14話 スキルが勝手に発動して、色々教えてくれちゃう
「それでミニちゃん。どこに行けば、動物のフンが手に入るかしら。できれば、そうね……。ミノトーロみたいな、大型の魔牛がいてほしいんだけど」
私は案内役兼足になってくれたトレントと、すぐに打ち解けていた。
『ミニちゃん』と愛称をつけた彼に、私は気さくに尋ねる。
『それなら、見たことがあるよ。たしか、島の屋敷寄りでは一度だけだけどね』
「一度かー……まぁ、いいや。とりあえずその目撃した地点に向かってもらえる?」
『承知した。任せておいてよ』
目的の場所は、だいたい目星がついているらしかった。
ミニちゃんは方向を変えると、背の高い森の木々の間を次々にすり抜けていく。
しかしまあ、際限がないのかと思うくらい、森は広かった。
ミニちゃんが結構な速さで走ってくれても、どこまでいっても、森だ。
「どこまで続いているんでしょう、この森って」
と私が漏らせば、リカルドさんも「分からないよ」と言う。
「エスト島はかなりの広さなんだよ。一度、船で周囲を回ろうとしたけど、それを断念するくらいにはね」
「……そ、そうなんですか…………」
「うん。だからこそ、国は不毛の地と分かっててもここの開発を諦めきれないでいた。比較的近海にあるのもあってね。
だから、島にはもう半年近くいるけど、なにも分からないな」
「……それって、本当に未知数ってことですよね」
「あぁ、そうなるね。ここに流されるときに見せられた昔の記録では、人がいたって記録もあるけど、まだ会ったことはないな。
そもそも、森に入るのは、動物を狩るときだけだったから」
初耳の話ばかりだった。
私が島流しにあったときは、あくまで使用人の扱いだったからだろう、そんな情報はいっさい渡されなかった。
「未知すぎますね、ほんと。でも、わくわくもします。今後はミニちゃんで移動すれば、一気に探索範囲も広がりそうですし、地図とか作れたら便利かもですね」
「まぁ、そうだね。いつかもっと準備を整えたら、考えてもいいかもしれないな。でもまぁ今日のところは食料の準備もないし、その……」
「そうですね、今日はフンが優先ですね」
「……そういうことかな」
フンと言うだけのことを躊躇って、目を逸らす彼に、私はくすりと笑う。
「てっきり、屋敷のトイレ掃除で慣れているのかと思ってました」
「トイレの肥えだまり掃除だけは、部下に任せているんだ」
なるほど、これも育ちの違いなのかもしれない。
普段はなんでも受け入れてくれそうなくらい余裕を纏った彼が、こんなことで照れているのだから、可愛らしい。
一方、ミニちゃんはといえば、そんな会話に気が逸らされることもなく、着実に森の中を進んでくれていた。
途中、魔ウサギという、群れで襲い来る魔物が私たちを狙って攻撃をしかけてきたのだけれど……
ミニちゃんは、自分の枝をムチのように使って、跳びかかってくるウサギたちを蹴散らす。
そのうえで、倒れた魔ウサギを、私たちを乗せていない方の肩の上に置く。
「……驚いたな、ここまでとは。これなら、魔ネズミにもやられなかったんじゃないかな」
その一連の流れには、剣に手をやり戦おうとしていたリカルドさんも、目を丸くしてあっけに取られていた。
彼の疑問に対する答えは、こうだ。
『あなた方のおかげで、おれたちの傷はすっかり癒えている。おかげで、本来の力を出せるようになってきたみたいだ』
暴れているときは、かなり脅威に感じたが、あれでも万全の調子ではなかったらしい。
おかげで、ほとんど魔力を使うこともなく、ミニちゃんがかつて牛を目撃したという地点までたどり着く。
が、しかし。
そこに大型魔牛・ミノトーロの姿はなかった。
「どうやら、ここにはいないらしいね。気配のようなものも感じない。たしかミノトーロは草があるところに移動するはずだから、もうどこかへ移動したのかもしれないね」
「足跡とかもとっくに消えてるみたいですね、全然ありません……」
私たちがこう意見を交わしていると、ミニちゃんが嘆く。
『……もしかすると、古い情報だったかもしれない。長生きするおれたちにとっての少し前は、人間でいう数か月前のことだ。そのずれがあるのを忘れていた、申し訳ない』
やっぱりトレントたちは律儀だ。
しゅんと落ち込んで、反省の色を示す。
が、まぁしょうがない。こんなこともある。
頭を切り替えて、私は提案する。
「じゃあ、さっきの魔ウサギのフンに切り替えましょうか。ちょっと栄養素としては劣りますけど、まぁ、ないよりマシです」
「うん、そうだね。あまりこだわって、日が暮れる時間になったら、魔物たちも狂暴になるからね」
ミニちゃんがそれに従って、引き返そうとしたその時だ。
私の【開墾】スキルが、勝手に発動した。
それにより、辺りの土質が目に見えて分かるようになる。
どうやら、いい土は白く光って見えて、そこから少し質の下がる土はその輝きが弱く、また黄色っぽく映るらしい。
そして、それをあたり一帯に向けてみると……
「ミニちゃん、ごめん。少し待って。こっちに行ってもらってもいいかな」
白い光を放つ良質な土は、ある一定の方向に向かって点在しているようだった。
実際そこには芳しく、草も生い茂っている。栄養分を吸われてなお、この輝きだ。
それはつまり、とくに肥料として優秀なフンを残す魔牛・ミノトーロが移動をしていった道だと言えるのではないか。
「もしかして、マーガレットくん。居場所が分かるのかい……?」
「えっと、たぶんですけど」
私はミニちゃんに細かい指示を出しながら、その白い光の続く道をたどってもらう。
すると、どうだ。
少し先には本当に、ミノトーロの姿があった。
「……なんて、とんでもスキルなんだ、君のそれは。それに、そんな使い方もできるのだな」
「私もびっくりしてます、我ながら」
どうしようもなく地味だとされてきた【庭いじり】スキルに、ここまで便利で特殊な進化が待っていようとは、うん、考えもしなかった。
終わらない仕事と戦いながらですが、皆様のおかげで筆が乗っております。
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