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105/109

105話 荒れ果てた集落に。

 ♢



精霊少女と黒壁の入り口で別れて、私とギンは中へと足を踏み入れる。


そこには、禍々しい空気が垂れこめていた。


中にある植物たちはことごとく枯れており、まるで山自体が死んでしまっているかのようにすら思える。

そして、そんな環境だから、隠れる場所もないため、魔物たちも次々に襲ってきた。


いちいち戦闘していたら、らちが明かない。


そこで獣化したギンの背中に背に乗せてもらい、上へと進む。


その間、天気は晴天から雨天へと変わり、そしてまたすぐに晴天へと戻る。


「……天気が不安定だね。これも、その精霊の影響かな」

「さぁな。とにかく行くしかないだろ。こっちでいいんだよな」

「うん、このまま登っていけばいいと思う」


拒絶されるような例の感覚は、変わらず続いていた。


だが、私はそれを頼りに、むしろそちらへと近付いていく。

そして、その途中、通りがかることになったのが、ウルフヒューマンたちの集落だった。

ギンはそこに立ち入ると、その足を止めた。


「……こんなことになってんのかよ。ここにうちの集落があったとは思えねぇな」


ひどい有様だった。

集落や、倉庫、家々は一部残っていたものの、ほぼ全壊状態。


集落の中には魔物の足跡がいくつも残っていたから、人がいないのをいいことに、好き放題に荒らされたのかもしれない。


ギンは集落の中を見回しながら、ゆっくりと歩を進める。

魔物の襲撃自体は、本土でも、島に来てからも、何度か経験してきた。


だが、ここまで壊される経験はしたことがない。


「……ギン」


かける言葉が思いつかず、私は彼の名を呟く。

しかし、ギンがそれに答えることはなかった。だんだんとその歩を速めて、集落を抜けようとする。


「えっと、いいの?」

「あぁ、見ててもしょうがないだろ。それに一応、じじいまで含めて、全員無事なんだから、それで十分だろ」

「……強いね、ギンは」

「う、うるせーよ。もう行くぞ」


素直に思ったことを言っただけなのだが、たぶん照れ臭かったのだろう。

ギンは話を誤魔化すようにスピードをあげていく。


そうして先へと進んだところで見つけたのは、明らかに不自然な更地だった。

瘴気の影響というわけでもなさそうだ。


あたりには枯れた草木が散らばっているのに、その場所だけ、なにも残っていない。


「……なんだろ、ここ。こんな場所知ってる?」

「いや、知らねぇな。ふつうに森だった記憶だけど」


これは、なにかがおかしい。

そう思った私は、一度ギンの上から降りる。

そのうえで土の下から残った根を掘り起こして、【開墾】スキルを使ってみると……



『・ブクレイ……一年草。夏に紫色の小さな花をつける。その根は、咳症状を抑えることに利用することができ、瘴気を抑える力がある』



表示されたものに目が丸くなった。


ブクレイは、もともと私たちが探し求めていた薬草だ。


ギンたちとの出会いや瘴気が強まった影響で、最近では半分うやむやになっていたが、そもそも私たちが麓から中間地点まで登ってきたのは、この薬草を見つけて本土へと送るためでもあった。


それが、根こそぎ持っていかれている。


これがどういうことか。私の頭に一つの仮説が浮かんできたところで、


「なにか分かったのか?」


一度獣化をといたギンが後ろから覗き込んで、こう尋ねてくる。

一瞬、話すのをためらうが、もう隠してもしょうがない。


「本土の人間が、この事態を引き起こしたのかもしれない」


私は正直に伝える。


「人間が? なんでそんなこと分かるんだよ」

「今本土では、ブクレイから作る咳症状を和らげる薬が不足してる。だから今、ブクレイを本土に持ち帰ることができたら、高値で売ることができるの。お金があれば、本土ではなんでもできるから」

「……なるほど、金か。ジジイに聞いたことがあるぜ。それが価値あるって話は。それ目当てか」


私は一つ、首を縦に振る。


だが、まだこれだけでは断定はできない。


そこで試しに周囲を探ってみたら……明らかに人工物の布切れ、魔道具のかけら、さらには足跡まで、次々と出てくる。


どうやら隠す気もないらしい。


「……まだこの辺りにいるかもな、この感じ」

「そんなことまで分かるの?」

「あぁ、動物の行動を追うときに使うからな。ほら、この足跡なんか、まだくっきり形が分かるだろ。この感じだと、一日二日前じゃないか?」


彼はそう言うと、私が握っていた布切れを取り、鼻を押し当てる

少し嗅いだのち、


「やっぱり近いな。もしかしたら、そいつら、この壁の中に閉じ込められたのかもな」


と小さく呟いた。

さすがはウルフヒューマンだ。その嗅覚は、人間とは全く違う。すぐに、距離感までを当ててしまった。


「どうする、追うか? まだこの辺にいるみたいだぞ」

「あとででいいよ。まずは精霊さんのお姉ちゃんを助けに行かないと」

「まぁそれもそうだな」


ギンは一つ首を縦に振ると、再び獣化をしてくれる。


そうして、さらに上へと登っていったときだ。


山の上で見えたのは、超局所的な竜巻だ。

その奥から、あの拒絶されるような感覚がする。どうやらこの奥に、あの精霊さんの姉がいるらしい。

その風の勢いは、かなりのものだった。


近づいていこうとすれば、当然、私たちも巻き込まれてしまう。


強い風が枯草や土埃とともに、上から吹き降ろしてきていた。

視界がほとんど遮られているうえ、身体が浮くような感覚がする。


が、それでもギンは歩を止めようとはしない。


「マーガレット、よく掴まってろよ」

「ちょっと、ギン。このままいくつもり?」

「あぁ。びびってられねぇだろ」


ギンは風に身を流されながらも、前へと歩を進めようとする。


が、いくら強靭なウルフヒューマンの手足でも、さすがに逆らえない勢いだ。

ギンは飛ばされないよう、姿勢を低くしてどうにか地面にしがみつく。


しかし、さらに風は強くなぅていく。


「くそ、俺の力じゃ足りねえか……?」


とギンが漏らしたのを聞いて、思い出した。

そうだ、今のギンは飴を食べることで力を抑えている。


じゃあ逆に、その力を強化することができたら、この風も乗り越えることもできるかもしれない。

ただでさえ、瘴気の濃い地点だ。


暴走する危険性はある。だが今の彼なら――


「ギン、口開けて!!」


私は、エナべリ水を彼の口の中へと注ぐ。

すると、少しして明らかに力のみなぎり方が変わった。ギンは後ろ足で大きくためて、力強く前へと飛び出す。

そうして、渦の内側に入ることに成功していた。


「……これ、すげえな」


ギンがそう感想を漏らすから、私は「でしょ」と答えるとともに、


「ギンも、これでも暴走しないなんてすごいよ」


と、その頭を撫でる。


「……や、やめろよ、そういうの。軽々しいっての」

「軽々しい……? うーんと、どのへんが?」

「くそ、いいから手どけろよ。あと、重いから降りろ」

「なっ……!?」


そりゃあたしかに、軽いほうだとも思ってないけれど。

だからって、重たいと言われる筋合いはない。


私とギンはそこから、しょうもない言い合いをする。

そのうちに、「立ち去れ」という呼びかけは徐々に大きくなっていき……


そして、行き当たったところにあったのは、さっき抜けてきた竜巻より、かなり小振りになった小さな風の渦だ。


感覚的に、まず間違いない。どうやらこの内側に、精霊がいるらしい。



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本作、2巻が発売されています!
MFブックス様からの2月下旬の発売となりますので、ぜひに✨!画像がMFブックス様へのリンクになっております。
322411000126_01.webp 【ついで告知】 新連載はじめました!
大変面白い作品になりましたので、併せてよろしくお願いいたします。
焼き捨てられた元王妃は、隣国王子に拾われて、幸せ薬師ライフを送る〜母国が崩壊? どうぞご勝手に。〜

― 新着の感想 ―
スローダウンしましたね、”なろう”あるあるかあ
とうとう精霊姉さんのところまで! 一部の馬鹿な人のせいでこんなことに!?そいつらはお仕置きするべきですね!生きてるか知らんけど。
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