68話 人手不足の補い方
「早くあの場所開拓したいですね! 夢が膨らみます。それに、ちょうど新しい苗もありますよ」
なんて。
帰り道、私はさっそく新たに見つけた開拓地に思いを巡らせる。
浮かれ気分で、リカルドさんにも早口で話しかけるのだけれど、彼はといえば思案顔だ。
「そうすぐに、とはいかないよ。今のままじゃ、できても三ヶ月後だ。もっと後かもしれない」
「えっ、そんなにですか」
「人手が足りないんだ。ここが本土なら緊急の求人を出したいくらいだよ。
でも、そうはいかない。人手を確保しようと思ったら、定期船を待ったうえで、増やしてもらうよう王城にかけあわなくてはならない。
そのうえ、それを認めてもらえるかどうかも別問題だ」
新しい場所の発見に舞い上がってしまったせい、その観点は完全に抜け落ちていた。
現状でさえ、人繰りは結構ぎりぎりで回しているのだ。
たしかにこのままでは、新しい場所の開拓なんてできない。
「でも……三ヶ月だと、本土の薬草不足がもっと深刻になってしまうかもしれませんし、待てませんよ」
私は露骨に落ち込むのだけれど、リカルドさんは反対にカラッと笑った。
「だね。だから、別になにも諦めろって言ってる訳じゃない。なにか方法がないか少し考えてみよう」
「ですね……! なにかは、あるかもしれませんし」
幸い、かなり遠いところまで来ていたから、時間はたっぷりあった。
その後私とリカルドさんは、今各人が担当している作業を洗い出していく。
そうして屋敷に帰り着くなり、全員を食堂に集めた。
まず新しい開拓地候補を見つけたことを報告すれば、
「魅力的かもだけど……いや、でも無理じゃない? 人足りないし」
カーミラさんを筆頭に、やはりこの反応だ。
だがその対策は、帰り道すがらすでに考えついていた。
私が目を向けるのは、端の方に固まっていたリカルドさんの部下たち三人だ。
「わ、私たちですか? 別に、手が空くようなことは何も……」
「そ、そうですよ!」
「それに、リカルド様にも毎日仕事は確認してもらっております!」
焦ったように口々言うが、別にサボりを責めているわけじゃない。
ここは主従関係にある彼から伝えてもらった方がよさそうだ。
私は、リカルドさんへと目を向ける。
「はは、分かってるさ。ただたとえば効率化できる作業はあると思ってね」
「効率化……ですか」
「うん。たとえば魚や野うさぎの狩猟だけど、銛を使ったものだと結構時間がかかるだろう? それをたとえば、仕掛けを使ったものに変えられたら手間が減る。それに最近は、食材も充実してきたから多少獲る数を少なくしても問題はないだろう?」
これこそ、私とリカルドさんがどうにか考えついた策だ。
今の状況でもっとも仕事を変えやすいのは、リカルドさんの部下の方々であった。
「そうやって手が空いた分は、畑作業や家事、簡単な大工作業を手伝ってもらいたい。むろん、引継ぎはする予定だよ」
新しい場所の開拓をするとなれば、私やリカルドさん、建築担当のマウロさんはどうしても、そちらに力を割くことになる。
その分を、部下の方々に埋めてもらおうという作戦だ。
「どうかな、やってくれると嬉しいんだけど」
部下の方々は、まだ戸惑った様子だった。
いきなり仕事が変わるのを受け入れがたかったのかもしれない。けれど最終的には、全員が首を縦に振ってくれた。
「リカルドさん、マーガレットさんに頼まれたら断れませんよ」
と、苦笑いしながら。
引き続きよろしくお願いします!