28話 さすがに植物魔を生み出せはしませんよ?
石鹸づくりのため、次に私が足を向けたのは、屋敷の裏手にある岸辺だ。
そこでは、リカルドさんの部下の方々が今日も、漁に励んでいる。このあたりは水が透き通っていて、浅瀬ならば下まで見通せるのだ。
そこで私はすぐに目当てのものを見つける。
「え、マーガレットさん、なにをやってるんです? 海藻って、そんなものどうするんですか。足に絡まって邪魔なだけかと」
浜に打ち捨てられており、あっさり手に入ったのだ。
どうやら漁の邪魔になるからと、彼らが適当に避けていたらしい。
「燃やすんです」
とだけ答えて、私はそれを籠に詰めて持ち帰らせてもらう。
「えぇ…………」
「また変なことしようとしてるんじゃ。まさか植物魔の錬成とか?」
「いやいやさすがにそれは……いや、マーガレットさんならありえなくもないか」
という、困惑しきった声が背中からは漏れ聞こえていた。
私がトレントやミノトーロを連れ帰ったりするから、怯えられているらしい。
というか、植物魔を生み出すなんてできるわけがないし!
心の中でそんなふうに思いながらも、わざわざ言ったりはしない。また怯えられるかもだしね。
完成品を見てもらえれば、きっと誤解も解けるだろう。
私は気を取り直して屋敷に戻ると、海藻類を薪にくべて灰にする。
それを鍋で煮込んで、いわゆる『灰汁』を作っていくのだが、
「なんだ、何かの生き物を錬成しているみたいだな。とても石鹸になるとは思えないよ」
その光景にはリカルドさんまでこう漏らしていた。
うんまぁたしかに、灰色の液体がぐつぐつ泡を立てる様は、確かに異様かもしれない。
――が、しかし。
「石鹸だね、この色味……」
その反応は一晩ののち、すっかり真逆のものになっていた。
「これに、昨日の灰汁を使っているのかい……?」
「はい、やっぱりいい海藻に、いいオイリオの油を使うと結構綺麗にできますね」
灰汁は、一日紙やら布やらで濾しておくことで透明な液体になる。
そうしてできた汁は、普通の水とは違い、油と混ざり合うように変化するのだ。
私はそれを井戸のそばまで運び、水で冷やしながら固めていく。
最後に、カエデの形をした型でくり抜いたら、もうできあがりだ。
まずは試しに、私とリカルドさんで使ってみる。
「よかった〜、かなりいい感じかも」
「うん、たしかにいつもよりさっぱりとした気がするね」
二人、意見が一致した。
十分な出来だと言える代物だった。
手で擦ったときの泡立ちもよく、顔に乗せれば幸せな匂いに包まれる。
たぶん、庭で育てていたチルチル草の根を一部、混ぜ込んだからだろう。
それが、このほどよい匂いを作り出しているらしい。
もちろん、洗い終わった感じもかなりの好感触だ。
肌の脂が落ちてさっぱりとする。
そして私は、洗顔後のケアも用意していた。
「消炎効果のある瓜科のカズラを使った保湿液です。皮膚が荒れた時には効果てきめんですし、普段からの保湿にも最適です!」
こう言うと、大層なもののようだが、実際には違う。
庭に植えていた瓜植物の茎を折り、そこから染み出てくる液体を水で溶いただけの簡単な美容液だ。
だが、この消炎効果はあなどれない。
やけど跡なんかにも効くくらい、高性能なのだ。
「うん、肌がぴりついたりはしないね。なんなら、どんどんと吸収されている気がするよ」
リカルドさんはその美容液を顔に塗りこむと、自分の頬を指で押して確かめる。
その仕草に私の心臓は、打ちのめされた。
なんて可愛らしいのだろう。
普段、大人っぽいイメージのある彼だからこそ、幼い子供のような仕草とのギャップが破壊力を生む。
できれば、私もその頬をつんつんしたい……! なんて俯きながらに妄想を膨らませるが、
「ど、どうかしたか?」
まさか本当のことを言えるわけもない。
はっと顔をあげて、言い訳を繰り出す。
「えっと、おためしありがとうございます。とりあえず、これ、カーミラさんにも試してもらいます! リカルドさんはもう戻っていただいて大丈夫ですよ」
「まぁそうだね。彼女は素顔を人に見られたくないみたいだし。あとは、よろしく頼むよ」
なんとか誤魔化すことに成功した私は、石鹸をカーミラさんの部屋へと持っていくことにした。
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