15話 思いがけないほどの効果
さて、そうして見つけたミノトーロであったが、簡単には近づけない。
「あの一本角……やっぱり結構怖いですね」
「ああ、ミノトーロはかなり獰猛な魔物だからね。突きさすまで、突進してくる性質があるとか、昔の知人に聞いたことがあるよ」
そう、彼らはかなり強い部類の魔物なのだ。
この島には当然関係ないが、本土にある冒険者ギルドが発表している分類でも、群れに遭遇した場合の危険度ランクは『上の中』と、並の冒険者では到底太刀打ちできないとされる。
今回は3体と数は少なかった。
が、一本角のオスが一匹と、二本角の雌が二匹。雌の方が獰猛とされるから、恐ろしいことはたしかだ。
体長は、普通の牛の約2倍ほど。しかもそのうえ、岩にぶつけて研ぐという鋭利な一本角もついていて、なんでも串刺しにしてしまうのだとか。
が、しかし。
今回私たちが手に入れたいのは、彼らが群れをなす地点の少し外れに固まっているフンだけだ。
直接戦う必要はない。
そのフンは、ありがたいことにもう乾燥して固まりかけていた。
ちょうど木陰にあって雨に濡れなかったことにより、発酵が進んだのだろう。あの分なら、すぐにでも肥料として役立ちそうだ。
なんとしても欲しい!
私とリカルドさんは、しばし作戦会議を交わす。
そのうえで、さっそく実行に移した。
彼に放ってもらったのは、三つの焔火。
【火属性魔法】のスキルを持つ者が最初に習得する「火の玉」を長く持続させ、より操作性をあげた少し難しい魔法だ。
「おぉ、それです! さすがです、リカルドさん!」
「こういうの苦手なんだけどな、本当は……。この魔法、使ったのは貴族学校にいた時以来だよ」
なんてぼやいてはいたが、魔法は十分に操れているのが彼らしい。
たぶん、きっとあれだ。
貴族学校の生徒だったころは、あまりやる気がなさそうに見えて成績優秀なタイプだったのだろう。みんなに羨望の目を向けられる奴だ。
魔牛・ミノトーロは、なにか追いかけ回す対象があると、気が済むまで追いかけ回す。
そのため、フンがある場所から注意を逸らすには、もってこいの魔法であった。
「なんとか無事に、離れていったみたいですね」
「……そのようだね。正直、鍛えていないからあまり長くはもたない。さあ、今のうちに採取に行こうか。……その、あれを」
「あれですね、了解です。ここは私が行きますよ」
まぁ、この分だとリカルドさんは、いくらずた袋の上からとはいえ、触れないだろうしね。
私は一度ミニちゃんから降ろしてもらって、あたりにまとまっていたそれを、袋を裏返して掴むようにして、中へと詰めていく。
フンとはいえ、かなり貴重な肥料になる。
残さず詰め切って、念のためきっちりと封をする。やっぱり十分に乾燥して発酵済みなのだろう。
そんなに匂いはしなかったが、持って帰るまでの間にこぼれたりしたらもったいないしね。
私はそれを、ミニちゃんに乗ったままのリカルドさんに掲げてみせる。
その時のことだった。
「モォォォッ……!!」
一頭の魔牛・ミノトーロが猛然と突っ込んできたのは。
どうやら焔玉に引っかかってくれなかった個体が残っていたらしい。その二本の長い角が、こちらへと向けられる。
「おい、マーガレットくん!!」
そいつは、明らかに私をめがけて、こちらへと角を前にして駆けてきた。
このままなにもできなかったら、串刺しはまぬがれない。
が、そこで思い出した。こんな時のための秘策を、きちんと講じてきていたのだ。
幸い、目の前から走りこんでくるそのミノトーロはおあつらえ向きに、大口を開けていた。
「食らえ~!!!」
私はそこへ、特製のハーブ団子をぽいぽいっと投げ入れてやる。同時、リカルドさんの放った火の玉も、そのミノトーロは食らう。
その効果がすぐに出て、動きが一気に緩慢になった。
その隙にミニちゃんが私を、定位置まで掬い上げてくれる。
そのうえで安全そうな草陰まで移動してくれた。
『怪我はしていなくてよかったよ、マーガレットさん』
そういえば、彼がいたのだった。
それを考慮すれば、素直にミニちゃんに助けを求めていた方が安全だったかもしれない。
「本当に焦ったよ、どうなるかと」
「はは、すいません。次は気を付けます……」
「いいや、僕もうかつだった。すまない」
ひやりとはしたが、なんとか目的は果たせた。
私はどくどくと鳴り続ける心臓を押さえて、ほっと息をつく。
それからさっき団子を食べさせたミノトーロを見ると――どういうわけか、地面に身体を横たえていた。
「あれ。リカルドさん、倒しちゃったんですか?」
「いや、あれくらいの一撃じゃ倒れないと思うな。僕はあくまで注意をそらすために使ったんだ。……なにかあるとしたら、君の投げたハーブ団子の方じゃないか」
「たしかに、チルチル草の根を煎じた団子……えっと、鎮静効果とか魔力放出効果のあるものから作った団子ですけど」
「じゃあ、やっぱりそれだね。見てみなよ、寝てるみたいだよ?」
……なんということでしょう。
念のための対策として作ってきたハーブ団子――チルチル団子が、効果を発揮しすぎてしまったらしい。
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