101話 ????
更新が空いてしまい、失礼しました。
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【開墾】のスキルを使い、植物の情報を得るなかで、なにか使えるものがないかを探す。
作戦もなにもない、まったくもって、やみくもな探索だった。
そんな状態だから、成果は一向に上がらない。
二日間、トレントたちの力も借りながら森を歩いてみて手に入れたのは、ついさっき採取した柑橘果実が数個だけときた。
それも、瘴気の対処に使えるわけでもない、ただの食糧だ。
しかも、少し先を歩いていたギンが大きな木の入り組んだ根の上に座り込んで、すでに食べはじめている。
「案外いけるけど、食うか?」
しっぽをゆらゆら揺らしながらこう投げかけてくるのだから、暢気なものだ。
でも、時間的にはちょうど昼ご飯の時間だ。
食べないままでいるとおなかは空く。
だから私は、太い根を飛ぶようにして乗り越えたのち、彼の横に腰を落として、その果実をありがたくもらい受ける。
一つかじってみると、酸味はかなり強いが、意外といけた。
うまく使えば、お菓子の材料になるかもしれない。
そう考えながら、交互にそれを食べる。
「……しかし、なんも見つからねぇもんだな」
「うん、まぁ最初から奇跡を探すみたいな話だからしょうがないんだけどね」
「せめて食い物がもう少し見つかればなぁ」
「ギン、目的忘れてない?」
「マーガレットは根詰めすぎなんだよ。この辺なら、今は魔物の匂いもしねぇ。少しは休むことも大事だろ」
「たしかにそうだけど……」
こうしている間にも瘴気の範囲は拡大しているのだ。
どこか、気持ちが急いていた。そのため私が微妙な反応を返すのにもかかわらず、ギンは木にもたれかかるようにして、目を瞑る。
こうなったら彼は、まずしばらくは動いてくれない。
だったらもう、休むほか選択肢がなかった。
私も気の根元に腰を下ろして地面に寝転がり、空を見上げる。ゆっくり流れていく雲をぼうっと眺めていたそのときだ。
「あれって……」
視界の端に、煌めくなにかが一瞬映り込んだ。
すぐに葉に紛れてしまったけれど、間違いない。
どうやら今もたれかかっている木のはるか高いところで、それは日の光を強く反射していた。
私は起き上がって。もう一度上を見上げてみる。
かなり高い木だった。
その背たけは、トレントの中でもっとも背の高いトレちゃんよりもさらに高い。
そして、さっきの煌めきはたくさんの葉に紛れたせいか、見えなくなっている。
気のせいだったのかも? そう思いながらも、私が【開墾】スキルを発動してみれば……
『・チトセスギ……水分量の少ない箇所で、ゆっくりと成長する杉の一種。なかには、樹齢千年を超える大樹になるものも存在する。』
『・????……????』
木の説明だけではなく、なんと二つの項目が表示された。
ただし、あの煌めきを指すのであろう項目は、まったく未知のままだが。
こんな表示が出るのは、スキルを試用して以来、はじめてのことだ。
これまでは私が初見の植物でも、表示がなされたのだから、特殊な植物であることはまず間違いない。
それが瘴気を抑えるために使えるかどうかは、まったく分からないが……少ない可能性にかけて、なにか糸口を求めている今、それを調べない手はなかった。
それに、だ。
なんとなくだけれど、呼ばれている――そんな気がした。
「ギン、起きて。すごいものを見つけたかも!」
「……んだよ、落ち着かねぇやつだな。どこだよ」
「上だよ、上! 私、ミニちゃん呼んでくるから、ここにいてもらえる?」
私はすぐにその場を離れて、近くで待ってもらっていたミニちゃんを呼びに行く。
そのうえで、
「私たちを目いっぱい高いところまで上げてもらってもいい?」
こんなお願いをした。
ギンはそれで、なにをするか悟ったらしい。
「お、おい、無茶だろ、それは」
口元をぴくぴくと引きつらせ、しっぽをぴんと立てる。
この表情は、たぶん内心すこし怖いのだろう。
「じゃあ、私一人でも大丈夫だよ。下で見ててもらえる?」
だからこう言うのだけれど、
「……別に行かないとは言ってないっての」
返ってきたのは、強がりな言葉だった。
本当に大丈夫かしら、と思うが、その言葉を受けてミニちゃんはすぐに私とギンの腰元にそれぞれ枝先を巻き付ける。
『じゃあ、ゆっくり上げていくね。おれの力のみせどころだね』
そのうえで、足場まで組んでくれて怖さを感じないくらいのスピードで、私たちを持ち上げていった。
いつも乗せてもらっている位置をすぐに超えて、さらにその上まで枝は伸びていく。
思ったよりもかなりの高さだ。
「ちょ、まだ行くのかよ」
ギンは明らかに怯えていた。身体を縮めて、耳もしっぽも、強くこわばらせている。
一方の私はといえば、真逆だ。
日ごろにはない浮遊感になんとなく心が浮く感じを覚えていたら、ついにその動きが止まった。
下を見れば、ミニちゃんの背丈の二倍くらいの高度だ。落ちたら間違いなくただじゃすまないが、怖がっていても仕方がない。
私は顔を上に向ける。
すると、さっきの煌めきは下にいた時よりもはっきりと確認できた。他のものから少し飛び出した枝の先に、その実はなっている。
距離としてはもう少しの場所まで来ていた。
が、あまりの巨木だ。この位置から手を伸ばしたところで、届きそうにない。
「ミニちゃん、もう近づけないよね?」
『うん、これ以上はおれの枝と絡まっちゃうよ』
ミニちゃんも動けないとこれば、方法があるとしたら思い当たるのは一つだ。
私はちらり、ギンのほうへと視線を流す。
ギンはそれで、なにを告げられるかを察したらしい。
「…………マーガレット、お前まさか。あそこまで跳べって言うんじゃないだろうな」
「そのまさかをお願いできないかな?」