表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/109

59話 トレントの怪我治療

トレちゃん達の手当を行うため。

私がまず用意したのは、石鹸生成の際に使ったオイリオ花の油と、チルチル草やどくだみなど、いくつかの乾燥ハーブであった。


調理具である鍋と木べらも用意して、私はふぅっと一つ息をつく。


「なんかもう一仕事したって感じ……」


ここはもっぱら、リカルドさんの戦場である。

勝手が分からず、必要なものを揃えるだけのことに、結構な時間を要したのだ。


もう汗ばむ季節である。それに、炉に灯った火のせいもあり、結構な暑さだ。

額の汗を一つぬぐってから、私は作業を再開する。


工程は簡単だった。

オイリオ花の油にハーブをよく浸して、それを湯せんにかけて見守ってあげればいい。


と口で言うのは簡単だが、普段火まわりを一人で担当しているのも、リカルドさんだ。

私は着火用の魔石なんかも使いつつ、炉の火をどうにか強めて湯を沸かす。


暑さも湿気もなかなかのものだったがめげずにかき混ぜ続けたら、完成だ。


「うん、香りが移ってるから問題なし!」


香ばしい匂いが漂う一品だ。


食用にも使えるが、今回はそのために作ったわけじゃない。

今度は水で冷やして、ある程度固まり始めたところで瓶へと詰める。


他にいくつかのアイテムを持って、再び外へと出た。

簡易水路の作成作業にいそしむカーミラさんたちを横目にしつつ、トレちゃんの元まで歩いていく。


「トレちゃん、怪我したところ見せてもらえる?」

『大したものではない、と先に言っただろう。これくらいの怪我、なん百年も生きていたら、過去に負ったこともある。昨日ほど過酷な雨にあったのは、はじめてのことだったが』

「じゃあ、大したことないかどうかも分からないじゃない」

『…………とにかく心配は無用だ』


うーん、妙なところで意地になってしまっているみたいだ。


はじめて出会ったとき、魔ネズミにかじられていたときは、素直に頼ってくれた。

それを思えば仲間になったことで、弱いところを見せまいとしているのかもしれない。


こうなったら、一計を打つしかない。


「じゃあトレちゃん、大丈夫なんだね」

『うむ、まったく問題はない』

「なら私を持ち上げてもらえる? 高いところから屋敷をみたいの」

『任せておくといい』


トレちゃんが、枝の何本かを私の腰に巻き付けて、私を持ち上げる。


『ほら、見たであろう。マーガレット嬢、一人くらい軽いものよ。嵐一つに負けていては、数百年は生きられぬ』


得意そうに葉をざわざわ揺らす彼を横に置いて、私は彼の身体をじろじろと観察する。

どうやら、怪我をしているのは反対の肩口から伸びた枝らしい。


見るのも痛々しいくらい、完全に太い枝の一つが千切れてしまっていた。繊維がむき出しになっている。


「ごめん、やっぱり左肩がいいなぁ」

『すぐに移動させてやろう』


私の意図も知らず調子づいた彼は、私をすぐに反対の肩へと移動させる。

またしても満足げなトレちゃんをよそに、私は座ったまま手で横移動して、傷口へと近づいた。


『……って、マーガレット嬢なにをしている?』


トレちゃんが気づいた頃にはもう遅い。

刷毛を使って、作ってきたハーブオイルを傷口に塗りこんでいく。


「やっぱり大けがじゃない。こんなにはっきりと折れたときは、ちゃんと折れたところの処理をしないといけないの。傷口に油を塗って置けば、菌が入らなくなる。それに、殺菌効果のあるドクダミも混ぜてあるから安心よ」

『……それが狙いだったのか』

「ふふ、まぁね。こういうのは、すぐの処置が大切だから。あんまり動かさないでよ、落ちちゃうから」


渋々だが、トレちゃんは私の処置を受け入れてくれる。

最後に布を巻き付けて保護したら、処置完了だ。


「次からは隠さずにちゃんと言う事。いい?」

『……分かった。善処しよう』

「それ、やらない時の言葉じゃん!」


和やかな(?)やり取りを交わしつつ、私はトレちゃんの肩から畑と屋敷を見下ろす。


風も吹いていて、木陰でもあり、気持ちがいい。

本当に暑い時期は、こうやってトレちゃんで涼を取るのもいいかも? なんて思っていて、はっとする。


いつのまにか太陽が頂点に近い位置にいる。

もう昼ご飯の時間だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【大告知】
本作、2巻が発売されています!
MFブックス様からの2月下旬の発売となりますので、ぜひに✨!画像がMFブックス様へのリンクになっております。
322411000126_01.webp 【ついで告知】 新連載はじめました!
大変面白い作品になりましたので、併せてよろしくお願いいたします。
焼き捨てられた元王妃は、隣国王子に拾われて、幸せ薬師ライフを送る〜母国が崩壊? どうぞご勝手に。〜

― 新着の感想 ―
[良い点] マーガレットの知識は無限なのね。すごすぎる。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ