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108/109

108話 心配しなくていいよ。

妖精姉妹の行方を見送っていたら、ギンがぼそりと言う。


「マーガレット、お前、天候まで変えられるんだな。さっきの雨、止めたんだろ」

「……あはは、そうみたい」


誤魔化す余地はどうもないようだ。

目の前で見られた以上、否定はできない。


私は苦笑いでこう答えてから、リカルドさんの反応が気になって、彼のほうへと目を流す。


彼は目を瞑って、少し考えるように眉を寄せていた。前にも、見たことのある顔だ。たしか、あの大雨の日の話をしたときだったっけ。


私は思わず、彼の顔を見つめる。と、その表情には柔和さが戻った。


「とりあえず帰ろうか。二人とも、もう疲れただろ?」


あまりにも、あっさりとした回答であった。

それだけ言うとリカルドさんは、くるりと身を返して、山を下り始めてしまう。


「おい、リカルド。まだ近くに、悪事を働いた人間が忍んでるかもしれないんだぞ」


ギンが大きな声でこう言うと、やっと足を止めてくれた。


「あぁ、すまない。そんな人がいるのかい?」

「らしいぜ。実際、ぷんぷん匂ってるし」


ギンがリカルドさんに追いつく一方、私は足が進まない。


リカルドさんは、なにを考え込んでいたのだろう。まさか、恐ろしいとでも思われてしまっただろうか。


そんな想像が駆け巡って、私は少し俯き加減に歩く。


「って、遅すぎるだろ! いいからとっとと捕まえに行くぞー、マーガレット」


するとギンから、こんな声が飛んできた。


それで私が顔を上げると今度は彼だけが先々歩き出している。リカルドさんはといえば、こちらを向いて、私を待ってくれていた。


ぱたり、目と目が合う。

その憂いをたたえるエメラルドグリーンの瞳から、私がどうにか心の内を読み取ろうとしていたら、


「心配しなくていいよ。僕は君がどんな力を持っていようが、関係ないと思ってる。まったく気にしない」


逆に見通されたような答えが返ってきた。


それは、欲しかった答えそのものだった。

だが、それだけでは納得はいかない。


「じゃあ、さっきの表情は」

「あぁ。あれかい? あれは、僕の中で覚悟を決めていただけだよ」

「……覚悟ですか」

「うん、自分で自分に言い聞かせてた。ただそれだけさ」


結局、要領を得ない。

なにに対する覚悟なのかも、なにを言い聞かせていたのかも、私には全く分からない。


だが、リカルドさんの爽やかな笑みを見るに、その言葉が嘘でないことはたしかなようだ。

色々な顔の彼を見てきたから、それくらいなら分かる。


ならばもうこれ以上、詮索するような真似はしたくなかった。


「すいません、変なことを聞いて」

「いいんだよ。なんでも言ってくれて。さて、じゃあ早くその悪人を捕まえに行こうか」

「……ですね!」


こうして話を切り上げる。


「お前らなぁ。早くしてくれよ。逃げられたらどうするんだ?」


そこへ、しびれを切らしたギンからこんな催促が飛んできて、私たちは少し駆け足で彼のもとへと向かうのだった。





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― 新着の感想 ―
一件落着かと思ったら、まだ原因になった迷惑な悪人どもが残ってた!まあ、このメンバーなら問題なし! リカルドさんは、マーガレットさんに天候変えられる事を黙ってた事を考えてそうですね。 何があっても皆、マ…
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