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闘気戦争  作者: しのん。
第一部 月と太陽
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9話 闘拳

 榊原紫翠(さかきばらしすい)に秀樹はとある森へと連れられていた。木々が立ち並び、十二時の陽が木葉から覗き込んでいた。


「森…?こんなところでなにをするんですか?」


「邪物の事件があまりニュースにならないのは何故か…わかるか?」


正直…考えたこともなかった。言われてみればたしかに邪物の事件はあまりニュースにならない。邪物がただ単に少ないと思っていたが…


 「邪物が少ない…とかですか?」


 「ちがう。俺たち闘気師がーーー」


 大木から、邪物が飛び上がる。地を蹴って飛び出してきた邪物。目玉が三個あり腕が六本…なんとも気色悪い姿の持ち主であった。


 榊原は秀樹(ひでき)を抱え即座に邪物の攻撃をかわす。


 「答えは…俺たち闘気師が邪物を片っ端から殺しているから…だ」


 榊原は秀樹に顔を向けクエスチョンのアンサーを出す。秀樹はその答えに「なるほど」と言わんばかりに頷く。そして目の前の邪物は、、、


 「げへへへへぇ!お前らァ闘気師!闘気師!闘気師!殺す!殺す!殺すゥぅぅぅ!」



 …とまた榊原と秀樹に向かって飛び上がった。そんな邪物を榊原は一蹴し、邪物は吹っ飛ばされ大木へと激突する。


 「こいつはCレートの邪物だ…戦えば分かる」


 邪物の強さは大きく分けて四段階、弱い順にC、B、A。Aレートであれば街一つを五日もあれば壊滅させられる程度の強さがある。…そして最後の一つ。A以上の甚大な被害が出る恐れがある邪物はSレートの称号が与えられる。現在まででSレートはたったの二体しか登録されていない。これは世界の教育の基本情報となっている。


 「C…ですか。こんなに強そうなのに」


 「どこがだ。雑魚だろ」


 あんな化け物が"雑魚"…前の日常ではあり得ない。


 「さて秀樹。アイツはお前が倒せ」


 「え?」


 急な無茶振りに秀樹は思わず声をあげる。


 (あんな怪物と俺が?え無理無理無理無理無理無理!死ぬって!ぜーったい死ぬ!死ぬ!)


 「お前は闘気師になりたいんだろう。これくらいこなしてみせろ」


 「そうは言っても俺闘気上手く扱えませんしぃ!」


 ふと気づくと、視界から邪物が消えていた。上、右、左、どの方向にも邪物はいない。逃げた、と解釈した瞬間。


 「ばあっ!」


 地面の中から邪物が勢いよく飛び出してきた。空中で握り拳を作り上げ、その拳の矛先は秀樹へとーーー。


 「ッあ!」


 間一髪のところで拳をかわした秀樹。拳の恐怖、戦闘への緊張が一粒の汗となってこぼれ落ちる。


 「せっ先生!どうやったら闘気を使えますか!……………せ、せんせっ…」


なんと榊原は寝ていた。木にもたりかかり、寝ていたのだ。  


 (先生ーーーーーーーー!)


榊原…という唯一の救いが消え失せ、焦りが大量の汗となって流れ落ちてきた。


 「へへへっ!アイツ寝てんぜぇ!ラッキーィ!まずはガキィ。テメェだぁぁぁ」


 「あーくそ来いよ!もう!」


 半分やけくそ状態となった秀樹は邪物へと突進する。そしてどうにでもなれ、と。邪物を拳で殴打するのであった。むにっという感触が拳に伝わり、それは脳にたどり着く。完全に入った。そう確信できる一撃でさえーー。


 「痛くねぇなぁ!闘気がこもってねぇなぁ!テメェの一撃にはなぁ!」


 ーーー邪物にはまるで効果がなかった。


 硬い感触が頬に伝わり、その感触はどんどんと痛覚へと覚醒する。


 「おぼぁッ!」


 秀樹は殴り飛ばされ、森にある草むらの方へと転げ落ちる。痛い。鉄の味。それはつまり血。口の中は鉄の風味に支配され、頬からは血が流れ落ちる。


 「お前弱いなぁ…。軽めの邪気でこんなに吹っ飛ぶなんてよぉ〜」


(弱いよそりゃあ戦闘ほぼ無経験だもん!今ので軽めの攻撃ってマジ?!痛すぎなんだけど!バカなのかな〜?力加減間違ってるんじゃない〜?)


痛みというスパイスが秀樹に怒りをもたらした。おまけに邪物の姿。怒り倍増である。


 そしてその怒りは、秀樹にある一場面を思い出させる。自宅の前であの邪物に一撃を加えたあの瞬間。あの一時を。思い出させた。もしあの一撃に闘気が込められていたのなら、と。秀樹は思考という判断に移った。


 (あの一撃、邪物に効いてたような気がする。なんでだ…?なにが、違う?)


怒りでもない、悲しみでもない、となればー。


 






































 ーーー分からない。それが秀樹の答えだった。


 「終わりだガキィィィィィィ!俺の邪気術、<ラッシュ>にて殺したらぁぁぁぁぁ!」


 邪物は秀樹に向かって走り出してきた。もう時間はない。…分からないなりに工夫をこらそう、と秀樹は考えた。その工夫は…


 『極度の集中』であった。


 拳に怒りをこめるのではなく、身体中の神経を『集中』させる。"あの時"はそうだった。


 「喰らえッ!ラッシュッッッッッ!」


 邪物は素早く左右の拳を打ち込む。いや、"打ち込もうと"した。その一時。




































 秀樹の"拳"が邪物の顔面へと入り込んだ。集中が作り出した、最高の拳が。


 「はゔぇらぁッ!」


 拳を受けた邪物は、宙へと体を浮かせる。邪物の身体中に秀樹の闘気が流れ、痺れる。そしてその体は地へと落ちる。肉体が叩きつけられる鈍い音が鳴り響いた。


 「おぼぼぼぼぼぼぉっ!ばぁかなあああぁぁ…」


  …と奇声を発しながら、邪物はその場に動かなくなった。


 「はぁ…はぁ…たお、せた?」


 (今、闘気を使えた?俺…使えたぞ…)


どこからか、拍手のような音が聞こえてくる。その音の方へと顔を向けると。そこには榊原がいた。


 「まさか…倒してしまうとは…驚いたぞ秀樹」


 「せ、先生ぃ…」


 「この戦いはお前に闘気の扱い方が染み込むようにと考えたものだったんだが…ここまでとは」


 (たしかに…闘気の使い方がわかった気がする。集中を極める、それが闘気の使い方)


「闘気は脳の周波数が限りなく下がることにより発生する(パワー)。つまりは集中」


 「はい…」


「今…お前が邪物を倒した拳、それには名前がある」


 (名前…?ただの拳に名前なんてあるのか?)


名前があることに唖然とする秀樹。そして同時に興味が湧いた。あの拳、その名をーー。


 「"闘拳"といわれる技だ」


 「闘………拳」


 闘気の拳と書いて闘拳。闘気師の基本中の基本の技である。だが、闘拳は基本の技にしては高度であり、並の闘気師では上手く扱うことができない。それを秀樹はあの夜、発動させることができた。


 「闘気術が使えないお前は…闘拳を磨け!極めれば…闘気術と渡り合える一つの武器になる」


 (闘気術が使えなくたって…闘気術と渡り合える…!)


"闘拳"とよばれる技を身につけた秀樹。技が沁みた拳は硬く握りしめられ、喜びを味わっていた。

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