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52話 はじめての共同作業(ある意味)

私は、荒い石が転がる河川敷を慎重に歩きながら、スキルを使って足元に目を凝らす。

そして一つ、飛び抜けて大きな岩を見つけた。


大きさにして、私の身体くらいはあった。

到底このままでは持って帰れそうにもない大物だ。だからといって、この大きさともなれば、この小さなハンマーでは砕けまい。


「これ、大部分がスファレ輝石です。でも、こんなのどうしようもないですよね……」


私が近くにいたマウロさんにそう言えば、彼は作業の手を止めて、こちらへとやってくる。


「俺がやってみましょう。少し離れていてください。かけらが飛びます」


そう言ったすぐあと、彼はいくつかの道具を近くの岩場に置く。

そこへ彼が手を当てるとそこには、二回りほど大きくなったハンマーとたがねが現れていた。


「それって…………」

「魔道具でございます。俺のスキルは【構築】。この工具は、もともと魔石を組み込んで構築した魔道具なので、魔力を流せば分解することも組み上げることもできます。

 その程度ではあるのですが」


なんだかあっさりと言うが、十分にすごい。

【構築】のスキルは、国全体で見ても持っている人が少ないと言われる希少なスキルだ。


「魔道具を作ったりできたりするのに向いているんですよね、たしか。

 スキルを使いこなせるようになっていけば、構造を把握できていれば、手を加えなくても組み立てられとか! 小さい頃、憧れたスキルです」

「……まぁ、一般的にはそうかもしれませんね。このスキルの所持者は、魔法具士になる人もおりますが、俺の場合は家業が建築関係でしたから。もっぱら建築のために使っております」


マウロさんらしい一途で真面目な理由だ。

もし私ならもっと色んなものに使えないだろうかと、わき道にそれるのを繰り返していると思う。


たとえばオリジナルの魔導具が作れたりして……?

なんて私が勝手な妄想を膨らませていたら、そのうちに、岩にたがねを当てて、ハンマーでたたきはじめていた。


物が大きくなるだけで、さっきまではちまちまとした作業に思えていたものが、結構豪快に見える。

たがねの打たれる音が響くのにつられてか、リカルドさんもこちらへやってきて、私とともにマウロさんを少し離れから見守る。


が、びくともしない。やはり大きすぎるらしい。


そんなマウロさんを見守りながら、ふと気づいて、私はスキルを使う。

改めてスファレ輝石の説明を見てみると、


「……スファレ輝石は熱してから急速に冷やすと、割れやすくなるんですって!」


そこには大きなヒントがあった。


「そういうことなら、僕らでやれそうだね?」

「はい、お願いします、リカルドさん!」

「はは。ここまで大きなものを燃やすことなんてそうないけど、君に頼られて、失敗するわけにはいかないね。二人とも、少し離れていてくれ」


リカルドさんはそう言うと岩に近づき、短く息を吐くと、手を触れる。

すぐあと、岩全体を包み込むように火が起こった。


かなりの勢い、そして温度だ。近くにいるだけでも、汗が垂れてくるような熱気に包まれる。

その中心にいるだろうリカルドさんはもっと暑いだろうに、必死に魔法を持続させて、やがて石は煙をあげるほど十分に熱せられる。


そうしたら今度は、私の番だ。


水を一気に放出して、岩を急速に冷やしていく。こうして少し離れたところからでも届くようになったあたり、かなり使い勝手が良くなっていた。


しっかりと冷えたようで、その岩は猛烈な勢いを持って湯気をあげはじめる。


「マウロさん、今です!」


そうしたら仕上げは、マウロさんだ。

ハンマーを勢いよく、岩へと振り下ろす。


さすがは建築士だ。よく見てみなくともがっしりとした体つきをしている彼の一撃は力強く、岩には徐々にヒビが入っていく。


そしてついに、ガシャリと音が鳴り、細かく崩れた。


黒っぽくすすけた岩の表面が割れて、中から出てきたのは、魔石と呼ばれるのにふさわしい翡翠色の輝きだ。思わず、笑みが浮かんでくる。


「やりましたね!」

「あぁ、うまくいってよかったよ」


私はまずそばにいたリカルドさんと頭の上で手を合わせる。

それから、こちらへと下がってきたマウロさんにも手を向けた。


「完璧な連携でしたね! これで少しは連携する大切さがわかりました?」

「…………俺はただ、最後に割っただけなので」

「それが十分な貢献なんですよ! 経験者じゃないと、あんなに大きな岩を割るのは結構勇気がいりますし、大変なことです」


スルーされてもかまわない。

そう決めていたから、会話の間も私はしばらく手をあげっぱなしにする。


とはいえ、そろそろ攣りそうな予感……! 筋肉がぴくつく感覚に、私がそろりと手を下ろしかけた時だ。


マウロさんは、手を合わせてくれた。

とはいえ、ほんのすこしの間だけだ。しかも冷静な態度はいっさい変えないままだったから、私はしばらく状況把握ができずに固まる。そして、あえなく攣る。


「……なにか、まずいことをしましたでしょうか」

「い、いえ! ただ驚いただけです! ありがとうございます!」


混乱しすぎたせい、張った腕を伸ばしながら、なぜか再びお礼を言ってしまった。



まぁでも共同作業をしたのには変わりないし、大きな進歩だ。




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