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56話 【side:リカルド】嵐が去って。

普通では考えられないような出来事が、目前では起こっていた。

嵐の日に起きたそれは、まさに奇跡だ。


「雨が上がっている」


リカルド・アレッシは半ば呆然として、そう呟く。


と言うのも、ほんの少し前まで外は嵐に見舞われていたのだ。

その勢いはとにかく苛烈で、強い風が屋敷全体を揺らし、溜まった雨は屋敷の玄関を水浸しにするほど。

リカルドにとっても、この季節に島で過ごすのははじめてのことだったから、かなりの恐怖を覚えるものだった。


どう考えても、しばらくやみそうにもなかった。


なかったはずなのだ、すくなくとも。

だが今、窓の外に広がるのは雲ひとつない夕空である。雨が降っていたことさえ疑わしくなるような快晴だ。


これが奇跡でなくて、なにだろう。

神が味方した――そうとしか言えないような展開だった。


しかしそれはたぶん、日頃の信心が生んだわけじゃない。


「マーガレットくんがやったんだよな……」


リカルドは、窓のへりに手をつき、背後のベッドへと目をやる。

そこに横たわるのは、奇跡を起こしただろうその人、マーガレット・モーアだ。


謎の魔法を使いながら気を失うようにして倒れた彼女だったが、その原因は単に魔力切れだったらしい。

今は軽い寝息を立てて、すやすやと眠り込んでいる。


その安らかな寝顔に心底ほっとする。

彼女が倒れた時は、カーミラやマウロに落ち着くよう諭されるくらい取り乱してしまったから、なおさらだ。

何度名前を呼んだことか分からない。


その後、寝ているだけだと気づき、どこかへ運ぼうとしたが、勝手に彼女の部屋に入るわけにもいかなかった。


そこで空き部屋のベッドに運び込んだのが、ついさっきである。

やっと落ち着き、ふと外を見れば空はすっかりと晴れあがっていた。


「あたし、見ました」


と、口を開いたのは、マーガレットの横たわるベッドのすぐ脇に椅子を寄せて座っていたカーミラだ。

あまり大人数で集まって、マーガレットの睡眠を邪魔するわけにはいかない。

そのため部下たちは部屋へ返して、ボキランには外へと出てもらったのだが彼女とマウロはその場に残っていた。


窓際に立つリカルドを見上げるカーミラの表情は、少しだけ険しい。


「リカルド様は、マーガレットを見ていて、気付かなかったかもしれません。でも、マーガレットが倒れる直前、空が割れたの……」

「空が割れた……?」

「はい。雲はその割れ目から破れるようにして、消えていきました。あなたも少しは見たでしょう、マウロ」


彼女が同意を求めたのに、部屋の隅に立っていたマウロは首を縦に振る。


「えぇ、たしかにそのように見受けました。マーガレット様の魔法に反応した結果以外には考えづらいかと存じます」


二人の証言は、ぴたりと一致していた。

どうやらマーガレットがこの状況を作り出したのは、間違いないらしい。


だとすれば、とんでもない事実だ。


草をむしれるとか、植物の特徴が分かるとか、マーガレットの力や知識は、それだけでも十分特異で有用性が高かった。もし彼女の力添えがなければ開拓なんて、いまだに一つも進んでいなかったに違いない。


だが、『天候を操れる』なんていうのは、これまでの能力と比べても、次元が数段異なる。

島一つどころじゃない、大国一つさえ動かせそうな規模の話だ。


天候は作物の豊作・凶作を左右し、収穫量はそのまま国力になる。

そう考えれば、彼女の力は世界中で欲しがられる力に違いない。


リカルドはつい皺の寄る眉間に、指を当てる。


「二人とも、このことは他の誰かにも、マーガレットくんにも秘密にしてもらえないかな」


悩んだ末に出した結論が、これだった。

この能力があることにより、マーガレットが得られるだろう利益と、反対に被るであろう危険。

その二つを天秤にかければ、危険の方が明らかに重い。


ならば今できる最善は、見なかったふりをすることだろう。



もちろん、自分のエゴが一切なかったとは言えない。


リカルドにしてみれば、天候が操れる能力なんて、どうでもよかった。

ただ個人的な思いとして、この先もマーガレットとともに、この場所で同じ時間を過ごしていたい気持ちは当然にあって、それは少なからず結論に影響を与えた。


マーガレットのためと言いつつ、自分のためじゃないかと言われたら、白を主張できるか怪しい。


そこを指摘されれば、痛い話ではあったし、反論されるかとも思ったのだけれど、二人はなにか聞き返してくるようなこともなく、肯定してくれた。


それがこの場でもっとも立場の高い人間である自分への気遣いからくるものだったとしても、今のリカルドにはそれでよかった。


「ありがとう。部下たちには、あとで僕から言っておくよ」


これでいい。


今日の嵐は自然の悪戯だった。突然にやってきて、突然にどこかへと消えていった。そういうことにしておけばいい。


そうすれば、また明日から平穏な日々が返ってくる。


「さて、外の様子を見に行こうか。怪我をしたトレントもいる。それに、ミノトーロ達も心配だ。それに、マーガレットくんもそっとしておきたいしね」


リカルドは切り替えるため、務めて笑顔を見せて首を傾げる。

そうして二人を、部屋の外へと促したのであった。



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焼き捨てられた元王妃は、隣国王子に拾われて、幸せ薬師ライフを送る〜母国が崩壊? どうぞご勝手に。〜

― 新着の感想 ―
[良い点] リカルド先輩カッコ良すぎる
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