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41話 蛇くらいなんてことない。

無事に石英の欠片を回収して、屋敷まで戻る。

スファレ輝石は今回の探索では見つけられなかったけれど、それはまだ先でもいい。一部の煉瓦に埋められればそれで十分なのだ。


つまりきっちりと成果をあげたわけなので気分よく帰ってきたのだけれど、畑ではなぜか剣呑な雰囲気が流れていた。


「あなたねぇ、自分だけがよければそれでいいわけ?」

「……そうじゃないが」

「そうなら、なんで手も貸してくれないの」

「……俺の仕事じゃないからだ」


カーミラさんと、マウロさんがなにやら言い争いをしているのだ。

まぁというより、カーミラさんが一方的にヒートアップしている、といったほうが正しいかもしれない。


「まぁ、水と油の関係であることはわかってたけどね」

「そうですね……って、リカルドさん! 見物している場合じゃないですよ。とりあえず、止めましょう?」


とにかく、と私は二人の間に割って入る。

とくに気が高ぶっている様子のカーミラさんをなだめたのち、互いの言い分を聞いてみれば、


「畑に大蛇が出たの。だから、それを払ってくれるようにマウロにお願いしたら断られたの。普通にありえなくない?」


カーミラさんはこう訴えて、


「……だが、蛇は俺の管轄外だ。俺には建築しかできない」


それをマウロさんがあっさりと否定する。


二人の意見は、真っ向から食い違っていた。まるで矛と盾だ。

しかも、どちらも自分の主張を曲げる気はなさそうときている。


たしかにこれでは、話が平行線をたどるわけだ。


どうしたものだろう。

一見すると、マウロさんが薄情にも思えるけれど、たしかに間違ったことを言っているわけではないし……と私が思っていたら、


「まぁ、二人とも。とりあえず落ち着くといいよ。帰ってミルクティでも飲むかい? 少し疲れただろうしね」


そこへ、リカルドさんが微笑しながら人差し指をたてて提案する。


基本的に争いを好まない彼らしい、平和的な解決法だ。

たしかにどちらが間違っているとも断じきれないから今回はそれが最適かもしれない。


「…………飲ませてもらいます」


この場ではもっとも地位が高い、リカルドさんが言ったこともあろう。

カーミラさんは渋々といった様子ながら引き下がるのだけれど、


「いや、俺は遠慮しておきます。時間がとられて、仕事が進んでいませんので」


マウロさんの方はといえば、きっぱり真顔でこう残して牛舎の方へと戻っていく。

たしかにオンボロ牛舎の補強を彼には頼んでいたが、そんなに急ぐような話でもない。


私たち三人は唖然とするのだが、そんなことはお構いなしだった。


さすがにとげのある発言だった。

カーミラさんは、拳を握って腕を振るわせる。


「ちょ、やめておきましょう、カーミラさん!」

「今の言い方、あいつ飄々としてるけど、絶対根に持ってるでしょ!」


私がそれを制止していると、マウロさんの歩みが止まった。

まさかなにか言い返してくるのだろうかと思えば、違った。方向を変えて向かったのは、私たちが取ってきたばかりの石英岩を砕いて細かくした石のもとだ。


袋を開けて、塊を取り出すと、まじまじと眺め始める。


その行動にあっけに取られたのか、


「なんなの、ほんと……」


カーミラさんは少し落ち着いてくれたようだった。


そこで、私はリカルドさんにアイコンタクトを送る。

正しく意図が伝わったようで、一つ頷いた彼はカーミラさんを連れて、屋敷へと戻っていってくれた。


私はその間に、マウロさんの隣まで行く。


「その石英がどうかしましたか」


と話しかけた。

そもそもは強固な煉瓦づくりに、石英が必要だと教えてくれたのは彼だ。

もしかすると、なにか違う種類のものだったろうかと思ったのだが、


「いい石だなと思っただけでございます。綺麗な白色をしていて、石英としてかなり質がいい。これなら、いい煉瓦が作れるかもしれません」


むしろ逆だったらしい。


「たしかに、綺麗な色ですよね。トレント達に案内してもらって、森の中で見つけたんです」

「森で、でございますか。となると、やはりこの島の一部には火山があることは間違いない。つまり、スファレ輝石も必ずどこかにある。あれは水で火砕流が冷やし固められてできるもの。このあたりに川があればその近くか……?」


会話をしていたはず――――なのだけれど。

それが途中でいつの間にか打ち切られており、マウロさんは一人、顎に手をやると思考に耽っていく。


綺麗にそろえられた眉を難しそうに寄せて、目を強く瞑っていた。


どうやら彼は建築関係のこととなると、周りが見えなくなるらしい。


まぁそれ自体、気持ちはよく分かる。私だって集中して庭いじりをしているとき、たまにこうなることがあるしね。


さっきみたいな突き放す言動はともかく、私が寛容な気持ちでそれを見ていたら、


「ま、マーガレット! 真後ろにその蛇がいるわよ!!」


カーミラさんの悲鳴にも似た声が、それを遮った。



言われて後ろを振り見る。

するとそこには、丸々と太った大きな黒蛇がにゅるにゅると地面を這っていた。

大きく開けた口で、むき出しになった鋭い牙からは、毒液がたらたらと垂れる。


「さっきの蛇よ! 逃げてきて、マウロに助けを求めたらそのまま口論になったから放置したままだったの」


どうやらカーミラさんはそれを思い出して、リカルドさんともども戻ってきてくれたらしい。


「マーガレット君、マウロ君、離れるんだ」

「とにかく逃げた方がいいわ!」


二人ともが、必死に呼びかけてくれる。


…………けどまぁ、怖がるような相手でもないのよねぇ、蛇くらい。

裏手に山がそびえる王城で勤務していたのだ。裏手の庭では、もう何度遭遇して来たか知れない。


最初こそ怖かったが、今やその辺の虫と一緒だ。


私は、すぐ近場に落ちていた木の枝(たぶん、トレント達の手入れをした際に落ちたものだろう)を拾って、蛇の方へと向かう。


くるくると枝を回して、その身体を巻き付かせた。

それから小走りで森の手前まで行って、ぽいっと放り投げる。


戻ってくると、マウロさんを含めて三人全員がなぜかきょとんとしていた。


「えっと、どうかしました?」

「…………まるで無敵ね、マーガレットは」

「はは。まぁ君らしいけど、また随分と豪胆だね」



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焼き捨てられた元王妃は、隣国王子に拾われて、幸せ薬師ライフを送る〜母国が崩壊? どうぞご勝手に。〜

― 新着の感想 ―
農家にとって蛇は益獣。邪魔に思うことはあっても脅威ではない。
[一言] 蛇にビビって農家ができるか!ってとこかな?(笑)
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