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66話 開拓に最適な中間地点?

定期船が帰っていった翌日、早朝、四の刻。

私とリカルドさんは再びミニちゃんに乗り、屋敷の北に広がる森へと繰り出していた。


その目的は、上流から流れる瘴気の調査と、ポーション用の薬草探しである。

リカルドさんに事情を説明したところ、「本土とはいえ、誰かが苦しむのを放置はできない」との彼らしい理由で薬草採取にも賛同してくれたのだ。


なぜ早朝かといえば、森がどこまで続いているのか、瘴気の発生源がどこにあるのか分からないためである。

できるだけ遠く、上流まで足を運び調査を行い、日暮れまでに帰ってくるため、この時刻の出立となった。


とはいえ、太陽はまだ頭を覗かせる程度しか昇っておらず、そのうえ木々に遮られて光はほとんど届かない。


そのせい、さすがのリカルドさんもまだ眠気をぬぐい切れていないらしかった。うつらうつらと頭をゆらしている。

私はそれを横目に、スキル【開墾】を発動して、森に生える野草の名前を確認していった。


『マーガレットさん、これくらいの速さなら見える?』

「うん、大丈夫。ありがとうね、ミニちゃん」


動きながらであるから、見落とさないようにするのはけっこう大変だ。


ミニちゃんとの連携を取りつつ、地面に目を凝らしていてしばらく、視界を遮ったのはパンだ。こんがり茶色に焼けて、いい香りを放つクロワッサン。


「マーガレットくん、聞こえているかい?」


いつのまにかリカルドさんも、はっきり目が覚めていたらしい。


その呼びかけに、お腹がぐ~っと勝手な返事をする。

私はそれを誤魔化すように、声を重ねた。


「えっと、は、はい! 聞こえます。……もしかして、話しかけて貰ってました?」

「うん、少し前からね。集中しすぎもよくないよ。おなかも鳴っているみたいだしね。これでも食べて、少し休むといい」


そういえば、朝ごはんもまだなのだった。

意識をした途端に、お腹がすいてくる。ちょうど普段ならば、朝食を何回もおかわりしている時間だ。


私はお言葉に甘えることとして、一度スキルの使用をやめる。クロワッサンを受け取ると、すぐにかじりついた。


「甘い、幸せになりますね、これ……!」


さすがの腕前だ。さくさくした食感も、ふわっとした柔らかさも兼ね備えており、バターの香りまで完璧である。

そのうえしかも、ほんのりと温かい。ということは、だ。


「もしかして、今朝焼いたものですか?」

「ばれてしまったか。まぁ僕にできるのは、これくらいだからね」


そりゃ眠くもなるわけだ。


彼は「これくらい」というが、これを焼こうと思ったら、かなり早朝から作業をしていなければ間に合わない。


私はその優しさに心を打たれながら、クロワッサンに舌鼓を打つ。


「それで、どんな薬草がポーションに向くんだい? 特徴が分かれば、僕も少しは力になれるかもしれない」


用意してもらっていた水を飲み終えたところで、彼にこう尋ねられた。

そういえばまだ、その点を伝えていなかったのだっけ。


「前に、茶にしたエルダーの花もポーションには使われるんですが、咳症状を抑えるポーションは、ブクレイっていう薬草の根から採るのが一般的ですね」

「あまり聞いたことのない薬草だね?」

「丸みを帯びた入り組んだ葉っぱと、紫の花が特徴なんです。比較的涼しくて、湿気た場所の方がとれやすいので、王都よりも北の山中で採れることが多いから耳にしないのかもしれませんね」


「……とすると、このあたりというよりは」

「そうですね。この島は湿気はありますけど本土より暑いですし、希望があるとしたら、標高の高い上流のほうが可能性は高いと思います」


とはいえ、他の環境で、まったく生息していないわけじゃない。

そのため一応確認はしてみたが、今のところ見つかる気配はなかった。


『じゃあ、おれができるだけの速さで上流の方まで走ろうか?』


その会話を聞いていたらしく、そこへミニちゃんがこう口を挟む。

頼もしい言葉だが、彼だってもう走りっぱなしだ。それに、帰り道のことも考えてもらわなきゃいけない。


「あんまり無理しないでよ?」


私はそう言うのだが、トレントにしてはまだまだ若い樹齢30年のミニちゃんだ。


『大丈夫、体力なら有り余ってるんだ。それにこの間走り回ってから、走りたくて仕方なかったし!』


気力が溢れているらしく、一気にスピードをあげる。

木々の間を縫うようにして、森を進んでいった。その勢いはすさまじく、時折あげる声だけで、魔ウサギのような小さな魔物は逃げていく。


やがて前にスファレ輝石やタケノキを採取した場所を通り過ぎた。

いつかミノトーロ達を捕まえたのもこの地点よりは南だったから、ここからは先は未知の領域だ。

川沿いを、上へとのぼっていけば、だんだんと傾斜がきつくなってくる。

森というより、山だ。


生態系も少し異なるのか、途中、これまでは見かけなかった猪型の魔物・ワイルドボアに襲われることもあった。

が、そこはリカルドさんが火属性魔法で退治してくれる。


さらには、鬱蒼とツタ植物が茂り、行く手を阻む場面もあったが……


『ねぇマーガレットさん、今こそあれが欲しいな』

「あれって、もしかして……エナベリ水?」

『うん、そう! あれを浴びると、一気に元気になれるんだよね』


念のためと、今回も持参していたエナベリ水をかけることで元気になったミニちゃんがそのツタをちぎり、かいくぐって、道を切り開いた。


「君は毎回それを持ってきているのか……」

「まぁ、元気は大事ですし! 使いすぎなければ大丈夫ですよ」


リカルドさんには少し呆れられたが、それでも奥へ奥へと進んでいく。

そうして昼頃まで走り続けたのだが、結局瘴気の原因らしきものも、薬草・ブクレイも見当たらない。


日没までに戻ることを考えれば、もう帰らなければならない時間だ。これ以上先には進めない。


が、ただの徒労だったかといえば、そんなこともない。

帰り道の途中、川辺から少し外れた地点にて、変わった場所を発見したのだ。


そこは周りから隔離されたように、開けた場所であった。

高い木々などはなく、背の低い草類の生える空間が周辺には広がっている。屋敷前ほどではないけれど、そのスペースはなかなかに広い。


「こんなことってあるんだね」

「ですね……。地形の変動でできたんでしょうか」


私とリカルドさんは驚いて、目の前に広がる野原を見わたす。


『おれも初めて見たよ。こんなところがあったんだ』


どうやらミニちゃんも、この場所のことは知らなかったようだ。


私はその場にしゃがみ、ためしに雑草を抜いてみる。

すると掘り返された土は、ほどよく水気を含んでおり、耕作に適した土をしている。


そのうえ、川もすぐそこにあるから、水を引いてくるのは容易だ。とすれば、水を多く使う作物を育てるには最適な土といえる。

そこで一つの考えが、頭に浮かんできた。


「ここを開発して、中間地点にすればいいんじゃないでしょうか。そうしたら、さらに上流にも足を延ばせます。川の上流に近づけるかも」

「……たしかに、それは考えてもいい手段かもしれないね。ここは比較的傾斜も緩やかだし、上流への足掛かりとしては最適だ」


リカルドさんも私と同じ考えを持ったらしい。


「ただもう少し、周りを確認しようか。もし危険な要素があったら、よくないからね」


が、そこですぐに決めてしまわないあたりの慎重さは異なる。

勝手にどこになにを建てようか、なんて考えていた私ははっとして、リカルドさんの後をついていくのであった。


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