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58話 嵐の後始末


もう九の刻が近い時間だった。

朝食を取り終えた私は、すぐに外へと出る。



すっかりと空は晴れあがっていて、半分のぼった太陽がさんさんと輝く。


昨日の嵐は嘘のような晴天具合だ。

だが、畑に目をやればオムニキジの襲来を受けた時の比ではないくらい荒れている。


なにより甚大だったのは、水による被害だ。

まるで池みたいに、畑には水が浮いていた。


ここの土は、水はけが悪くないが、抜群に良い訳でもない。

さすがにあれだけの雨量は、受け止めきれなかったのだろうか。私が一人分析していたら、


「もう、全然抜けないし!! なんなのよ、これ」

「……わ、我々に言われましても」


その中心から甲高い声がする。


どうやらカーミラさんがバケツを使って排水を試みてくれているようだった。それを、リカルドさんの部下の方々が手伝っている。


しかし、成果の具合は芳しいとは言えない。

何度も往復していて、それだけでも疲れてしまいそうだ。


「水抜きなら、もっといい方法がありますよ!」


私は、水の溜まっていない箇所を見定めるため、地面に目を落としながら、跳ぶようにして彼らの元まで移動する。

辿り着いて顔を上げてみれば、カーミラさんはなぜか涙目だ。


「え」と言ったそばから、がばり抱き着かれる。


「え、じゃないわよ。やっと起きたのね。本当によかった……!」


突然の抱擁に、私は戸惑いを隠せない。ぐずぐずと鼻を鳴らす彼女を受け止めつつ、部下の方々が耳打ちするには、


「昨日の夜からずっとこの調子だったんです。今も、ただ待ってるだけじゃ落ち着かないからって作業をしていて……」


とのこと。

リカルドさんだけではなく彼女にも、よほど心配をかけてしまったらしい。


「ちょっと寝すぎでしたね、私」

「本当よ。とんだ大寝坊よ」


言葉面はきついけれど、それでも思いは伝わってくる。

うんうんと頷きながら、私は彼女の背を撫でやった。


そうして、しばらく。

やっと落ち着いてくれたところで、寝坊した分を取り返すためにも、私は改めて提案する。


「周りに水路を作ってあげれば、水はすぐに抜けますよ」

「……水路って言うと水の通り道?」

「そうです! 畑から海の方へ流れるように作ればいいんです」


口で言うだけでは伝わらないかもしれない。

私はスコップを借りて、水たまりの淵を削り落とす。すると、そこからあふれた水は、作られた傾きに沿って流れ出ていった。


「たしかにこれを海側の林の方まで作れば……」

「はい、流れ出ていくはずですよ。若干ですけど、岸の方とこの屋敷では高低差がありますからね」


もちろん少し堀った程度でできるのは、あくまで簡易的なものだ。

昨日のような豪雨が降る可能性が分かった以上、本格的な水路を作ることも考えていかなくてはならないが、とりあえずの応急処置にはなるはずだ。


「どうでしょう?」

「やってみるわ、それ。いちいち水を捨てに行くよりは、よっぽどましだし」

「えぇ、やりましょう、すぐに!」


よっぽど、水を汲んでは捨てる作業に嫌気がさしていたらしい。

カーミラさんもリカルドさんの部下の方々も、さっそくスコップや鍬を手に取る。


が、水を含んで柔らかくなりすぎた土は、掘るのは簡単でも崩れやすくて扱いにくい。苦戦していたところへ、


『わたしたちがやろうか? すぐに終わる』


こんな声が上から降ってきた。

高いところから声をかけてきたのは、トレちゃんだ。


私は彼を見上げて、首を横に振る。


「あなたたちは、お休み! 怪我してるんだから」

『大したものではない。マーガレット嬢らの役に立てるのであれば、それが一番だ』

「なに言ってるの。屋敷を守ってくれた時点で、もう十分役に立ってもらったよ。だから、今はとにかく安静にしてるの。分かった?」

『そう言うならば構わないが……』


リカルドさんに聞いていたとおり、全員命に別条はないようだった。


が、地面に落ちた枝葉の量から見るに、決して無事ではない。

みな、多かれ少なかれ傷ついている。


そのなかでもトレちゃん自身が、もっとも大きなけがを負っているのだ。

隠しているのか、折れた箇所は見えないが、いずれにしても今は安静にして、治療に専念してもらわなくてはならない。


私はカーミラさんにこの場をお願いして、一度屋敷へと戻る。

そうして向かったのは、厨房であった。



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焼き捨てられた元王妃は、隣国王子に拾われて、幸せ薬師ライフを送る〜母国が崩壊? どうぞご勝手に。〜

― 新着の感想 ―
[良い点] カーミラ、かわいい。 マーガレットがいつ自分の能力に気づくのか気になる。
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