109話 【side:リカルド】隣に並び立つために。
マーガレットが、自身の天候を変える力に気づく――。
それはリカルドにとって、いつかくるだろうと、覚悟していた瞬間であった。
いくらリカルドが隠そうとも、その力は彼女自身のものだ。
きっといつかは、分かる日が来る。
そうは思っていたが、それは想定より、かなり早い段階で訪れていた。
できれば、知ってほしくはなかった。
このまま隠し通せていたら、それが一番よかった。
天候を変える力は、あまりにも稀少な力だ。
もし外にこの情報が漏れてしまったら、彼女の身が他国などから狙われる原因にもなりうるし、単に消費魔力量も膨大で、使用には危険を伴う。
正直に言えば、「使わないでくれ」と喉元まで言葉が出かかった。
形式上、自分は彼女の上司にあたるから命令することはできないことじゃない。
ただリカルドとしては、彼女の行動に制限をかけることに躊躇いもあった。
そもそも前回の嵐の日だって、その能力を本人に伝えるか否かは迷ったのだ。
結果として、マーガレットの身の安全を守るため、リカルド自身が彼女とともに過ごすために、伏せておくことにしたが、その決断が正しかったのかどうかはいまだに確信を持つことができていなかった。
そこへきて、マーガレットが自分の力に気づいた。
その事実を聞いた瞬間は、どうしたものかと思ったが、前回と今とでは、状況が違っていた。
リカルドは直前に、瘴気による魔力暴走を克服して、これまでより強い魔力を手に入れていた。
そのきっかけは、思うように体が動かず、意識だけがあった際に聞こえてきた「私のせいだ」という、マーガレットの悲痛な叫びだ。
リカルドとしては、魔力暴走になったことを悔やんではいなかった。
自分は犠牲になったが、大切なマーガレットを守れたならそれでいい。
そう満足さえしていた。
だが、それがむしろ彼女を追いこんでいたのだと、彼女の吐露ではじめて気づかされた。
その事実は、リカルドを打ちのめす。
少しずつ戻り始めていた力が抜けていき、また意識が遠のいていきそうになる。
が、しかし。
それを踏みとどまらせたのもまた、マーガレットだった。
ギンとのやり取りの末、彼女は瘴気を止めるために再び動き出す。
その強さが、リカルドを強く奮い立たせた。
自分だけ、こんなところに留まってはいられない。今度こそ彼女の力になりたい。守れるような力が欲しい。
そんな思いから、リカルドは魔力暴走との戦いに勝ち、それを克服するに至った。
その経験が、リカルドの考え方を変えていた。
マーガレットには彼女のしたいようにしてもらって、その身の安全は、自分が守ればいい。
それなら、彼女の可能性を潰さなくとも済む。
そんなふうに思うことができていた。
だから、マーガレットへ向けた言葉はすべて本音だ。
これからも隣に並び立っていられるように、もっと強くなる。
そんなふうにリカルドは、覚悟を決めたのであった。
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