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104話 いざ壁の奥へ再挑戦!


   ♢



その精霊さんは、とてもよく喋る子だった。


『姉は、わたしと同じく、大木が精霊となった存在です。数週間前までは、異常な瘴気を解決しようと、一緒に活動していたのですが……姉の本体である木が瘴気に飲み込まれてしまい、その際にあの黒い壁ができてしまいました。そこで、わたしは姉を救おうと中に入ろうとしたのですが、瘴気の勢いは予想以上でした。その際に大半の力を失ってしまって』


と、息つく暇もなく長尺で喋ったあと、


『このままでは、わたしも飲み込まれてしまいかねない状況でした。だから、こうして本体の木に戻らざるをえなくなっておりました。ずっと、マーガレット様に呼びかけていたのですが、力がなくなると声も届かなくなる。どうしたものかと手をこまねいていたとき、あなたがたが現れてくれたのです! あぁ、天はわたしを見放してなかったのね! ありがとう神様』


さらにどんどん話を続け、最終的には一人で会話を完了してしまう。


正直ついていけないペースではあったが、序盤に大事なことを言っていた気がするから、私は改めて確認する。


「……えっと、じゃああなたのお姉ちゃんが、この壁の原因ってことで間違いない?」

『あ、はい、おそらく。本来、精霊は瘴気に対抗する力を持っています。ですが、瘴気に飲まれてしまえば、その力が逆に働いてしまい、今回のような現象を引き起こします』

「そんなの、どうすればいいの?」


『壁の中に入り、その精霊の望みをかなえてやれれば、元に戻るとされています』

「……望み」

『はい、わたしの姉の望みです。それがなにかは、私にも分かりかねますが』


かなり抽象的な話だ。

その望みとは、なんなのだろうか。私が思案していると、


『わたしはまだ大きさで言えば、このトレントよりも小さいくらいで、森の中でも若い木々でした。あぁ、懐かしいなぁ。あの頃は、本当によかったんですよ。このあたりは、今よりもう少し涼しくて――』


精霊さんは嬉し気に次々と喋る。

……そして、その話は放っていたら、どんどんと脇にそれていく。


それだけなら、まだいいのだけれど、ギンにはそれが聞こえないのだから困った。


「なに言ってるんだ、こいつ」

「えっと、とりあえずこの子のお姉さんの願いを叶えてあげられれば、瘴気の壁は壊れるってことみたい」


私は話を要点だけまとめて、それをギンに伝える。


『もう一回、伝えなおしてください。わたしが若いときの話もしていただかないと!』


が、そのそばから、こんなふうに突っ込みを入れられてしまった。精霊さんは私の正面に回り込んで、鼻先を突っついてくるのだから、こそばゆいったらない。


『マーガレットさん、大変そうだね……』


それを見ていたミニちゃんからは、こう同情される。

『今、トレントはなんと言いましたか? 教えてくださいな』


ちなみにミニちゃんと少女は、魔物と精霊という正反対の存在であるからか、お互いの声が聞こえていないらしい。


うん、もうわけがわからない……。分かるのは、ただ一つ。全員の言い分を理解出来ているのは、私だけだということだ。


だから私はひたすら、聞いてはそのまま伝えるのを繰り返す。


そんなうちに、目的の壁はすぐそこまで来ていた。

そこで私たちはミニちゃんから降り、壁のすぐそばまで寄っていく。

ギンの尻尾はぴんと強く張っていた。


やはりウルフヒューマンにとって、瘴気の影響はかなり強いらしい。


「ギン、大丈夫? 飴舐める?」

「……そうだな。一応、もらっとく」


最近はかなりコントロールが効いてきたこともある。八割程度に抑えれば問題ないだろう。

そう考えた私が飴を差し出すと、ギンはそれをすぐに口へと入れる。それから、あたりに鋭い眼光を向けた。


「しかし、ここ。魔物の匂いがうじゃうじゃするぜ。気をつけろよ」


そうだ、ここで同じ轍を踏むわけにはいかない。

私も周りに気を配っていると、この間と同じく、黒壁の奥から拒絶されるような感覚になる。


『あなたにも聞こえていますか』

「うん。これは、あなたのお姉ちゃんのものよね?」

『はい。ですが、これはきっと本心ではありません。きっと彼女は救いを求めているはずです』


彼女はそう言うと、黒壁にそっと触れる。


すると、その身体はたちまち強い光を放ちはじめた。

その小さな身体から魔力が次々にあふれていく。


それに反応するように、瘴気の壁は徐々に薄くなっていった。


ここまでであれば、浄化聖水でも同じような現象が起きていたが、そこはさすが精霊の力というべきだろう。


やがて壁は薄くなり、最後には一部分だけとはいえ、人が一人通り抜けるには十分な大きさの穴が開いていた。


これにはギンも「やるじゃねぇか」と唸っていた。


「ありがとうね、精霊さん」

『いえ、わたしはここから先に入ることはできませんから。お手伝いできず、お任せしてしまう形となり、申し訳ありません。どうか、姉のことを、お願いいたします』

「うん、任せてよ。なんとかしてくるから」



引き続きよろしくお願いいたします!

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大変面白い作品になりましたので、併せてよろしくお願いいたします。
焼き捨てられた元王妃は、隣国王子に拾われて、幸せ薬師ライフを送る〜母国が崩壊? どうぞご勝手に。〜

― 新着の感想 ―
いよいよ壁の中へ! 魔物も多そう…。 精霊お姉さんの願い…いったいどんなことか? そして精霊妹さん、凄いお喋りw お姉さんもお喋りなのか、対照的に無口なのか?
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