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46話 崖下りもなんのその?

このあたりの地形は完璧に把握しているらしい。

いい調子で進んでいたのだが、彼らが止まったのは、コケの生い茂る森の一角。

ほかに目につくものといえば、大きすぎる樹木くらい。もちろん、マウロさんに繋がる手掛かりなどもない。


『ごめん、ボクたちがその人を見たのはこの場所なんだよね……。ここから先は分からないや』


ボキランはそう謝って、申し訳なさそうに葉を垂らす。

私は近づいてきた彼の頭を撫でて、礼を述べた。


「ううん、むしろ助かったよ。ここまでありがとうね。随分案内してもらっちゃった。群れから離れて大丈夫なの?」

『それは平気! そもそもボクらは群れでも、単体でも生きていけるんだ。自由がモットーだから。それより、ねぇお姉さん。次会ったら、また遊んでくれる?』


……なんて可愛いのだろう。

植物魔というより、近所のこどもみたいだ。私はその幼気さに胸を打たれながら、何度も何度も頷く。


「うん、また遊びましょう? そのときは、いきなりは仕掛けてこないでね?」

『えー、どうしよっかなぁ……なーんて。お姉さんが困らないようにするよ♪』


ボキランは歌うようにそう言って、元の道を引き返していった。

私がその背中(といって、前から見ても後ろから見ても葉っぱの塊だけど)を見送っていたら、リカルドさんが目を瞑って、なにやら耳を澄ませている。


集中している様子だったから、頃合いを見て、私は尋ねる。


「リカルドさん。どうされたんです?」

「……水の音がしたんだ。あちらの方からね」

「水、ですか」


そう言われて私も耳を澄ませてみた。


が、私の耳はリカルドさんの耳ほどさとくはない。そう言われれば、水音のような気がしないでもないくらいの感覚である。


彼はバイオリンをたしなんでいることもあり、とにかく優れた聴覚を持っているのだ。


どこかに小川でもあるのだろうか、と考えて私はふと思い出す。


「……そういえば、前に石英を持って帰った時。マウロさんが言ってました。川があるから『スファレ輝石も必ずある』って……!」

「本当かい? じゃあ、マウロ君はそれを一人で探しに行ったってことになるのかな」

「ありえますね、それ。なんでも一人でやりたがるのがマウロさんですし……自分で採集しないと気が済まなかったのかも」

「考えたくないけど、想像はつくね、それ」


そこまで言うと、リカルドさんは耳に手を当ててまた目を瞑る。


「こっちだよ。すまないトレントくん、あっちに向かってくれるかな」


それから、トレントにそう指示を出した。


今は彼の聴覚を信じるほかない。私たちはそれに従う形で、苔生す森を奥へと進んでいく。

そうして、しばらく。


はじめはおぼろげだった水音は、だんだんはっきりと耳に聞こえるようになっていた。


そして、ついに川を見つける。

がしかし、たどり着いたわけではない。


「……こんなところに深い谷があったなんて」

「あぁ僕も知らなかったよ。マウロ君は、こんなところを下ったのか……? いや、彼ならやりかねない気もするが」

「そうですね……。石の採取のためなら、なにをしてても不思議じゃないかも」


崖の下にほんの少し、その川辺が見える程度の距離感であった。

たどり着こうと思ったら、鬱蒼としげる植物たちの生い茂る崖を越えていかなければならない。


中にはこれまで見たことがなかったが、タケノキという、葉が細長く刃物のように切れる植物もあるのは、【開墾】スキルで確認できた。

しかも不穏なのは、その白の花が咲いていることだ。


スキルの説明によれば、『タケノキの花は百年に一度しか咲かず、咲けば、よからぬ事態が起きるとされる』とのこと。


それも考慮すれば、生身では下るのはためらわれる。


私たちは怖気づくのだけれど、トレント達は違った。


「え、ちょっとミニちゃん!?」

『大丈夫、ここはぼくたちに任せてよ』


ミニちゃんは躊躇なく、その崖を下り始める。

かなりの傾斜だ。もしかしたら放り出されるかも、と私は身を固くするのだけれど、


「って、あれ、安定してる……」

『トレントは根を自在にいろんな場所に張ることができるんだ。岩場ならともかく、地面に土があれば、問題ないよ。タケノキは避けていけばいいでしょ』


どうやらトレントたちには、なんてことのない場所だったらしい。

人間なら滑り落ちるほかなさそうな斜面をすいすいと移動していく。


下を覗きこめば、かなりの高さだ。

落下したらと思うと、腰が浮遊している感覚に襲われるけれど……


ミニちゃんに抱えてもらっていることによる安心感もあったから、ちょうどいいスリル感だ。

これはトレントブランコと並んで、刺激的な遊びの一つになるかもしれない。


「ま、マーガレット君……! これは、かなり恐ろしいな」

「そうですか? 考えようによっては結構楽しいですよ! それ、ミニちゃん頑張れ~!」


リカルドさんは、苦手な類らしい。声を震わせて、身を縮めている。


「ちょっと、待つんだ、いや、やっぱりこんなところで止まらないで一思いに……って、あまり急がないでくれ!」


あきらかに普段にはない、うろたえ方であった。

決して落ちないと思えば、そんな姿もまた面白い。


おかげで私にとっては、川辺にたどり着くまでがあっという間に感じられた。




ついに日間ランキング表紙から落ちてしまいましたが、これからも頑張ります。

引き続きよろしくお願いします!

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