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42話 歩道づくり。

煉瓦による壁づくりは、さまざまな工程から成り立つ。


粘土質の土と、砕いた石英・長石などを固め、天日干しにかけるなど、いくつかの加工を施して煉瓦を作ったら、それを積み上げて石灰で固めていく。


だいたいそんな流れであることはマウロさんから聞かされていたのだけれど、私たちが作業において、なにか手を貸すことは一度もなかった。


「これは専門的な知識が必要ですので」


と、一切関わらせてくれないのだ。


たしかに、分からない部分も多いけれど、少なくとも煉瓦を積むことくらいは手伝える範囲の話だ。

が、それさえも彼は一人で行うと言って聞かない。


「……全然進まないわね」


カーミラさんが庭作業の合間に言う通り、進みが悪かった。


計画から2週ほどが過ぎていたが、まだほんの一区画分に煉瓦が積み置かれているだけであった。

たしかにこれでは、いつになったら完成するのやらという状態である。


このままでは、そのうちにまた魔物の襲撃を受けないとも限らない。

そこで、一つ閃いた。なにも防御方法を魔法壁だけに頼る必要はないのだ。


「カーミラさん、畑の両脇に砂利道を作りませんか? 歩道として使う部分の脇に、砂利を敷くんです」

「砂利? そんなの作ってどうなるの」

「人間なら、どこが歩道なのか分かりますけど、トレちゃんたちみたいな賢い種を除けば、魔物たちにその違いは分からないはず。砂利道も歩道も、彼らにとっては同じ道です。

だったら、砂利道にだけなにか罠をしかけておけば――――」

「魔物だけが引っかかる、ってことね。いいかもしれないわね、それ」


うん、理解が早くて本当に助かる。

私はさっそく詳細な流れを説明して、リカルドさんにも了承を得たうえで作業に取り掛かる。


まず必要な作業はといえば、除草、つまりは草むしり。


カーミラさんやリカルドさんの部下の方々が、海辺から砂利や、小石、貝殻の採取をしてくれている間に、私は伸び始めていた雑草を次々とむしっていった。

やはり生命力の塊だ。一度抜いただけではこうしてまた生えてくるから、定期的に対処をしてやらねばならない。


……これがまた、かなり楽しかった。

一心不乱に作業をして、畑の周囲の草を抜いて回っているうち、すでに日が暮れていた。


「君が最初来た時のことを思いだすよ。それにしても、よく働くね」


なんてリカルドさんに苦笑されてしまう。


これじゃあ、マウロさんのことをどうこう言えない。やはり、やりたいことをしている時というのは、多少なり周りが見えなくなるものなのだ。


それに、まだ彼には言えないけれど、他にも元気な理由はある。

まだ体力が残っていると判断した私は、作業を続ける。そして、すべての草をその日中に抜ききったのであった。



さて、翌日。

準備を整えた私が翌日以降に取り掛かったのは、縁取りである。


砂利を敷いた状態で高さが同じになるよう、歩道となる部分の両サイドを少し掘り返していくのである。


『わたしたちに任せておくがいい。移動して、新しい場所に根を埋められるのがトレントだ』


ここは、トレちゃんたちにお願いして手を抜かせてもらった。


「さすがね、トレちゃん。やっぱり頼りになる!」

『毎朝の体操のおかげで、身体のなまりが解消されたおかげだ、マーガレット嬢。感謝はこちらが述べたい』


彼らがその逞しい根により土を掘り返し、除けた土を両脇に固めれば、あっという間に道の原型が完成だ。

王城の庭で砂利道を作ったときは、数人程度でこの作業をやったから、山ほど時間がかかったっけ。


それを思えば、時短効果はかなりのものだ。


あとは、脇道に砂利を敷き詰めれば、とりあえずの基礎は完成だ。

煉瓦や自然石をうまく使ったりすれば、見た目にこだわることもできる。


そしてその点においては私もカーミラさんも、かなりのこだわりがあった。


「道の脇は煉瓦で固めて、そこを区切りに砂利道と歩道に分けましょうか! それで砂利道の上には、コスモスみたいなお花を植えて、楽しめるようにするのはどうでしょう」

「それ、すごくいいわ、マーガレット。あ、じゃあ木製の柵があるともっとよさそうね。デザインはあたしに任せて」

「たしかにおしゃれですね、それ! あと歩道に薄く切った木を埋めるのもいいですよ。小径って感じの仕上がりになります」


どうせ作るなら、実用性だけではなく見た目にもこだわりたい。


そうして私たちは相談を重ね、庭作業の合間には砂利に使う小石や、砂利道と歩道とを区切るための大きな石などを拾いにでかける。

落木を拾ったりもしたのだが、そこでは私の植物の状態を確認するスキルと、カーミラさんの【保持】スキルが生きた。


腐りにくく、ほどよい大きさの木を拾ってきて、簡単に加工をする。

そうして一週間もしないうちに、砂利道はある程度の原型ができあがっていた。


「……こんなに早く道ができるなんてね。見た目も随分と華やかになったね」


リカルドさんも驚くほどの出来映えだ。

作った私自身、結構いい雰囲気が出ているのではなかろうかと思う。


これぞ、海の町にある庭園といった雰囲気だ。

花々を植えるのはまだこれからだけれど、現時点でもう開放的で、つい深呼吸をしたくなるような空間に仕上がっている。


「ここで、バイオリンを弾くのなら、より気持ちがいいかもしれないね」


そこへリカルドさんが魅せられたように近づいていき……


「り、リカルドさん! そこは……! 耳を塞いでください、早く!」

「え?」


そして、砂利道へと足を踏み入れてしまった。


彼がわけもわからず両手で耳を押さえた少しののち、パンッ!!! と強く大きな音が鳴り渡る。


これこそが、本来の目的である防御用の『罠』だった。

普段使っていて私たちが踏み入れないと想定している砂利道には、例のラプラプ草を抜いて編み、カーミラさんに【保持】スキルをかけてもらった網状の罠を下に敷いたのだ。


これで踏み入れたら、破裂音が鳴る仕組みになっていた。

今回はその罠が作動してしまったことになる。


「…………あ、危なかったよ。耳をふさいでなかったらと思うと恐ろしいな」


リカルドさんは胸に手を当てたまま、数歩後退していく。

そこで、大きく深呼吸をしていた。耳が敏感な彼には、強すぎる刺激だったかもしれない。


なにせ、それまではまったく素知らぬ様子で作業をしていたマウロさんまで、こちらを覗きに来るほどの衝撃音だ。


「すいません。完成したときには、ここも大きな石で区切って、境目を設ける予定ですから安心してください」

「……そうか、うん、ぜひともお願いするよ」


かなりの真剣みでもって、こうお願いされたのであった。




ついに月間ファンタジーランキング一位になりました〜!!

みなさまの応援のおかげです。

ありがとうございます。

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