108話 心配しなくていいよ。
妖精姉妹の行方を見送っていたら、ギンがぼそりと言う。
「マーガレット、お前、天候まで変えられるんだな。さっきの雨、止めたんだろ」
「……あはは、そうみたい」
誤魔化す余地はどうもないようだ。
目の前で見られた以上、否定はできない。
私は苦笑いでこう答えてから、リカルドさんの反応が気になって、彼のほうへと目を流す。
彼は目を瞑って、少し考えるように眉を寄せていた。前にも、見たことのある顔だ。たしか、あの大雨の日の話をしたときだったっけ。
私は思わず、彼の顔を見つめる。と、その表情には柔和さが戻った。
「とりあえず帰ろうか。二人とも、もう疲れただろ?」
あまりにも、あっさりとした回答であった。
それだけ言うとリカルドさんは、くるりと身を返して、山を下り始めてしまう。
「おい、リカルド。まだ近くに、悪事を働いた人間が忍んでるかもしれないんだぞ」
ギンが大きな声でこう言うと、やっと足を止めてくれた。
「あぁ、すまない。そんな人がいるのかい?」
「らしいぜ。実際、ぷんぷん匂ってるし」
ギンがリカルドさんに追いつく一方、私は足が進まない。
リカルドさんは、なにを考え込んでいたのだろう。まさか、恐ろしいとでも思われてしまっただろうか。
そんな想像が駆け巡って、私は少し俯き加減に歩く。
「って、遅すぎるだろ! いいからとっとと捕まえに行くぞー、マーガレット」
するとギンから、こんな声が飛んできた。
それで私が顔を上げると今度は彼だけが先々歩き出している。リカルドさんはといえば、こちらを向いて、私を待ってくれていた。
ぱたり、目と目が合う。
その憂いをたたえるエメラルドグリーンの瞳から、私がどうにか心の内を読み取ろうとしていたら、
「心配しなくていいよ。僕は君がどんな力を持っていようが、関係ないと思ってる。まったく気にしない」
逆に見通されたような答えが返ってきた。
それは、欲しかった答えそのものだった。
だが、それだけでは納得はいかない。
「じゃあ、さっきの表情は」
「あぁ。あれかい? あれは、僕の中で覚悟を決めていただけだよ」
「……覚悟ですか」
「うん、自分で自分に言い聞かせてた。ただそれだけさ」
結局、要領を得ない。
なにに対する覚悟なのかも、なにを言い聞かせていたのかも、私には全く分からない。
だが、リカルドさんの爽やかな笑みを見るに、その言葉が嘘でないことはたしかなようだ。
色々な顔の彼を見てきたから、それくらいなら分かる。
ならばもうこれ以上、詮索するような真似はしたくなかった。
「すいません、変なことを聞いて」
「いいんだよ。なんでも言ってくれて。さて、じゃあ早くその悪人を捕まえに行こうか」
「……ですね!」
こうして話を切り上げる。
「お前らなぁ。早くしてくれよ。逃げられたらどうするんだ?」
そこへ、しびれを切らしたギンからこんな催促が飛んできて、私たちは少し駆け足で彼のもとへと向かうのだった。
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