17話 視察に来た役人が驚きすぎて腰を抜かす。
さて、それからしばらく。
本土から配給品を乗せた船が、エスト島の港までやってきた。
いわゆる定期便だ。
リカルドさんは、罪を疑われて島流しの憂き目にあったとはいえ、同時にこの島の開拓をも請け負っている。
そのため、月に一度か二度はこうして船で物資が運ばれてくるのだ。
船が来るのは、私がこの島へと来た時以来だった。
私たちはその出迎えを行う。
その後、乗っていた役人らにも手伝ってもらい、屋敷まで荷物を運んだところ――
「な、な、なんだこれは……!!!??」
そこで腰を抜かしそうな勢いで驚かれた。
その役人はリカルドさんへと詰め寄り、尋ねる。
「前は、まったく未開拓の草原地が広がっていたと記憶しているのですが、いつからこのように整備された畑になったのですか! たしか、一向に開拓が進まないと嘆かれていたように記憶しているのですが」
「あー……、僕は大したことをしていないよ。彼女がよく働いてくれるおかげで、やっと開拓が進みだしただけさ」
リカルドさんが私に目を流す。自分の手柄にしてしまえばよいものを、きちんと説明するあたり彼は律儀だ。
「マーガレット元女官……。なるほど、彼女が……」
役人は、ちらりと私の方を見る。
一応ぺこりと頭を下げると、どういうわけか視線を逸らされた。
「と、とにかくあとで少し記録をさせてもらってもよろしいでしょうか。王城に戻った際、ご報告をしておきますゆえ!」
役人の発言には、なにか含みがあるように感じた。
だが私に直接なにか言ってくるわけでもなく、荷物の搬入が行われる。
その後、役人らは敷地内の視察へと移った。
私とリカルドさんはその後ろについて、案内を行う。まぁ、いらないことをされないよう見張る意味合いもあったけれど。
「な、な、これだけのトレントに囲まれているだって……!? リカルド様、大丈夫なのですか!」
「あぁ、問題ありませんよ。彼らはあえて、そこにいてもらっているんです。大事な私たちの仲間です」
「と、ということは、まさか⁉ これを世話しているのも――」
「えぇ、彼女ですよ。王城の庭でも、植物魔の世話をしていたそうで、味方につけたあとは手入れもしっかりとしてくれています。暴走の心配もありません」
「どうやったら、こんなこと……って、な、なんだ!? 今度は魔牛・ミノトーロを飼ってる!? 飼えるわけないでしょ、あんなの……って、なんかすごいリラックスしてるし!」
そこでも役人らは、驚きっぱなしになっていた。
一方で、上から降るように聞こえるトレントの呻きに怯えているのか、声が少し震えぎみだ。
だが、実のところその会話内容はこんなものだ。
『マーガレット嬢にかかれば、わたしたちの世話くらいどうということはないね』
『うん。はじめは魔ネズミの駆逐をしてくれた礼としてここに来たが……、すっかりこの場所が気に入った。もう離れたくないね』
『奇遇だな、わたしもだ。マーガレット嬢たちを見守るのは、いい日課になっている』
……なんて、恥ずかしいのだろう…………!
というか、トレントたち、私への評価高すぎない?
役人とリカルドさんが話す後方で、私は一人もだえる。
そんなこんなのうちに、どうにか視察は終わってくれたのであった。
あとは、見送りに行くだけ。
そんなふうに気を緩めていたら、役人の一人に呼び止められる。
「マーガレット・モーアさん。こちらをお預かりしております」
わざわざ屋敷の裏手まで連れていかれ渡されたのは、一枚の封書だ。
その裏側に押された判を見て、私は思わず息を呑む。
封書に押されていたのはアヤメの花を模した紋。
この国の主、フルール王家の紋だ。
差出人は、ヴィオラ王女からだった。
「すぐに返事が欲しいと申し付けられております。できれば、今回の便でお返事を持って帰りたいのですが」
「は、はい……! すぐに書きます!」
王女様の頼み事だ。
できれば、ではなく絶対だ。
私は手紙を握りしめ、慌てて自室へと飛び込む。
そこで手紙の内容を確認して、思わずぽかんと口が開いた。
「――王城の女官や役人たちが私を離島から連れ戻そうとしてる、ですって!?」
まさかの事実だった。
手紙に記された中身によれば、私がいなくなってから、王城の庭が大変なことになっているらしい。
植物魔・オルテンシアが暴れたとか、パンジーを植えていた花壇に害虫が出たとか、花が枯れただとか。
書かれていたのは、あまりの惨状だ。
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