25話 侯爵様はこんな時にも支えてくれる。
不毛の大地とされたエスト島の開拓。
屋敷の周辺のみとはいえ、その足がかりを作った功績が認められたとかで、私とリカルドさんにかけられていた罰は、無事に解かれていた。
とはいえ、島にはこのまま残る。
今度は、罰ではなく正式に、リカルドさんも私も開拓使の役を任されることとなったためだ。
だから立場が変わっても、生活はなんら変わらない。
そう思っていたのだけれど――
「リカルド様、マーガレット様! こちらのお二人が、新たに開拓補佐に任命されたマウロ・マエストリ様、それから庭師見習いになるカーミラ・カミッロ様でございます」
今後いっそうの開拓を進めるにあたって必要だろうと、本土から助っ人が来ることになっていたのだ。
船が着いてすぐ。
岸辺にて、役人がそう紹介すると、後ろに控えていたその二人が前へと出てきた。
「マウロです。建築士をやっている。一応、貴族だ」
まず男の方が無愛想に、まるで名前を吐き捨てるかのように頭を下げた。
鋭い目つきと、ばっさり短く切られた赤い髪も相まって、なかなかとっつきにくそうだ。
顔は整っているだけに、妙な圧がある。
年齢は私より少し下、20代前半頃だろうか。
「辛気臭いですよねぇ、この人。あたしは、カーミラ。子爵家出身ですけど、女官になって王城で働きたいので、勉強しにきました。今日からお世話になります〜。気軽に接してください」
逆にもう一人の女性は、態度がかなり柔らかい。
笑顔を見せながら、丁寧に腰を折る。
今どきの貴族令嬢という印象だった。
服装も小物までかなり凝っているし、ポニーテールはどうやって作ったのか分からないくらい、ボリュームがある。
10代後半ごろか、目も大きくくりっとしていて小動物的な印象だ。
……まぁやたらにこにこと微笑んでくるのは、むしろ少し怖かったけれど。
隣ではリカルドさんも少し気圧されたようで、苦笑いを浮かべていた。
とにもかくにも彼らを加えて、私たちは積荷を屋敷まで運ぶ。
その道中で、船に同乗していた役人が私とリカルドさんの肩を後ろから軽く叩いた。
「実は折り入って話がございまして」
手を口元に当てて、いきなりこんなふうに下手に出てくるのだから、いい話ではなさそうだ。
「えっと、というと……?」
私が首を傾げると、その役人は口元に手を当てて声を潜める。
「実は今回連れてきたマウロなのですが、あまりいい噂を聞かない青年でしたので、ご報告をと思いまして。
彼は、それなりに腕が立ち、王城の修理などにも携わっていたことがあるのですが、周りとの統率がとれていななかったようなのです。その頃から問題を起こし続けていて、頑固と言うか職人気質で……。もしかすると、ご迷惑をおかけするかもしれません」
「なるほど……。それで、島によこしたのかい?」
リカルドさんがそう言えば、役人はやや口ごもりながらも首を縦に振った。
「えっと、まぁ正直に言えば、そのような側面がないとは言えませんね……。ここなら一人で気楽にやってくれるかと」
物は言いようだ。
単純なる厄介払いであった可能性が高そうね、これ。
人を送ってくれるようになったと言っても、本当に非の打ち所がない人間は、王都で囲っておきたいだろう。
ということは、だ。
「あの背の低い女の子……えっと、カーミラさんのほうも、なにか?」
「い、いえ! そちらはなにも心配ないかと思います。王城ではいろいろな事件があった末、今は王女・ヴィオラ様が庭の一部を管理をされています。その代わりとなる人材を育てていただこうかと思い、身分もあり優秀な人材を選びました。スキル【保存】も、この島には合うでしょう。
まぁ希望制でしたので、志望者は少なかったですが」
ほっとするような、責任感を覚えるような……。
私はごくり唾を飲みながらその話を聞く。
できれば、早いうちに旅立てるくらいの人材に育て上げなければならないらしい。
恩あるヴィオラ王女様の負担を少なくするためにも、失敗はできない。
これまでは、ろくに話せる同僚もいなかった私だ。
誰かを指導するのは不安もある。
それが知らずのうちに、顔に出ていたらしい。
「マーガレットくん、なにも君一人でやる話じゃないさ。僕もいるし、部下もいる。一緒にやっていこう」
「……はい!」
その一言だけで、肩の荷が下りた気がした。
別に一人で抱え込む必要はないのだ。私には、彼がついてくれているし、他にもたくさん仲間がいる。
「よし、じゃあもうこの話は終わりだ。あんまり陰口のような真似は好きじゃない。まだこの目で見てもないんだ」
「ですね! 辛気くさくなっちゃいますし」
「うん。それより、今日の歓迎会のことを考えておきたいな。僕と君の罪が解かれたことも祝いたい。なにか島らしいものを振る舞えるといいんだけどな」
「あ、それなら山菜でも摘みにいきましょうか?」
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