39話 【side:ヴィオラ王女】離島からの贈り物
ところかわって、王都。
マーガレットの作った野菜たちは、手紙とともに王都まで、無事に届けられていた。
「これをマーガレットが……。さすがね」
ヴィオラ王女は、役人らの到着から何日か遅れて、それらを受け取ると、思わず笑いこぼす。
実はここ数日、公務のために遠出をしていたのだ。
そうして戻ってきたら、なにやら王都の内側が騒がしい。
聞けば、エスト島産の野菜類が届けられ、その出来のよさに貴族らは魅了されているとのことだった。
一部の者たちはもう、次の買い付けのために、奔走しているらしい。
(……私にも送ってくれてたりしないかしら)
なんて、ヴィオラ王女が淡い期待を持って、奥屋敷へと帰れば、それは本当に届けられていた。
そんな親友・マーガレットの心意気だけで、すでに心は満たされかけていたが、まだ早い。
ちょうど昼時であった。
「できるだけシンプルな調理をしてくれる?」
さっそく料理番にこう命じて、食堂で待つ間に手紙を開く。
そこに書かれていたのは、公爵令嬢・ベリンダの悪行だ。
そもそも身勝手な振る舞いばかりするから困っていたが、ここまでくると目に余る。
王家の親族としての自覚に欠けていると言わざるを得ない。あまり勝手を許すと、王家の品位まで下がってしまう。
(証拠品もあったから、やりようによっては、罪に問うこともできるかもしれない)
とはいえ、相手は一大派閥を持つ公爵家の令嬢。
簡単にはいかないだろう。
ため息をついたところで、もう料理が運ばれてきた。
何度か読み返したうえで、考えを巡らせていたら、いつの間にか時間が過ぎていたらしい。
一旦切り替えて、食事を取ることにする。
「シンプルに、とのことでしたので、カボチャはひとまず調味料をいれずに水煮にしました。それからえんどう豆は米と煎り塩と炊き込みましたが……本当にこんな調理でいいのですか」
「えぇ、そうお願いしたのですよ」
親友が、マーガレットが作った野菜だ。
それを思えば、ただそれだけで美味しいのは間違いなかった。
が、まずカボチャを一口食べてみると、さっそく想像していた味を超えてきたから驚く。
本当に調味料を使っていないのかと疑いたくなるほど、甘みが強く、しかもこっくりと濃厚だ。
そして、えんどう豆の方も、食べごたえのあるホクホク感で、少し柔らかめに炊かれたお米との相性がとてもいい。
ヴィオラ王女はそれらをしっかり味わって、いただく。
「もう一度同じものをもらえる?」
「し、しかし、最近はあまり食べられないようになっていたんじゃ」
「これは喉を通るみたい。とにかくお願いしていいかしら?」
「は、はい……! すぐに!」
そう口にしたのは、思わずのことであった。
最近は疲労などから食欲がなかったのに、どういうわけか、するすると食べられていた。
なんとなしに元気も湧いてくる。
マーガレットから直接励まされたみたいな、そんな感覚だ。
さっきまでは少し重たい気持ちだったのが、もう上向いていた。
「よし、マーガレットが頑張っているのなら、私も国のため人のため、できることをしなきゃね」
使用人たちが出ていき、一人となった部屋で、ヴィオラ王女は拳を握りしめて意気込む。
しっかりおかわりを平らげ英気を養った彼女はこうして、今日も意欲的に公務へ臨んでいくのであった。
引き続きよろしくお願いします!