妃選考二回目(2)
令嬢が全員帰ったあと、執務官は彼女たちが提出した紙を片手に、テオフィルの執務室を訪れた。
「失礼致します。選考の前半が終了いたしました」
「ああ、お疲れ。どうだった?」
「何も思いつかず泣き出す令嬢もいらっしゃいましたが、なんとか全員提出してお帰りになられました」
妃選考の選考内容は、時代によって変わる。
孤児院への訪問を行なってそこでのふるまいを見る選考のときもあれば、外国語の試験が選考内容だったときもある。
思いもよらない選考内容にパニックになる令嬢もいてもおかしくはないだろう。
執務官はテオフィルに近寄って、令嬢たちから提出された用紙を手渡した。
テオフィルはその中身を確認する前に、執務官に向かって問う。
「お前はもう全部確認したか?」
「ええ、一通り確認致しました」
「どうだった?」
「なかなか面白い企画を考える令嬢もいらっしゃいましたよ。そちらの用紙はしばらくお貸ししますので、よかったらゆっくりご覧になってください」
そう言って執務官は退出した。
二回目の選考にテオフィルの意向は入らないとはいえ、この妃選考の主催者はテオフィルだ。
内容を確認する権利があるだろう、と執務官が計らってここに用紙を持ってきてくれたことに思い至り、テオフィルは心の内で彼に感謝する。
とはいえ、テオフィルが気になるのはただ一人。
(今回の選考内容は、ルルの得意分野なはずだが……)
どうか、今回の選考を通過できるような企画であってくれ、と恐々ルイーズの名前が書かれた用紙を手に取る。
テオフィルは難しい顔でその用紙を読み始めたが、読み終わるころには笑みを浮かべていた。
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家に帰ったルイーズは、その日の夜さっそく自分の企画を実行に移すため、封筒と便箋を手に取った。
そして情報紙を送ってくれた姉に宛てた手紙を書く。
まずは妃選考に参加することになったことを。
そしてその選考内容を。
『――それで私は、最近東の果ての国で開発された乗り物をこの国に導入することを思いつきました』
それは、“自走車”というらしい。
仕組みはよくわからないが、東の果ての国でしか産出されない鉱物のエネルギーで動き、かなり重いものでも運べるという。
貴族は馬車、平民は歩きが一般的な移動手段のこの国にその乗り物が導入されたら、非常に画期的な開発になること間違いなしだった。
実際その“自走車”はその東の果ての国から徐々にその国の近隣諸国へ広まってきているとその情報紙には書かれていた。いつかはこの国にもたどり着くだろう。
しかし、東の果ての国からこの国まではかなりの距離がある。このまま徐々に広まるのを待つだけだと、その“いつか”がまだまだ先の未来となることは明確だ。
今回先手を打って導入できたら、まさにこの国の発展の一助となりうる。
『そこでお姉様にもしお時間とコネクションがありましたら、どんな形でもいいので東の果ての国で自走車の製造に関わっている方を紹介していただけないでしょうか?』
そこから伝手をたどっていけば、いつかは自走車発売の権利元にたどり着くはず。
しかし、ネックは1ヶ月という期間の短さだ。
東の果ての国に滞在中の姉のところへこの手紙が届くまでに、おそらく1週間はかかる。
(どこまでいけるかしら……)
ひょっとしたら最悪、東の果ての国にはこんな乗り物があります、と発表するだけで終わってしまうかもしれない。
それでは内容が薄すぎる。
ルイーズは少し不安になりながら、書き終えた手紙に封をした。