6話 東京闘気師育成寮①
公安長、成瀬真綾は、手を後ろに回し秀樹に向かって歩き出す。
「君は、なんで闘気師になりたいのかな?お金が欲しい?名誉が欲しい?それとも…」
真綾は足を止め、意地悪そうに口を曲げ嘲笑う。
「俺…僕は…邪物から人を護りたいんです。そこには下心はなにもありません」
「ふぅん…」
真綾は無表情になり、秀樹をじっと見る。秀樹は、目を逸らそうとしたが逸さなかった。ここで逸らしたらいけない、と…そう感じたのだ。
「うん。いいね。いい目をしてる。覚悟が決まってる目だ」
真綾はそう言うと笑い出し、奥に位置している自席へと腰を下ろす。そうして…
「いいよ。君は今日から闘気師」
「え…?」
真綾の唐突な決定に、動揺する秀樹。
え…もう決定?!これから審査とかあるんじゃないの…?
「私はね、話し合ったり質問攻めにするのは面倒くさいから目で決めるの。君の目は嘘偽りなかった」
「ってことは…僕は今日から…」
「うん。闘気師ってことで」
心の底から喜びが溢れる。これで…人を護れる。邪物と戦う力が手に入る。
「とりあえず…大門くんに合格した旨を伝えて東京闘気師育成寮に連れて行ってもらって」
寮…それは新人闘気師を鍛える育成場。現在では約八十名の新人闘気師が寮生活を送っている。
「わかりました!」
俺はそう言うと一礼し、ドアノブに触れる。
「寮には私から連絡しておくから、詳しくは寮に行ってから説明してもらってね」
あ、絶対この人自分で説明するの面倒くさいんだ。まあいいけど…。
俺は公安長室を出た。
「緊張したぁ…」
心臓が強い鼓動をうっている。これほどにまで緊張していたとは。
「えーっと…大門さんは…」
その瞬間。左側から大門さんが現れた。俺は驚いて腰から床に崩れ落ちてしまった。大門さんは急いで俺に近づいてきて手を差し伸べてくれた。
「す、すまん!心配で戻ってきてしまっていた」
「い、いえ…ありがとうございます!」
やっぱり優しい人だ…大門さんは。
「合格したんだな。秀樹くん」
あ、聞いてたんだな大門さん…。じゃあもう説明しなくていっか…。
「話は全部聞かせてもらっている。寮へと君を連れて行く」
うん…説明しなくていいっぽい。
俺はそのまま大門さんに連れられ、車に乗った。車を走らせ始めてから数分後、大門さんが話題を振った。
「君の家族のお葬式は…今日の午後六時から行われる。車で迎えに行くから準備しておいてくれ」
葬式…本部の人達が準備をしてくれたのかな…?ありがたい。
「わかりました。ほんと色々ありがとうございます」
「いいやいいんだ。君は被害者なんだから」
被害者…そうか。俺は被害者なんだ。邪物に襲われた一人。…もしニュースとかで報道されたら始とかびっくりするだろうなぁ…。
秀樹は高校の友人の表情を思い浮かべ、苦笑した。その笑みは、悲しみを紛らわすための手段の一つであった。
「着いたぞ。秀樹くん」
車に揺られ続けて着いた場所は寮。俺はこれからここで生活を送るんだ。
秀樹は車から降り、目の前に佇む学校のような見た目の寮へと焦点をあわせる。
「肉眼で初めて見る…でっかいな」
東京から少し離れている所に寮はあるため、目で見たことはなかった。
「俺は一旦帰る。また六時になったら迎えに来るからな」
「あ、はい大門さん。ありがとうございました」
大門さんは車を発進させた。俺は大門さんの車が見えなくなるまで頭を下げた。やがて大門さんの車が見えなくなると、俺は寮へと足を進める。
……そして俺は寮の扉を開けた。