35話 オムニキジ撃退戦!
もう、眠気は吹き飛んでいた。
私はすぐさま、リカルドさんたちを起こしに部屋を出る。
この屋敷は、1階が食堂等の共有スペースで、2階が各自の部屋になっている。
私とカーミラさんの部屋は西棟で、中央の吹き抜けを挟んで反対側、東棟はリカルドさんたち男性の部屋だ。
そちらまで走っていこうとしていたのだが、ちょうど渡り廊下でリカルドさんと出くわす。
彼も寝間着だが、剣と明かりを手に握っていた。
「起きていたか、マーガレット君。さすがのトレント達でもこの量は防ぎきれなかったらしいな、相性の分も悪い。とにかく、すぐに出よう。君はトレントたちの統率を任せていいかな」
部下やマウロくんは各自の部屋にいるよう言ってある。カーミラくんは――――」
「今、外で一人で戦ってます」
「なんだって!? 戦うようなスキルじゃなかったと思うんだけれど……。まったく無謀な事をするよ」
会話を交わしながら、らせん状になった階段を早足でくだる。
そうして、正面玄関から飛び出てみれば、目も当てられないような景色が広がっている。
畑に侵入してきたオムニキジが、作物をついばみ、その強靭な足で引っ掻いてしまったりもしている。
土は踏み荒らされて、めちゃくちゃだ。せっかくの畝が崩れているところもあった。
「やめろー!!!!! とっとと、どっかに行けっ!!」
そんななか、カーミラさんがどうにかそれを止めようと、鍬をふりまわしていた。
「とにかく、やるしかないな……! マーガレットくんは、とりあえずあの子を止めてきてくれ。トレントたちへの指示は後だ。
あのままじゃ危険すぎる」
リカルドさんはこう残すと、すぐに剣を抜きその剣身に炎を宿すと、オムニキジの群れへと向かっていく。
私は言われたとおりにカーミラさんの元へ走りつつ、彼が戦闘するのを横目に見る。
「マーガレットくんと作り上げてきた畑を乱すようなら、容赦はしないよ」
自分から戦いを仕掛けることはないが、彼はそこそこ剣の腕が立つ。
オムニキジは、俊敏だ。
そのうえ彼らの攻撃は当てては逃げるを繰り返す戦法をとっていた。
当てることすら難しそうなのだが、乱撃により、何匹ものオムニキジに一挙に攻撃を加えていた。
その炎も効果的だ。
それで倒れる個体もいるにはいたのだが、
「な、なんだと!?」
尾や羽に火がついたまま、周囲を千鳥足で走り回るオムニキジが何体かいたのは、まずかった。
リカルドさんの魔法技に威力があることが災いしていたらしい。
畑の野菜のみならず、屋敷前に積んでいた魔牛・ミノトーロ達の餌である干し草にそれが燃え移ってしまう。
そしてそれは、身体全体で覆うように屋敷を守っていたトレちゃんの枝葉にまで引火してしまっていた。
彼はもうかなりの年齢だ。その葉に水分は少ないから、燃えやすくなってしまっていたのだろう。
「……すまない! 今、消してやる!」
と、リカルドさんは言うが、次々に襲い来るオムニキジとの戦闘がそれを許さない。
しかも、水場は裏手の井戸だ。
『くっ、火には弱いのだ……!』
トレちゃんがうめき声に乗って、苦しみの声をあげる。
ここは、私が行くしかない。
叫びながら鍬を振るカーミラさんがとりあえず怪我などをしていないことを確認すると、私はすぐに引き返す。
「トレちゃん、待ってて!!」
私にできるのは、水やり程度の水魔法のみ。
それでも、なにもしないで大切な仲間が傷つくのを見てはいられない。
どうにかなってほしい願いをこめて、両の手を結ぶと【開墾】スキルの一つ、水やりを発動する。
すると、どうだ。
いつもなら、ちょろちょろと水が流れる程度だったのが、勢いよく飛び出てくる。
そしてそれは、あっさりとトレちゃんを焼いていた火を消してしまったではないか。
……なに、これ。またスキルが進化してる?
なんて驚いたのは束の間、今はそんな場合じゃない。
私はとにかくその水でもって、主な火元となっていた薪の火を消す。また、周囲一帯に水を散布する。
畑の端まで行きわたるくらいには、勢いがあった。
これでひとまず、燃え広がるのは抑えられそうだ。
が、らちが明かない状況は変わっていない。
オムニキジの量はあまりに多すぎるのだ。統率は取れていないが、そのぶん、一匹ずつと戦っても、数が減った感がない。
なにか、なにか策はないのだろうか。
私は改めて全体を見渡し、あることに気づく。
「……カーミラさんから、オムニキジが逃げてる……?」
そう、魔法もなにもなしで、ただただ鍬を振るカーミラさんに、オムニキジは近づこうともしない。
火属性魔法を操り、明らかに彼女よりも強いリカルドさんには、攻撃を繰り出しているにも関わらずだ。
「は! や! く! どっか、いけぇ!!!!」
カーミラさんが、きんと耳に響く声をあげる。
それで、さらにオムニキジが距離をとるのを見て、私はぴんときた。
間違いない、彼らの弱点は――
「リカルドさん、音です! 耳に響くような高い音を聞かせたら、どこかに行くかも!!」
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