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24話 新しい日常

――リカルドさんの残留が決まってから、少しの時が流れて。



私、マーガレット・モーアの日常は少しだけ変化を見せていた。


その始動は、かなり朝が早い。

昔は起きられない日もあったのだけれど、エスト島に来てからは変わった。よく疲れ、よく眠り、不規則になる要素がまるでないので、太陽が昇ったら、すんなりと起きられる。


「……お母さんが早寝早起きしろってうるさかった理由、やっと分かったかも」


今日も体調はよさそうだった。


すぐに部屋を出た私は、屋敷の裏手にある小さな井戸から水を汲み、顔を洗う。

リカルドさんやその部下さんたちが使うだろう分も、その際に桶へと汲んでおいた。


そうして目が覚めたらすぐに向かうのは、離れにある牛舎だ。

古くからあるらしい倉庫をほとんどそのまま利用させてもらった。広さは十分にある。


とはいえ、耐久性に問題がないとはいえない。

しかも、そこにいるのはただの牛じゃなく、獰猛なミノトーロ。普通なら、その鋭い角と、気性の荒さで倒壊沙汰……なのだけれど。


「うんうん、今日もまったりしてる。安心安心♪」


チルチル草を混ぜた牧草を餌として与えることで、彼らは至極静かに暮らしてくれている。


餌やりをすると、も〜も〜と鳴いて、もさもさ草を食むさまは、たぶん普通の乳牛よりものっそりと遅い。

大きさこそ迫力があるが、愛らしさすら感じる。


そう思えば、ブラッシングも捗った。

昨日のうちに汲んでいた水で、彼らの身体の周りをぐるぐる旋回しつつ、毛を洗っていく。



お次は、お待ちかねの搾乳だ。

3体飼育しているうちの2頭が夫婦で、1頭がこども。


「大人しくしててね、痛くしたらごめんね」


そのため『モモちゃん』と名付けた1頭のみから、乳をいただく形となる。

普通の牛なら、それだけで一日に10ガロン(要するに、かなり多い!)も乳が出るが……うちの子は超特殊な魔牛。


味が超濃厚であるかわりに、調子が良くても採れるのは普通のバケツ1杯分くらいだ。

それでも、余るし残るしで、困っているくらいなのだけれど。



それに、結構な重労働でもある。


本来は、リカルドさんの部下たちにやってほしい仕事だったが――

魔牛であることを怖がっており、まだ任せるには至っていなかった。

私とリカルドさんが交互にになっている状態だ。


私はどうにかバケツに牛乳を溜め終える。

それをえっさ、ほっさと運んで屋敷に戻れば、リカルドさんが起きだしていた。


「あぁ、やっぱり君は早いな。ここからは僕がもっていくよ」

「すいません、助かります……!」


彼の朝も、私同様に早い。


料理の仕込みをするため、わざわざ早起きをしているらしいのだ。

そんなふうに普段は見えないところまで抜かりのないあたりが、彼の几帳面さを示している。


「今日もずいぶんたくさん取れたものだね?」

「まったりしながらですけど、餌は順調に食べてくれていますからね。ハーブ以外にも、色々と野草を混ぜているのがいいのかもしれません」

「それはよかった。マーガレットくんが【開墾】スキルで、質のいい牧草を選んでくれているおかげだね」


こんな会話を交わしつつ、厨房へと向かう。

なぜのこのこついてきたかと言えば、


「やっぱり、最高の味です……。今日も淹れてくれてありがとうございます」

「うん、牛乳がある生活はやはりいいね。一日が始まる感じがするよ」


リカルドさん特製のレリーフハーブミルクティーを飲むためだ。

あたためて殺菌をした牛乳とハーブティーを混ぜ合わせることで、滋味深く濃厚な味を楽しめる。


席についてゆっくりと飲めば、体も心もすっきりとしていくようだった。

ついふぅっと息を吐いて、肘を机について、よりかかる。



はしたないかとは思ったが、隣を見ればリカルドさんも同じだ。

目を細めて背中を丸めて結構に寛いでいる。


二人、目が合うと笑いが起きた。


それから、「今日もよろしくね、マーガレットくん」「こちらこそです」とお互いに挨拶を交わし合った。



そうしてさらなる活力を得た私は、また屋敷を出る。


そのわけはといえば、トレントたちのためだ。

水やりや枯れ葉を取り除いたり虫を取ったりといった手入れは昼間にするのだけれど、それだけではいけない。


彼らは本来、動ける植物魔だ。

私たちの屋敷を守ってくれているため、ずっと同じ場所にいるけれど、それでは健康に良くない。


根腐れが起こる原因にもなりうる。


「みんな、起きてくれる~? 朝の体操やるよ!」


そこで、朝には彼らとともに体操を行うことと決めたのだ。

私は、トレントら全員が見渡せる場所に立ち、そこで声を張り上げる。


『あぁ、いつもの。なまっていたからちょうどいいよ』

『いやぁ、ここ最近動いてなかったから、枝を持ち上げるのも一苦労だ』

『お前、もう百年は生きてるんだ。幹が千切れないように気を付けろよ』


すると、こんな会話を交わし合いながら、彼らはのそのそと動き始めた。


私が腰に手をやり、身体を斜めに倒せば彼らはそれを真似する。

ぐーっと腕を上にあげながら引っ張れば、同じように、伸びあがって大きく息を吐く。


中には動きの鈍い個体もいるが。


「ほら、トレちゃんもしっかり! よーく上まで伸ばすの。まだ伸びるでしょ?」

『……わたしは、もう歳だからなぁ』

「言い訳は後にして、できる範囲でいいから、ほら一、二!」


私の位置から見れば、それは結構な壮観だ。

彼らは屋敷とその手前にある畑・庭の敷地を囲うように立っているから、まるで森全体が揺すられているかのようだ。


そんなふうにして、存分に動いてもらい、私自身も身体をあたためたら、落ちてきた葉を掃除して、朝食前の一連のルーティンは終わりだ。



ご飯のあとは少し休んで、畑仕事などに移っていく。

かぼちゃ以外にも、瓜やエンドウなどの自生していた夏どれ野菜を植えかえていた。種類も増えて、耕作面積もかなり広くなった。


王城の庭より、よほど広い。

すべてを管理しきろうと思うと、本当に日暮れまでを要する。


……つまりまぁ言ってしまえば、かなり忙しくなっていた。

かなり発展してきたがゆえの悩みだ。


充実はしているのだが、正直余裕はない。

てんやわんやであったのだけれど、それも今日までのはずである。


なぜなら明日には、新たな人員がエスト島へと来ることになっているからだ。





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