妃選考二回目(1)
二回目となる選考日は、それからすぐにやってきた。
今回は王城の会議室が集合場所として指定されていたため、前回より少し動きやすいラフな服装でルイーズはジュリエットと共に選考会場へと向かう。
少し早めに家を出たことで二人が着いたときには他の令嬢はまだ来ていなかったが、ルイーズが指定された席に座って持ち込んだ本を読んでいるとちらほら前回の選考の通過者が集まり始めた。
ルイーズは本を読む手を止め、自分以外の候補者をうかがう。
誰もが知っている公爵令嬢もいれば、ルイーズが初めて見る顔の令嬢もいた。そしてもちろん、ブリジットの姿もある。ブリジットはルイーズと目が合うと、目を吊り上げてあからさまに目をそらした。
そうして集まった今回の選考に参加する令嬢の人数は20人。
前回から半分以上数を減らしてのスタートとなった。
全員が集まったところで、前回進行を務めた執務官が会議室に入ってきた。
「はい、それでは時間になりましたので、二回目の選考を始めさせていただきます。まずは、皆さん一回目の選考通過おめでとうございます」
執務官はここで言葉を切り、一度全員を見回す。
「前回は殿下との顔合わせのようなものでしたが、今回と次回は適性を試させていただくための、いわば試験のようなものを行ないます。なので、殿下はこの場にはいらっしゃいません」
その言葉に、会議室に一瞬どよめきが走る。
あからさまに残念そうな雰囲気を出す令嬢もいた。
一方ルイーズは今回どんな顔をしてテオフィルに会えばいいかわからなかったため、内心ほっとしていた。
「しかし、選考の間には、殿下とのお茶会や、個人個人での面会も予定しています。なのでまずはこの二回目の選考通過を目標にがんばってください」
執務官の言い回しは、確実にこの場の令嬢たちの士気をあげた。
逆に言えば、今回の選考を通過できなければもうテオフィルに会うのは叶わないということだ。
士気もあがろうというものである。
執務官は令嬢たちがやる気になった様子に満足して、手元の紙を手に取った。
「はい、それではさっそく本題に入りますね。今回の選考は、大まかに言えば企画書の提出と実践、そしてその結果のプレゼンテーションです。企画の内容は、【この国を発展させるために今自分ができること】となります」
執務官の説明はこうだ。
まず、この場で【この国を発展させるために、自分が何をできるか】を考え、レポートとしてまとめる。そして、それをこれから1ヶ月の間にできるところまで行動に移す。最後に1か月後、その計画をどこまで実践できたかをここで皆の前で発表する。
最初の計画を今この場で行うのは、他の人からアドバイス等を貰えないようにするためだ。その令嬢の知識や発想が試される。
そして、その実践には家の財力やコネクションが必要になる。要は、家の力も同時に測られることとなる。
さらに、最後のプレゼンテーションは演説力をみるらしい。王妃として、人々の前に立って堂々としていられるかどうかも、重要な項目になるとのことだ。
(なるほど、急に現実的ね)
前回のふわっとした空気とは正反対の選考内容だ。
それでも、ルイーズはこっちの方がなんだかわくわくした。
「それでは、今から企画の記入用紙を配りますね。配られた人から記入してください。記入が終わったら提出してご帰宅いただいて大丈夫です。次回集まる日程は追って連絡いたします」
執務官は、手際よく用紙を配る。
ルイーズも用紙を受け取ると、ペンを手に取って考え始めた。
(国の発展に必要なこと、か……。貴族ができることといえば、寄付とかが一般的かしら。でも一般的な考えだけでは選考を通過するのは難しい)
ルイーズは自分の頭の中の引き出しを引っ張り出して考える。すると、ふと先日読んだ他国の情報紙の内容が思い浮かんだ。
この情報紙は、音楽家として国を渡り歩いて活動している一番上の姉が、勉強好きなルイーズへのプレゼントとして現地から送ってくれたものだ。
(あの記事、使えるかもしれない……!)
ルイーズはよし、と気合を入れると、用紙にペンを走らせ始めた。