16話 飼います。
チルチル草の根は、過度に活発化している魔素の動きを押さえるなど、興奮状態にある者が服用すると、その昂ぶりを抑え込むことができる。
その効果がかなり早いのも、特徴の一つだ。
唾液に溶かされればその瞬間に、口の中からすぐに効果が発動される。
もともとは野草だが、これは本土においても使われていた。
魔力暴走などで苦しむ人を救うこともでき、薬としても使われているのだ。
そのため、前々から存在は知っており、だいたいの効果は把握したうえで、使ったつもりだったが……眠らせるほどのものは想定していなかった。
せいぜい少し落ち着かせるくらいのものを考えていたのに、これじゃまるで眠り薬だ。
「なんなんでしょう。もしかして、本土のチルチル草とは種類が違ったりして?」
なんて私は少し考え込んでいると……
「おいおいマーガレットくん。なんかとんでもないことになってるよ……?」
それをリカルドさんが遮った。
彼が少し顔を引きつらせながら指すのは、さっき私が立っていた場所だ。
「あ、あれって……」
そこには、さっき焦って取り出したがために、腰巻のポケットから零れ出たチルチル団子がいくつも転がっている。
そしてその団子を、元の位置まで戻ってきたミノトーロたちが食んでいるのだ。
一匹、また一匹と地面に腹を置き、座り込んでいく。
戦闘意欲がいっさい消えているのは、はた目に見ても明らかだった。
まるで襲われたりする心配はなくなっていると言っていい。
それどころか、巣に帰ってきて眠りにつくときかのように、まどろみを迎えている個体も多かった。
「こんなところでぐっすり寝ていたら、夜には他の魔物に食われてしまうかもしれないね。牛の肉は狙われやすいって言うし」
「そ、それは避けてあげたいかもですね」
そもそもはフンをいただきにきただけなのだ。
それで彼らの集団が全滅なんてしたら可哀想だし、今後の肥料確保にも支障がでる。
「…………いっそ飼ってしまおうか?」
と、先に言ったのはリカルドさんのほうだった。
「それ、私も思いました。これだけ大人しくなるんです。このチルチル草を与えて居れば、飼えるんじゃないでしょうか」
「……たしかに、そうだね。万が一暴走しないかが心配だけど、少し外れに一応、かなり広めの物置がある。そこなら、牛舎になるかもしれないよ」
「もし飼えればメリットたっぷりですね。フンも使えるし、朝は牛乳が飲めるようにもなりますよ。昔、挑戦した人がいると聞きましたが、たしか結構濃厚で美味しいとか聞いたことがあります」
「それは大きいね。料理の幅もかなり広がる……。生ものは、これまで肉や魚以外、ほとんど扱えなかったんだ」
ぐーすかと眠るミノトーロを前に、私たちの意見は一致する。
そうして、フンの採取にきただけのつもりが、結果的に私たちは彼らを連れ帰ることとなったのであった。
とはいえ、かなりの巨体だ。
ミニちゃんに運んでもらうのも限界があったので、他のトレント達を呼びに戻る。
そうして、ミノトーロを連れて屋敷の敷地まで戻ったのだが――――
「お、お二人とも!? なんてものを連れ帰ってきているんですか!! こいつ、恐ろしい魔物ですよ!?」
リカルドさんの部下の方々は、トレントの時と同様、またしても過度なくらいに恐れおののいていた。
「飼います」
と言ったら、卒倒した人もいたくらい。
お世話を頼もうと思っていたから、雲行きが怪しそうだ。
だがまぁ、これでまた生活がしやすくなるのはたしかだし、いつか慣れてくれればいいかな?
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