10話 助けたトレントが仲間に!
『たのむ、なにか恩を返させてくれ。でなければ、示しがつかぬ』
どうやら、このトレント、結構に強情らしかった。
まったくもって、引いてくれそうにない。
違う道から行こうとすれば、今度はそこも塞がれてしまう。
このままいけば、四方を囲まれかねない状況だ。
「……これ、どういう状態になっているんだい。捕食されたりしない?」
トレントの声が聞えていないリカルドさんは、青ざめた顔で私にそう確認する。
だが、その心配だけは絶対に無用だ。
「むしろ逆に、恩返しをしたいと請われてるんです」
「恩返し……。植物魔・トレントって、そんなに律儀な魔物だったのか。初めて知ったよ」
「私もですよ。話せるようになって、やっと知りました。えっと、なにか頼めることって思いつきます?」
「植物魔に頼み事をする日がくるとは思ってなかったからな……。そう言われてもすぐには出てこないな」
「ですよね……」
どうせ、もう辞退することはできなさそうだった。
ならばなにか頼めることがないだろうかと、少し頭を巡らせる。
そうして思い浮かんだのは、かつての職場の光景だ。
それで、ふと思いつく。
「ねぇ、トレント。じゃあ、お願いしたいことがあるんだけど」
『もちろんだ。なんなりと申し付けるがいい。わたしに聞けることなら、なにでも叶えよう』
「私たちの住む屋敷の周りを守ってくれないかな。もちろん、傷を癒すついででいいよ。毎日、あのハーブ水をかけてあげるから、なにかあった際の防御をしてほしいの」
頼んだのは、いわば用心棒だ。
王城でも、相当数の植物魔が同じような理由で育てられていた。
植物魔はうまく育てることさえできれば、自分たちの生息する場所に愛着を覚えて、なにかあったときにその場所を守ってくれるようになるためだ。
それらはトレントとは別種の植物魔であったが、同じような働きをしてくれるなら、ありがたいことこのうえない。
事前に危険を察知できれば、対策も取りやすいというものだ。
『なるほど……。それは恩を返す甲斐がありそうだな。それに、申し分のない環境だ……。うむ、ぜひにやらせてほしい』
トレントは、私の頼みをあっさりと引き受ける。
言葉の調子は畏まったものだったが、喜んでいるらしいのはその葉がわさわさと揺れている音でよく分かった。
他の人が聞けば不気味に思うのかもしれないが、こうして機嫌が分かるのも、【庭いじり】改め【開墾】スキルの特徴だ。
『では、これからよろしく頼む。…………して、娘よ。名をなんと言う?』
「マーガレットよ。それからこっちは、リカルドさん! こちらこそ、これからよろしくね。あなたの名前は?」
『あいにくだが、わたしには名がない。適当に呼ぶといい』
「じゃあえっと……、トレちゃんとかどう? あれ、でも性別とかないよね」
『……まぁなんでも構わぬが』
ともかくも、こうして心強い見張り番が一匹仲間に加わることになるのだった。
――と、そう思っていたのだけれど。
数日後、屋敷の周りに移動してきたトレントは、トレちゃん一体ではなかった。
「な、な、なんでこんなにたくさん!? 本当に大丈夫なんですか、マーガレットさん!」
部下の方々は、トレントに追いかけ回されからがら逃げ帰ってきたということもあろう。
かなり、腰を引かせていた。
無理もない、なぜか十体以上のトレントが屋敷の周りに大集結してしまったのだ。
彼らはいっせいに、私たちに向かって、その葉をしなだれるようにして頭を下げる。
【開墾】スキルが教えてくれることによれば、忠誠を誓う際の行動だとか。
いや、でもなんで……!
「えっと、どういうこと? もしかして、森でまたなにかが起きた?」
私は、トレント群の中から、もっとも深くかかわったトレント=トレちゃんを見つけて話しかける。
彼は幹の大きさが他の個体と比べても桁違いなので、すぐに判別がついた。
『いいや、そういうわけではない。マーガレット嬢、それからリカルド殿。二人の恩に報いるための最善の手段を考えた結果だ』
「……これだけのトレントが私たちのために?」
『わたしは、この森にいたトレントの長をしているのだ。声をかければ、皆が集まってくれた。統率ならば問題ない。わたしたちが、しっかりと警護させていただこう』
そういえば、失念していた。
「トレちゃん」なんて可愛らしい名前をつけたが、その大きさを考えれば彼は、人間でいう老人と言って過言ない。
つまり、長老クラスの偉いトレントだったらしい。
正直かなり面食らった。
が、まぁ悪い話でもない。
暴れ出さないよう、きちんと向き合って世話さえしていれば、植物魔に有害性はないのだ。
結果、大量のトレントが私たちの仲間に加わることとなった。
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