13話 肥料を求めてトレントに乗って
――とまぁ、基本的には満足していたのだけれど。
やっぱり、王城の庭整備をしていたときと異なるのは、あらゆるものがないので、自分たちで用意しなければならない点だ。
「肥料が欲しいので、森の奥に材料の探索にいきましょう」
かぼちゃを畑に植え付けて数日。
私は朝食後の席で、リカルドさんにこう提案していた。
「肥料か……。それは必須なのかい?」
「いえ、必須というわけではないんですけど……。土の栄養素をかんがみると、若干不足しているようでしたので。どうせだったら、豊かな土にしたいんです」
それを知ったのも、もちろん【開墾】スキルによるものだ。
土に直接触れて、そこでスキルを発動することで、土の栄養状態が分かる。
ここらの土は、水はけなどは悪くなく、質はほどほどにいい。
だが、何度も生えては刈られていたらしいスゲ草が栄養を吸いつくしたせいか、やせほそっている状態になっていた。
「土が植物をはぐくむと言っても過言ないですから! どうでしょうか」
私はそう熱弁を振るう。
「……なるほど、分かった。たしかに必要らしいね。じゃあ、今日は森に出ようか。トレント達が暴れなくなったから、少しは安全になっているだろうしね」
それが実ったようであった。
リカルドさんも首を縦に振って、認めてくれる。
それからすぐに私たちは、出発の用意を整えた。
動きやすいような服装になるとともに、腰巻のポケットには、ナイフや緊急回避用の秘策である乾燥ハーブ粉や団子を何種類か入れておく。
屋敷のすぐ先にある森には、魔素が溢れている地点があり、一般的な動植物のみならず魔物たちも生息している。
そのため襲われたりする危険性も、それなりにあるのだ。
いざ森へと向かわんと、トレント達の脇をすり抜けていく。
『マーガレット嬢、森に行くのか』
そこで、トレちゃんに声をかけられた。
「うん、肥料を作りたいの。だから材料探しに森の中を少し歩いてみるつもりだけど、それがどうかした?」
『そういうことなら、わたしたちの方が詳しいな。よければ、わたしたちが力になろうか』
「力に……? どうやって」
と、私が問い返すや、その答えは返事ではなく行動で返ってきた。
他のトレントたちの間を縫うようにして、一体のトレントがこちらまで駆けてくる。
その全長は、かなり小さい。といって、私の身長の2倍ほどはあるが、周りのトレントに比べれば、半分程度の高さだ。
「こ、こども? こんな子もいたの」
『わたしが大きいから見えていなかったか。実の子というわけではないが、われらの仲間の中ではもっとも若い。まだ樹齢30年ほどだ。マーガレット嬢らの足として、連れていくといい』
そういえば、彼らは根を器用に動かして場所移動をもできるのだった。
たしかに、彼程度の大きさであれば小回りも効くし、移動手段としては最適かもしれない。
『乗ってくれていいよ、マーガレットさん、リカルドさん』
小さなそのトレントは、自分の枝と葉を器用にかみ合わせて、その肩となる部分に椅子を設けてくれていた。
「これって、乗せてくれるってことかい?」
「はい、この子はそう言ってますけど……」
重みで折れたり、負担になったりしないものだろうか。
私たちが少し戸惑っていたら、彼は自らの腕である枝で私とリカルドさんの身体をそれぞれ巻き付け、すくいあげる。
「えっ……」
なんて声をあげているうちに、優しく椅子の上に置いてくれた。
『心配いらないよ。おれ、力には自信があるんだ。さあ、もう行こうか』
彼はそう言うと、私たちの腰元に複数本の枝を、まるでベルトの様に巻き付ける。
……これで落ちる心配もなくなった。
しかも、トレントは根を地面に貼りつけるようにして移動するからほとんど揺れもない。超安心安全設計になっているときた。
馬車よりよほど優れた乗り物だ。
あれは乗り続けていると気分悪くなるしね。
「なんというか、至れり尽くせりの状態だな……。いいのかい、こんなに楽をして」
『いいんだよ、リカルドさん。おれにもいい運動になる』
「いいんだよ、って言ってます。もう、あんまり気にしないで、ありがたく乗せてもらう方がいいのかもしれませんね」
トレントとともに私たちは、森の奥へと進んでいく。
その途中で、リカルドさんが思い出したように「そういえば」と私に尋ねた。
「肥料っていったいどんなものを言うんだい? 森で採取すると言って、それそのものが落ちているのかい?」
「まぁそれに近い形のものは。私たちもよく知る奴ですよ」
「……なんのことだい?」
「え、フンですけど? なにかしら動物の。人間のものより、動物のものの方がいいんです。
あ、でもできれば魔物の方がいいかもですね! 魔素にもいろいろありますけど、活性化してくれる魔素ならなおよしです! 一気に成長を促進できるかも」
私はそこまで言って、隣のリカルドさんを見る。
こめかみを指先で搔きながら、
「…………なるほど、はは、はは……」
と、あからさまな作り笑いをしていた。
そのあとには、トレントの葉が揺れる音だけがむなしく響く。
まぁ普通、そんなものが肥料の原料として使われているだなんてことを、文化人をしていた侯爵貴族様が知っているはずもないか、うん。
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