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第1話 「星宮書店」廃業の危機

「はぁ。今日もお客さん少なかったね。このままじゃうち、廃業かなぁ」

「にゃー」


 ここはとある街の片隅にある小さな本屋さん、星宮書店。

 書店業界は近年、ネットショップや電子書籍の影響で不景気だというけれど。

 うちもまた、例に漏れず不景気まっしぐらな書店の1つとなっていた。


 それでも2年前に両親が事故で亡くなるまでは、基本的には年中無休、10時~21時で営業していた。

 でも今は週5日、11時~20時の営業という形に切り替えてどうにかやっている形だ。

 アルバイトを雇う余裕すらなく、このまま売上が下がればお店が続けられなくなってしまう。


 私は幼い頃から本が大好きで、本屋さんは私にとって特別な場所だった。

 1冊1冊が別な世界へ繋がっているような気がして、本に囲まれているだけでどこへでも行けるような気がしてくる。

 だからこのお店を継ぐことも、ずっと私の夢だった。


 それにこの星宮書店は、お母さんとお父さんが遺してくれた大切な場所だ。

 それなのに――


「もうダメかもしれない……」


 私は悲しみのあまり、誰もいない店内でレジ台に突っ伏し、うっかり愚痴をこぼしてしまった。


 そう。誰もいない店内で、のはずだった。


「しょうがないにゃ。いつも頑張ってる凛にご褒美をあげるにゃ」

「!? え、誰!?」


 誰もいないと思っていた店内で声が聞こえて、私は驚いて顔を上げた。

 しかも語尾に「にゃ」だなんて、誰か知り合いがからかっているのだろうか?

 私は店内を見回して声の主を探してみる。

 けれど一向に見つからない。


「ここにゃ! 横! 横!!」


 横、と言われて何気なく横を見ると、飼い猫のモフと目が合った。


 ――え。

 いやいやいやいや。

 そんなことあるわけないでしょ私!

 馬鹿じゃないの!?


 自分の頭に浮かんだ馬鹿らしい妄想を払拭しようと頭をぶんぶんと横に振る。


「……何してるにゃ?」

「あれーーーーーー!?」

「ふふ、驚いたかにゃ? 実はモフ、喋れる猫なのにゃ!」

「……ストレスでついに幻聴が聞こえ出したみたい。どうしよう」


 私は額を抑えて自分の頭を落ち着かせようとするが、その間もモフの声はやまない。


「もうそういうのいいにゃ。早く本題に入りたいにゃ」

「ほ、本題? えっと、はい」

「今まで頑張ってこの星宮書店を守ってきたご褒美に、凛にスキルを授けてあげるにゃ」


 ……スキル。

 だめだ本格的に頭がおかしくなったらしい。

 異世界転生モノや聖女モノを読みすぎたのかもしれない。

 でもだって、暇だったから!


「今日はもう閉店時間にゃ。店を閉めるにゃ」

「あ、本当だ。店じまいしなきゃ」


 私は雑誌などのラックを取り込んでシャッターを下ろし、レジ精算を終わらせる。

 誤差なしだ。

 誤差が出るほどの売上がないって説もあるんだけどね!


 お金を金庫の中に入れ、店内の掃除をして電気を消す。

 これで本日の業務は終了だ。


 休憩室にある階段で2階に上がると、そこが居住スペースになっている。


「そこの椅子に座るにゃん」

「? え、ご飯いらないの?」


 なんかもう、どうでもよくなって普通に猫と喋ってしまった。

 ……喋ってる、よね? どう見ても。


「いるけど、その前に」


 モフはそう言うと。

 ポンっという音と白い煙とともに――


 元の毛色と同じ濃い灰色の髪をした、超絶美少女に変身した。


「え? は?」

「実はモフ、こんな姿にもなれるのにゃ! 力を使うから長時間は無理だけど。でもこの姿にならなきゃ魔法が使えないのにゃ」


 ま、魔法。

 スキルの次は魔法。

 もう意味が分からない。


「えいっ!」


 モフがテーブルに両手を翳してそんな声を上げると、そこに白いお皿に乗った何かが現れた。

 そして香ばしい香りとシチューのような……


「本型の……パイ……?」


 目の前に現れたのは、生地が本のように半分に折られた形状の、少し厚みのあるパイだった。

 左側面が本物の本のように、ページをめくれそうな薄い層になっている。

 そして表紙部分には、読めない文字のようなものが焼き付けられていた。

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