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27話 【開墾】スキルのできること。


カーミラさんの肌悩みを解決するため。

私が作成に乗り出したのは、ずばり石鹸だ。


「え、石鹸を作りたい?」


その旨をリカルドさんに伝えると、昼ご飯の下ごしらえをしていた彼は、きょとんとして、こちらを振り返る。


「今使ってるものじゃだめなのかい? たしか定期便で送ってもらっているよね」


そう、あるにはある。

だが、その質はお世辞にも決していいものじゃない。


「はい。でもあれって、泡立ちが悪いですし、若干匂いもきつい感じがします。

最近王都で出回っているって噂だった粗悪品なのかもしれませんね。本当の一級品は、上流階級の貴族しか使えないって言いますし」


ここへ来た時から、思っていたことではあった。

しかし、あくまで罪をかけられた身であったから、そんな贅沢は言えないと諦めていたのだ。



石鹸は、王都でも生活必需品である。

だがその生産数は決して多くなく、また質のいいものは一部の貴族がその権威を活かして作った高級品である。


そのため、形だけは同じに見える安価な偽物が出回ることも、ままあるのだ、

何度か、ヴィオラ王女に本物を貰ったことがあるから一応、その違いは分かる。


「うーん、粗悪品か……考えたこともなかったな」


まぁ、天性の美しさを持つらしいリカルドさんには、どんな石鹸であれ関係ないらしいが。


今日もその肌はきめの一つまで完璧に映って、光をはじき返す。

たぶん彼なら、川の水で洗っているだけでもきっと、しみ一つない綺麗な肌を維持できるだろう、うん。


ちなみに私はといえば、もともと肌は強い方だ。

それに健康的な生活のおかげもあってか、今のところ荒れる気配もない。



「でも、石鹸なんてどうやって作るんだい? 方法がまったく思いつかないけど」

「それなら大丈夫です。昔一度、作ったことがありますから。とりあえずまずは、質のいい油がほしいですね」


うちの実家は、貧乏男爵家。


買えない時には、自作することもあったのだ。そのときは、あまり質のよくないものばかりができていたが、材料を揃えられるのならば話は別だ。



昼食後、油を調達するため、私は屋敷のすぐ目の前にある森へと出向く。

遠くへ行くつもりはなく、近場で済ませる予定だったから一人でもよかったのだが、リカルドさんも付き添ってくれた。


「危険があるかもしれなから、念のために」とのことだったが、彼の足取りは軽く、少し頬も上気している。にこにこと、機嫌がよさそうだった。

基本は屋敷の中にいることの多い彼だが、少しは外へ出る楽しみも知ってくれたのかもしれない。


「それでマーガレット君。油といって、あてはあるのかい? オリーブとか?」

「いえ、エスト島は四季がはっきりしていますから、気候的にオリーブは植わってないと思います。オリーブは、からっと乾いた気候の方が向いてますから。

なので……、なにかです!」


「おいおい、『なにか』って……。そんな調子で大丈夫なの」

「はい、きっと! だから、とりあえず歩きましょう!」


絶賛、新緑の季節だ。

生い茂る木々の間からこぼれてくる日を頼りに、私は野草たちに目を向ける。


そこで、【開墾】のスキルを発動した。

すると頭の中には一挙に、あたりに生えている植物の特性に関する情報が流れ込んでくる。これはスキルが【庭いじり】だった頃から使えた能力だ。


それにより、油の抽出に使えそうな植物を探すつもりだったのだが、一つ誤算があった。


「うぅ、頭が痛い……」


あまりにも多様な植物が密集しているせいだろう、たくさんの情報が一挙に流れ込んできて、処理が追い付かなかったらしいのだ。


ずきずきと頭が痛んで、私は前に出る一歩を踏み外して、ふらっとよろめく。

危うく転びかけるところ、


「大丈夫か、マーガレット君!」


リカルドさんが腰に腕を回し、抱くようにして支えてくれた。

美しいエメラルドの瞳が、私を覗きこんでくる。


まるで時が止まったかのような一瞬だった。

想像以上に力強い腕と、甘やかな匂いに包まれれば、安らぎすら感じる。


そのまま倒れこんでいきかけて、ぎりぎりで正気を取り戻した。


「だ、だ、大丈夫ですから!!!」


私は慌てて彼の腕から逃れる。



たぶん、顔は真っ赤に茹で上がっていた。


それを悟られぬようにするため、野草へと目を向けたその時のことだった。

目に飛び込んできたのは、こんな表記だ。


『スゲ草……生命力の強すぎる雑草。燃やすと毒性がある。

 棘イチゴ……野イチゴの一種だが、その実は刺激的な痛みを生む。

 ヤエ草……その実は動物の毛などに絡まり、遠くにまで種子をまく多年草

 ラプラプ草……踏むと、大きな音を立てて破裂する』


などなど。


各植物の生えている場所に、唐突にこんな表記が見えるようになっていたのだ。


厄介な草ばかりであることはともかくとして、気づけばもう頭も痛くない。

もしかすると、許容量を超える情報の処理が、スキルを発展させたのかもしれない。


「本当に大丈夫かい? 今度は急に立ち止まって、どうしたんだい」


不安げにこう聞いてくるリカルドさんに、私はありのままに起きたことを伝える。


「……そんなことまでできるものなんだね」


すると、口をぽかんと開け、少し呆れ顔になっていた。


正直私も、同じ感想だ。

まさかこんなふうに使えるようになるなんて思いもしなかった。


しばし唖然と、植物に関する説明文がたくさん並ぶ光景を見る。


が、途中でふと思い出して、腰元に忍ばせていた小さなノートを取り出した。

そこに、「植物の種類や性質の文章による把握」と記す。


「なにをやってるんだい?」

「この【開墾】スキルがどこまでなにをできるのか、自分で把握して置ければ便利かと思って、つけてみることにしたんです」


今のところ他には、


『・水やり

 ・草むしり

 ・植物魔との会話

 ・土質の判定』


などがあった。

今回そこに、できることが一つ加わったわけだ。


「これで、できそうなことの予想が立ちます。便利じゃないですか?」

「……当たり前のように言うけど、普通は一つのスキルにできることなんて、書き出すほどないんだけどね」


うん、私もそれが普通だとは思う。

ここまで応用が効くスキルがあるなんて他に聞いたことがない。普通は、【治癒】スキルなら、文字通りにヒール魔法しか使えないし、鍛錬してもそれが上達するだけだが、どうやら【開墾】は違うらしい。


いつかは、このノートが埋まるくらい、特殊な技能を身に着けられたりして……!



私はそんな希望を抱きながら、新しい力により、植物の情報を細かく見て山を歩いていく。

そうして無事に目当てのものを見つけた。


「これです、これ!」


見つけたのは、オイリオ花。

説明文を見れば、『その種子は、たっぷりの油を含んでいて、潰すだけで上質な油が手に入る』とある。


王都で見かけたことはなかったが、やはり高温多湿な気候の下では、自生する植物の種類も異なるらしい。


私は試しにそのさやの一つを摘み、皮をむくと、小さく黒いその粒を指先で挟んで潰してみる。すると、ぷちっという弾ける音とともに、中からは油が染み出てきた。


くせがなく、鼻に抜けるような香りだ。


「うん、石鹸づくりにぴったりだと思います。オリーブよりいいかもしれません」

「君が言うなら確かだね。じゃあ摘むのは、手伝おう」


あたりには、オイリオ花が多く自生していた。

私たちはそのすべてを取らないように配慮しつつ、程よい量をいただいてくる。


大事なのは、自然と適切に付き合うことだ。



そうして屋敷に戻った私は、リカルドさんに油の抽出を任せて、次なる材料探しへと向かう。


……できればもう少し、種子をぷちぷちしていたかったなぁ。気持ちよかったし。

なんて、ちょっと物足りない気持ちになりながら。





これで1週間、ランキング1位を取らせていただきました……!

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