34話 【side:カーミラ】わがままの真相と恩返し
――魔黒鳥・オムニキジが襲来するほんの少し前、明け方迫る夜。
子爵令嬢カーミラ・カミッロは、自室にこもって一人、頭を悩ませていた。
悩みの種は、身の振り方について。
毎日のように考えてきたが、自分でもどうするのが正解なのか、もうまるで分からなくなっていた。
その大元の原因は、エスト島へ来るにあたり、カーミラへと秘密裏に下されていた命令にある。
『雑草女、マーガレットを徹底的に邪魔するのです』
と、そんな命令がベリンダ・ステラ公爵令嬢から与えられていたのだ。
実家であるカミッロ家は、公爵家・ステラ一派に属していた。
カミッロ家が子爵の地位を賜ったのは、そもそもステラ家の身の回りの世話を担当しており、寵愛を受けていたからだ。
家への資金援助までもちかけられたら、いかにステラ家の評判が落ちていようが、カーミラには断りようがなかった。
ベリンダ令嬢は、自分の地位や名誉が落とされた原因が、マーガレットにあると考えているらしかった。
そこで、エスト島への庭師派遣があると知ったらしいベリンダは、カーミラに手紙で依頼をかけてきたのだ。
正直、気乗りはしなかった。
もともと温厚な性格じゃない自覚はあるが、わざわざ迷惑行為を働こうだなんて考えたこともなかったし、なにより庭作業に興味もなかった。
自分の趣味である手芸関係をやっていられたら、それで満足だったのだ。
けれど、主従関係にあるベリンダからの依頼は、ほとんど命令のようなもの。
カーミラは仕方なく、庭師見習いとしてエスト島に来たのである。
そして言いつけのとおり、任務を遂行しようとした。
忠実に、言われたとおりに迷惑をかけた。
わざと目に余るくらい横暴な振る舞いをして、マーガレットたちを困らせる。
顔にできた発疹が気になって、部屋も出られないほど落ち込んだのは、本当の悩みだ。
けれど他に関しては、心にもないようなことをわざと言ってみたりもした。
遊びたいとか、甘いものが食べたいとか、他にももろもろ。
そんなことが島でできるわけがない。
……なかったはずなのだけれど。
マーガレットは、懐の深さやスキル、発想などにより、無理難題なカーミラの要望すべてを叶えてしまう。
「……すごいなぁ、マーガレットは」
自室の中、カーミラは、飾り付け用のリースを作りながら一人つぶやく。
そして同時に浮かぶのは彼女への感謝の思いだ。
ここまで無茶を言っても受け入れてくれた、長年悩まされてきた肌悩みすら解決してくれた。
それに、カーミラが作っている小物の類を「見たい!」と言ってくれたのも、嬉しかったことだ。
ベリンダには、『庶民みたいな趣味ね。早くやめた方が身のためよ』なんて、散々にけなされてきたのだから。
ぐるぐると、カーミラの頭の中は回転する。
与えられた任務は迷惑をかけること、でも、本音はむしろ感謝さえしていて、心が痛む。
じゃあ自分はどうするべきなのだろう。
数日間、悩み続けている問いだ。
結論が出ないまま、作業の手も止まってしまう。
かといって眠れないので、ただただ椅子に座り続けていたところ――
窓の外がなにやら騒がしくなっているのに気がついた。
窓を開けてみれば、そこには大量のオムニキジが畑を埋め尽くさん勢いで次々と飛来している。
「あの黒い魔鳥って現れたら畑がなくなるまで荒らし尽くすって言う――――」
気づいた時にはもう、カーミラは部屋を飛び出ていた。
本当なら、『迷惑をかける』という目的があるのだから、見なかったふりをしてもよかったのだ。
けれど、いざ畑が壊されていくのを見たら、もういてもたってもいられなかった。
マーガレットの丁寧な世話ぶりが頭に甦る。
その努力を、愛を無駄にしたくはない。
理屈を抜きにすれば、心ではもうずっと、マーガレットの助けをできるようになりたいと、そう思っていたのだ。
「やるしかない……!」
玄関先に立てかけられていた鍬を手に、カーミラは外へと出る。
まずはみんなを起こしにいくべきだったと気づいたのは、そこになってからだ。
気が動転していた。
自分の魔法スキルは【保持】、少しばかり物の耐用期限を延ばせる程度の力しかなく、まったく戦闘向きではない。
月明かりと、手持ちサイズの明かりだけでは視界も危うい。
「やめろぉーーーーっ!!!!」
でもそれでも、さんざん迷惑をかけてきた分を、色々としてもらった恩を、ここで返したかった。
コメントくださっている皆様、ありがとうございます……!
こういう秘密があって、お返事できませんでした( ;∀;)
すべて目は通しております、ご愛読ありがとうございます!
【恐れ入りますが、下記をお願いします】
・面白かった、楽しかった
・続きが気になる
などと少しでも思ってくださった方は、画面下部の☆☆☆☆☆を★★★★★にして応援して下さると嬉しいです。
ブックマークも歓迎です!(╹◡╹)
よろしくお願いします!