11話 【side:王城】植物魔が暴れ、害虫が大量発生
――一方。
マーガレットが王城を追放されて、約ひと月ほど。
王城内の各種事務は、ひどい滞りを見せていた。
「な、なんで、こんなに毎日問題が起きるの!」
と悲鳴をあげるのは、ベリンダ公爵令嬢の派閥に属する一人の女官だ。
マーガレットがいなくなって以降、王城の庭整備を担当している。
が、その庭はいまや荒れ放題になっていた。
つる植物魔・オルテンシアが急激な成長を見せて、暴走したのだ。その勢いは、いよいよ庭を覆いつくすほどとなり、制御できていない。
植物魔・オルテンシアは、有事の際の防御策にもなるとして、5年ほど前に王城の砦に植えられた。
きちんと世話をしていれば、普段はおとなしく、なにら普通の植物と変わらない。
だが、扱いを一つ間違えればとんでもないことになる。
「ちゃんと、栄養価の高い肥料をあたえたはずなのに……」
と、その女官はいぶかしむが、そう単純なものではないのだ。
植物魔だって人間と同じで、個体によって好みや性質が異なる。
それを無視して、判で押したような世話をしてしまえば、当然合わない個体も出てくる。
もともとは、マーガレットが彼らの世話を一手に引き受けていた。
最初に植物魔が導入されたときから、ずっとだ。
彼女は【庭いじり】スキルにより、植物魔一体一体の特徴を把握して、細やかな手入れをしていた。
そのため、暴走などすることなく、彼らの状態は常に安定していた。
が、そのマーガレットはもういない。
突然の追放処分であったから、引継ぎなどもなされていなかった。
つまり、もう手の付けようがない。
似たような状況は、また城内の別箇所にある庭でも起きていた。
「ひぃっ!? なに、この大量の虫は!! いったいどこから発生してるの!」
王城内は、かなりの敷地面積があり、庭はそのいたるところに設置されている。
そうなれば、すべてを綺麗に保ち切るのはかなり難しい。
害虫などが発生することもままあったのだけれど、今回はその駆除ができないのだ。
おかげで本来ならば美しい赤黄青の花が並ぶはずの花壇は、羽虫により真っ黒になり、肝心の花が枯れている。
「きゃあ、気持ち悪い、無理!!」
「ちょっと、こっちにこないでよ。あんたらの派閥の問題でしょ」
「いいや、あなたたちにも責任は――」
こんなどうでもいい争いを、猛威を振るう害虫を前に繰り広げる。
これも、マーガレットがいたときは、おおごとにならなかった。
早い段階でその兆候に気付いて、対処を実行していたためだ。害虫駆除も、そもそもの予防も、お手のものだった。
これも【庭いじり】を使ったことにより、対処方法を引き出していたのだから、もうどうしようもない。
これまでまったく庭作業に関わってこなかった女官たちには分かりようがなかった。
事ここに至って、女官らはみな思うのだ。
「マーガレットさえいれば」、と。
♢
王城で起きたこれらの問題は、やがて貴族らの中でも大きな議題となっていた。
そしてその責任は、ベリンダ令嬢へとのしかかっていた。
島流し後、マーガレットの評価が勝手に上がるのとは反対に、それを実行したベリンダには批判が集まりだしていたのだ。
『マーガレットが王女を操ろうとしていた』という嘘も、『権力を握りたかった』という本音も、一部の人間には感づかれ始めていた。
そんななか、ベリンダは自ら王城へと赴く。
失地を回復するためにはもう、自ら問題を解決するほかなかったのだ。
「べ、ベリンダ様!!」
突然の、公爵令嬢の来訪だ。
震えながら迎える女官たちに、ベリンダは冷たい視線をくれてやる。
「まったく、どいつもこいつも使えない……!! 虫とか草とか、しょうもない。そんなことでわたくしの手をわずらわせないで」
……こうは言ったものの、ベリンダははなから自分がなにか手を加えるつもりはなかった。
たかが庭だと、高をくくっていたためである。
ベリンダは、何人かの火属性魔法スキルを持った人間を伴ってきていた。
彼女は彼らに命じて、植物魔、害虫ともども焼き払わせる。
「ふんっ、なーんだ。これくらいで終わる話なら、最初からこうしておけばよかったじゃない。あとは、新しい植物魔と、花壇の花を手配すれば終わりね」
荒っぽい策ではあったが、一応はこれで片が付いた。
そう思って女官たちもみな安堵していたのだが、しかし。
その害虫は魔素を食べて育つ性質があり、火属性の魔力を蓄えたことにより、燃え尽きるどころか増殖。
一方の植物魔は、焼かれた怒りから荒れ狂う。
地下に残ったわずかな根から急成長したうえに制御が全く効かず、挙句には人を襲うまでになった。
そのときは、女官一人の被害であったが……これでもし王族の者が襲われていたら、大ごとだ。
やがて、ベリンダはこれらの失態について糾弾されることになるのだった。
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