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60話 誰が欠けても。(二章ラスト)

今日、リカルドさんは休養日だ。


となれば、代わりに私が全員分のご飯を用意するしかない!

持ってきたはいいが使う機会のほとんどないエプロンを巻き、私は気合十分でキッチンへと再度向かう。


すると、そこでばったり意外な人に出くわした。


「あの、マウロさん……? ここでなにを?」


寡黙な建築士である彼だ。

リカルドさんに負けず劣らず背の高い彼が、調理台の前で包丁を握ったまま、ただ立っている。


なにをするわけでもなく、ただただ立っている。


「あのー……」


と再度声をかければ、彼はこちらを振り向く。

真正面から見れば、意外なくらいに大きな瞳だ。


黒目がちで光を通さなさそうなその目は、まっすぐに私を覗きこむ。

なんだか色々と見通されているような気分になるが、逆にこちらからはなにもうかがえない。


というか、包丁を握りながらこっちをまじまじ見られるのは、さすがに怖いかも……。

カーミラさんならたぶん悲鳴をあげているところだ。


「肉を叩こうかと、思いまして」

「あ。もしかしてリカルドさんが休んでるから、料理をしてくれるつもりだったり?」

「……そのようなところでございます」


けれどその実、彼は結構心優しかったりする。

その形が少し分かりにくいだけだ。


「しかし勝手がまるで分からず、困っていたところでございます」


その状態でどうして一人で料理をしようとしていたかはともかく。みんなのために料理を作ろうとしていた心意気は、無駄にしたくない。


「私と一緒に作りましょうか。シチューなら得意なんです。どうでしょうか」

「はい、よろしくお願いいたします」


深々と頭を下げられたので、つられて私もぺこり。

そこから、手分けをして調理をはじめていく。


私が野菜担当で、お肉はマウロさんの担当だ。

カーミラさんに保存魔法をかけてもらい暗所に保管していたかぼちゃ、エンドウ豆などの収穫野菜を引っ張り出す。


私が苦戦しつつ(とくにかぼちゃに!)、それをどうにか切り終えたところで、マウロさんを見ると、


「な、なんでこんな形に……!?」


うさぎ肉がかなり小さく、細かな賽の目状に切られている。


「これであれば均一に火が入るかと思いまして」


マウロさんはそれを、こう説明する。


建築で培ってきた凝り性な部分が、乱切りのような不揃いな切り方を許さなかったのかもしれない。



ごろごろ具材の入ったシチューを勝手に想定していたから、野菜はかなり大きくカットしていた。

が、こうなった以上は、肉の大きさにできるだけ合わせる方がいい。


私はマウロさんに頼み、野菜の方を小さくカットしていく。

なかなか根気のいる作業だ。

やっていたら、カーミラさんまでもがキッチンに入ってきた。


手伝ってくれるというからお願いしていたら、


「グラタンが食べたくなってきたかも」


彼女はぼそりとそんなことをまな板に向かって呟く。


「あ、ごめん、今の忘れて」


と彼女は訂正するが、まだ修正の効く段階だ。


幸いなことに、具材は全部ある。

かなり不安ではあったが、どうせやるなら要望に応えたい、と進路変更を決める。


ミノトーロの牛乳と小麦粉、オイリオ花の油でホワイトソース作りを敢行する。手探りの中だったが、リカルドさんの置いていた料理メモに救われて、どうにか形は出来上がる。


ショートパスタを入れて煮込み、最後にチーズを溶かせば完成だ。

できあがるまでに、なんと一刻以上をも要する大作であった。


それを、リカルドさんの部下の方々も集まって一緒になっていただく。

素材がいいだけに、十分美味しい。


自分たちが作ったという努力点を加味すれば、大満足だ。


「……やっぱり、リカルドさんの料理ってすごいんですね」


だが当然だけれど、やっぱり彼には敵わない。短時間でさっと何品も作れるうえに、味まで完璧なのだから、遠く及ばないと言ったほうが適切なまである。


私の一言に、マウロさんもカーミラさんも頷く。


リカルドさんあっての開拓生活だと、改めて痛感する一日であった。



夜、起きだしてきたリカルドさんに今日の出来事を話すと、彼はひとしきり笑う。


「そんなことがあったなんてね」

「はい、本当いつもありがとうございます」

「はは、改まって言われると照れるね。でも、僕だけじゃない。みんな、誰が抜けても開拓生活はうまくいかないよ」


言われてみて、しっくりときた。


たしかに今誰かが抜けたら、色々と回らないことばかりだ。

カーミラさんがいなかったら畑作業は間に合わないし、マウロさんがいなかったら建築はお手上げ、リカルドさんの部下の方がたが狩猟をしてくれるから肉や魚が手に入る。


トレントは有事にたくさん守ってくれるし、ボキランは癒しになる。

彼らも一緒にいてこその開拓生活だ。


それを思えば、むくむくとやる気が起こってきた。


「私、みなさんのためになれるように、また頑張りますね」

「ほどほどにしてくれよ。君は既にがんばりすぎだと思うから」

「えー、そんなことないですって」


よりいい生活のため、みんなの笑顔のため。

私は再び開拓に励む決意を新たにするのであった。


皆様の応援のおかげでここまで連載できました。

ありがとうございます。引き続き、マーガレットたちの開拓物語は続いていきますので、よろしくお願い申し上げます。


たかた


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大変面白い作品になりましたので、併せてよろしくお願いいたします。
焼き捨てられた元王妃は、隣国王子に拾われて、幸せ薬師ライフを送る〜母国が崩壊? どうぞご勝手に。〜

― 新着の感想 ―
[良い点] 話が平和なのが良いですね。 悪人もあの令嬢だけですし。 [一言] 人も増えての良い流れ 開拓はまだまだ端緒、王女様の別荘出来るくらいに発展させよう!
[良い点] 俺的にはリカルドさんも癒し枠に入ると思います。
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