や弟と寝た以来ないのだ。
私はなんとかしなければ、と仰向けになり、大きく深呼吸をする。
が、それが失敗だった。
どくどくどく、と。今度はベッドと心臓が一緒になったみたいに、自分の心音だけがやたらと大きく聞こえてくる。ベッドごと揺すられている気分だ。
そうなると、もうまんじりとも眠くならない。
いっそ外に出て、ミニちゃんの上で寝させてもらおうかしら、なんて考えながらもどうにか目を瞑り、一人で戦っていた時だ。
「マーガレットくん」
と、リカルドさんにいきなり呼びかけられたのだ。
まさか起きていたとは思わない。
しかもどういうわけか、すぐそこから聞こえたような……
そう思って、はっと目を開ければびっくり。枕元のすぐ横に、リカルドさんの顔がすぐそこにあった。
僅かな月明かりさえ反射する白い光沢のある肌と、エメラルドの瞳が、こちらを覗き込んでいる。
「な、な、なにをして……!?」
声を上げようとすると、彼は人差し指を唇に当てる。
「ほら、外から何か音が聞こえてくる気がしないかい?」
それから指差すのは、窓の外だ。
どうやら私に覆い被さろうとしていたのではなく、窓の外の音を聞きに来ていたらしい。
「えっと……」
自分の心音でおかしくなりそうだったから、まったくわからなかった……とは言えない。
私は上半身を起こして、耳をそばだてる。
すると、確かに、なにやら鳴き声のようなものが聞こえてくる。
かなり甲高いものだから、ミニちゃんたちトレントのものではない。
「な、なにか争いごとですかね?」
「うーん、分からないけど。このままじゃ、落ち落ち寝ていられないのは、たしかかな。君も寝つけてなかったんじゃないか?」
「まぁ、はい、そうですね」
理由はまったく違うけれど。
「仕方ない。確認しにいこうか」
「それがいいかもしれませんね。き、気になりますし」
それに、一人で勝手に緊張するだけの時間を過ごすよりはよほどいい。
私たちは寝巻きのまま、一応の防御手段だけ手にして、小屋の外へと出る。
外に見れば、どの方向から聞こえてきているのかはすぐに分かった。
リカルドさんの火属性魔法で、進路の少し先まで火の玉で照らしてもらった上で、足元を見つめつつ慎重に歩く。
そうしてたどり着いたところで見たのは、手のひらサイズの比較的小さな魔蜂と、私の顔くらいには大きな縞模様の魔蜂の群れによる抗争ーーそしてその渦中でなぜか雄叫びをあげる犬のような獣であった。
うん、状況がまったくわからない。