48話 焚き木も、即席茶会もお手のもの。
マウロさんは、ひどく弱った状態であった。
身体が芯から冷え切っているらしく、唇は真っ青。
震えがとまらないようで、ずっと膝を抱え込んだままだ。
「どうしてここに……?」
と問う声も、わなわなと震えている。
「朝からマウロさんの姿がないのにカーミラさんがきづいて、探しに来たんですよ。いいから、まずはゆっくりしてくださいな」
このまま連れて帰るわけにはいかなさそうだった。
なにせかなりの時間をかけて、ここまでやってきた。帰るにもそれなりの労力を要するのは間違いない。
途中で疲労感が限界を迎えてしまうのは最も避けたい。
「戻るのは、この河川敷で少し休んでからにしようか」
「そうですね。じゃあ、少し季節外れですけど、焚き火でもしましょうか。暖を取れますし、服もすぐ乾きますよ」
「たしかに、それはいい案だね。僕たちやトレントにもいい休息になる。えっと、なにからすればいいかな」
「とりあえず、薪探しに行きましょう。代わりになるものは、そのあたりに落ちていると思いますし」
私は、マウロさんの様子を見ていてもらうようミニちゃんたちにお願いをする。
そうしてリカルドさんと二人、川辺で流木や石などを拾い集めた。
同時に、野草の採取も行う。
最後には、崖からせり出すように生えていた比較的若いタケノキの一本をリカルドさんの剣によって切り落としてもらった。
「これも焚き木に使うのかい?」
「いえ、コップ代わりに使おうかと思いまして。
このタケノキは中が空洞なんです。それに耐火性もあるので、直火で炙っても中から水が漏れだしたりしません。天然の水瓶にもなるそうですよ」
「そうなのか。というか、火にもかけられるならガラスの瓶より優秀なくらいだな……」
こうして、必要な素材を集めたのち、私たちはマウロさんの元に戻る。
石を下に敷き、その上に木々を乗せたらリカルドさんの魔法スキルによって火をつけてもらった。
くわえてミニちゃん達トレントに風を起こしてもらったら無事、安定的に火が灯る。
そのうえで私はタケノキで作った三つの筒に、川の澄んだ水を汲んだ。森の中にあるだけあって、その清らかさは確からしい。
それを火にかけて沸かしているうちに、大きな石の上ですりつぶすのは、エルダー花の花弁である。おしべやめしべが外へ開くようについており、まるで黄色の蝶みたいに見えるのがその特徴だ。
「また、見たことのない野草だね?」
「これなら本土にもありますよ。もっとも、ポーションの中に入ってたりしてるので、原型はありませんけど。
昔から薬草だって言われているんですよ。花をすりつぶして湯に溶かせば薬膳茶、根や茎はポーションの原料にもなります。身体を温める効果と、殺菌効果があるんです」
そのため体調が悪かったりする時があったら採取してきて飲むのが、うちの家では定番になっていた。
少し山にいけば手に入るから、お金がないときの治療法としてはぴったりだった。ポーションのようにすぐに効果を発揮するものではないが、安価かつ健康的だ。
ただ本来なら、秋ごろに花をつける種である。
この時期に花をつけているのは違和感もあったのだけれど……今は気にしてもしょうがない。
「お熱いので、ゆっくり飲んでくださいね」
「……ありがとうございます。痛み入ります」
十分に冷ましてから、私は隣のマウロさんに、そのエルダーティーを手渡す。
火にあたって、やっと身体の震えが収まったらしいマウロさんはそれを受け取ると、ゆっくり飲み始めた。
それを確認して、彼の両脇にいた私とリカルドさんも一口。
甘くフルーティーな香りに鼻腔が包まれる。タケノキの青い匂いも混じって心地いい。
思わずほっと一息ついた。
それが三人分重なって、私とリカルドさんは目を合わせて笑う。
が、マウロさんはあくまで表情を変えない。一人、背をまっすぐに伸ばして、目を瞑っていた。
それを眺めていたら、そのタイミングでマウロさんが目を開いて、うっかり視線が合う。
「えっと、マウロさんはどうしてここに?」
私は気まずさから逃げるようにこう尋ねた。
どちらにせよ、聞いておきたい話であったためだ。