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闘気戦争  作者: しのん。
第一部 月と太陽
15/24

15話 二体の邪物

 「……遅いぞ。お前ら」


 そう言い放ったのは榊原紫翠(さかきばらしすい)、特等一級の闘気師であった。榊原の視線の先には三名の寮生。漆黒の戦闘服に身を包んだ飯島秀樹(いいじまひでき)、熱い炎を連想させる赤に黒のラインが入り混じる戦闘服の高尾巳涼(たけおみりょう)、静寂な水面を比喩するような青に涼同様黒のラインが入った戦闘服の江藤倫太郎(えとうりんたろう)が佇んでいた。そしてその後ろには桃色のラインが漆黒と組み合わさっている戦闘服に身を包んだ珠那(しゅな)、きらり、そして黄緑のラインと白色の戦闘服を着用した恵菜理(えなり)の三人も存在していた。…場に緊迫した空気が流れているのはなぜか、を周囲に説明するかのように倫太郎が口を開いた。


「すみません。涼がのぼせてしまって、床にぐったりだったんです」


 ー高尾巳涼のせいであった。のぼせた経緯は至って単純で、高温風呂耐久勝負を倫太郎と秀樹にふっかけた涼が見栄を張り、約十分も浸かった結果。浴場から出た際に床に倒れてしまったのだ。そして目を覚ました際にはもう十二時二分。焦燥の思いにかられながら、急いで準備をし寮の玄関へと向かったら十二時八分と予定の十二時という時刻からだいぶ過ぎてしまっていた。当の本人はまだ頭がくらくらしているらしく、目の焦点があっていなかった。濡れたままの金髪からは水滴がこぼれ落ち、その水滴は美しいほど磨き上げられた廊下に波紋が広がるかのように衝突した。秀樹と倫太郎も涼に水を与えたり水風呂に投げ込んだりと大忙しで髪を思うように乾かす暇がなく、水滴は落ちないほどであったが存分濡れていた。


 「秀樹、戦闘服似合ってるねぇ!」


 場を和ませようと策し実行したのはきらりだった。それに続けてきらりも「ほんとほんと」と乗っかり、恵菜理も「…似合ってる」と秀樹の戦闘服姿を絶賛した。おかげで少し和んだ場にため息をついた榊原が再び口を開く。


 「…まあいいとりあえず今から闘気師補助課の車に二チームずつ乗ってもらう。相手の邪物はCレートの底辺レベルだが気を抜くな。実戦ではなにが起こるかわからない。一つの油断が死に直結する」


 貫禄のある榊原が言うからこその信憑性。それを六人は噛み締めた。一つの油断が死に直結する。とてもそうだと言うように秀樹は頷いた。自宅の前で戦った邪物のスパイラルスラッシュ。そして森で戦った邪物のラッシュ。どちらも油断が命取りになる。少しでも気を抜いたのなら首が吹き飛びかねない。そんな緊張と恐怖を噛み締め、秀樹は拳を固く握りしめた。


 榊原は話を終えると廊下を歩いて行ってしまった。…ここからは先生(さかきばら)がいないなかでの実戦。圧倒的信頼を確信できない状況。だがそれを秀樹達は乗り越えてきた。もう…つべこべは言っていられない。と言わんばかりの表情を浮かべた六人は、玄関へと歩んだ。これが闘気師の覚悟…なのかもしれない。恐怖を恐怖とみなさない。どんか強靭な邪物が現れたとしても逃げない。そんな覚悟。


 靴を履き終え、外へと出た秀樹達を待ち受けていたのは二台の大型車と二人の黒いスーツを着た男だった。これが闘気師公安本部補助課の人間である。主に闘気師の運行を務める課であり闘気師には欠かせない存在。


 「お待ちしておりました皆様。珠那さん達はこちらの車を。倫太郎さん達はあちらの車にお乗りください」


 軽い会釈を発言主に向けた六人はそれぞれの車へと入り込む。車は運転席の後ろに結構なスペースがあり、十人乗っても余裕があるほどだった。窓から見える景色は昨日と変わらず、ただただ緑がひろがっていた。地を照らす太陽は輝きを怠らず、それを雲一つない青空が包んでいた。これから始まる実戦を感じさせない風景が、秀樹の視界には映っていた。































 ー三十三時間前。とある山奥の村にて。


 「…ふぅまだまだ本領発揮できんな」


 「何百年も封印されていたのだ。当たり前だ」


 そこにいたのは二人の男。ムーン。サン。岩からの呪縛から逃れた二体の邪物であった。サンの腕は赤く染め上げられており、辺りには村の住人の死体やら臓器、腕、足などが落ちていた。


「これらを食うのに三日はかかるな、しばらくこの村にいようサン」


 建物の屋根に立ち、月の明かりに照らされムーンはサンを見下ろしながら言った。


 「賛成だ」


 その瞬間だった。金色(こんじき)の色を帯びたナイフがサンに向かって飛んできた。いともたやすくそれを叩き落としたサンはナイフが飛んできた方角にギロリと目を向ける。そこには戦闘服に身を包んだ二人の闘気師がいた。


 「あの二体がターゲットか、いくぞ千郷(ちさと)!」


 「ああ!」


 二人の闘気師はサンとムーンに向かって走り出した。一人はサンを、もう一人はムーンへと。


 


















 およそ三十四秒だった。


 一人の腹が裂け、臓器がみるみる溢れ出てくるのが。一人の半身が焼き焦げ、半身の骨が丸見えになるのが。…二人の闘気師が二体の邪物になす術もなくやられるのが。


 「少しは楽しませてくれる奴だと期待したが、無駄か」


 指を鳴らしながらサンは落胆する。まだ息のある地面に這いつくばった焦げた闘気師の首元を乱暴に掴み、崩れ落ちた住居へと投げる。"それ"が到達すると激音と共に砂埃がたち、落ちていた木材などが乱雑から乱雑にへと姿を変える。


 「さてまだ来るか?闘気師。次はもっと楽しいものを頼むぞ」


 月を背後に映すムーンは邪悪な笑みを浮かべ、両手を広げ腰の高さまであげる。なにかを歓迎するような、そんな体制をとっていた。


 三十九時間後に現れる、"七人の闘気師"を歓迎する、ように。

<character book>

谷上珠那(たにがみしゅな)

身長:156センチ 髪型:白髪のボブ

好物:チーズケーキ 闘気術:ウレバルイス

(掘り下げ話)

とにかくチーズケーキが大好き。部屋の冷蔵庫にはチーズケーキが常備されている。夜中にリラックスしながらチーズケーキを食べるのがなによりの楽しみ。母子家庭のため母親に楽をしてもらいたいと思い闘気師の道を歩む。






設定その三

秀樹は葬式の後、自宅に向かい必要な荷物を寮へと持ってきています。なので銭湯の時下着があったのです。

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