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72話 どう考えたって変なことさせるつもりでしょ!




「リカルドさん、マウロさんを引き留めておいてもらっても?」

「あぁそれは構わないが……どうするつもりなんだい」

「それは見てのお楽しみですよ!」


私はそう言いながらにして、早足で階段を下っていく。

向かったのは、裏手にある井戸の前だ。


そこでは今日とて、キラちゃんが回転草とともに、ぴょんぴょこ跳ねている。

そして、肝心の風もふわりと身体を撫でるくらいには感じられた。


『ん、お姉ちゃん。もしかして、ぼくの出番?』

「ううん。今日は、これをひとつもらって行こうかと思ってね」

『クルクル草? もしかしてお姉ちゃんも、これで遊ぶのにハマったの? 一緒に跳ねる?」

「うーん、ちょっと違うかな」


私は頭の中で、一人と一匹で跳ねている光景を想像して、少し苦笑いする。

それから気を取り直して、近場にあったバケツで上下するクルクル草を捕まえた。


バケツの中でも跳ね回るそれに翻弄されつつも、私はリカルドさんのいる廊下へと戻る。彼はお願いしたとおり、マウロさんを捕まえてくれていた。


「……それを使うのかい?」

「あくまでただの思いつきですけどね」

「そうか……」


直接口にはされなかったけれど、分かる。

また妙なものを、とリカルドさんの顔には書いてあった。


無言で見つめてくるマウロさんも、たぶん同じことを思っているのだろう。


だが今さら気にならない。

そんな二人を連れて、私が向かったのはカーミラさんの部屋だ。


戸をノックすると、扉を開けた彼女だったが、一度瞬きしたのちすぐに閉める。

しーんと静まり返る廊下に、クルクル草がぴょんぴょん跳ねる音だけが響いた。


「ちょ、カーミラさん!? なんで!」


ワンテンポ遅れて、私はもう一度とを叩く。

すると扉の奥から返ってきたのは


「勢揃いでしかも、その跳ねる葉っぱ。どう考えたって変なことさせるつもりでしょ。怖いし!」


たしかに……! と納得せざるをえない内容であった。

リカルドさんも、分かると言わんばかりに首を縦に何度か振っている。


たしかに改めて考えてみれば、怪しさしかない。

なにをしにきたか分からないとしても、面倒そうな話であることだけは、見ただけで分かるかもしれない。


私はどうにか説得しようとするが、カーミラさんはなかなか頑なだ。


「開けてください、今度また罠の実験体にしていいですから!」

「それ、ほんと?」


結局、身を切る思いで私がこう言えば、やっとカーミラさんは扉を開けてくれた。


「じゃあ話だけ、とりあえず聞く」


三人、中へと入れてもらう。

相変わらず、ひとりでに跳ねあがるクルクル草に気を取られながらも、私はカーミラさん、マウロさん、二人の顔を見てから切り出した。


「お二人に、風が起こる魔道具を作ってほしいんです!」


いったん二人の反応は気にせず、私は続ける。


「ノルドさんは暑がりで、この季節に働くのは大変だって言ってました。でも、このクルクル草をうまく使って、風を起こす装置を作れたら少しは涼しく仕事ができるようになると思うんです!」


私は、跳ね上がるクルクル草を捕まえて、その裏についている軸をそっと指先で持って、その葉をカーミラさんの方へと向ける。


そうしてみると、どうだ。クルクル草は軸を中心に回っているから、起こった風はまっすぐカーミラさんのほうへと向かい、その長い水色の髪を吹きあげる。


風の強さとしては十分だ。

これにはカーミラさんも目を見開き、驚いていた。


「それはいいけど、なんで、こいつと? あたし一人でもできるでしょ」

「クルクル草が跳ね上がるのは、水気があるときだけなんです。なくなると、ほら、こんなふうに。まったく動かなくなる。でも、延々と水が出るような装置を作ろうと思ったら……」

「魔石の力を引き出す必要がある、と」


マウロさんに、私は大きく頷きを返す。


「ラクア清水石を本土との取引でもらっています! それをうまく扱えたら、もしくはと思ったんです。カーミラさんにはデザインや組み立てを、そしてマウロさんには動力部分を、それぞれお願いできませんか」


そして、改めて尋ねた。


すると、カーミラさんはすぐにふいっと顔をよそへ向ける。

よほど関わりたくないと見えた。やっぱり二人の溝は埋まり切っていないらしい。


ぴりっと空気が固まる。唯一の救いはリカルドさんの浮かべる優しい笑みだけだ。

まぁそれさえも完全なる作り笑いで、少し引きつっているが。


そんななか、マウロさんが口を開いた。


「…………俺は構いませんが。カーミラ様が嫌というのならば、それはどうしようもありません。俺にどうこうできる話ではありませんから。俺が一人でやりましょう。ノルド様が働けるようになるのであれば、それが一番です。やらせてください」


なんとなく嫌味がこめられているようにも取れる一言だった。

たぶんマウロさん本人にその気がいっさいないのだろうが、カーミラさんは敏感に反応して、ちっと舌打ちをする。


「そんなこと言ったら、あたしが悪者みたいでしょ……!」


その目つき具合からしても、明らかに怒りの感情が高まっているのを感じられる。


まずいかも、と私はリカルドさんに目を流す。そうして二人、喧嘩仲裁に入る準備まで整えたのだが、そこでふっとカーミラさんのいかり上がった肩が落ちる。


「……もう、分かった。やる、やるわよ。要するに風が起こる道具を作ればいいんでしょ」


こうして一応、二人での魔道具作りを受け入れてくれたのであった。



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