妃選考一回目(4)
軽食を食べながら、ルイーズは考える。
(まあでも、ブリジットの言う通り、私はきっとこれで終わりね)
昔はあんなに仲がよかったテオフィル。
まさか、笑顔さえ見せてももらえないとは思っていなかった。
ジュリエットとは笑顔で談笑していた姿に、小さく胸が痛む。
テオフィルはまだ遠くで令嬢たちに囲まれていた。
ある程度小腹を満たしたルイーズが一人壁際にたたずんでいると、いつの間にやらジュリエットがルイーズに近寄ってきて言った。
「ルルお姉様、こちらにいらっしゃったんですね。テオお兄様とはもうお話しなくてよろしいんですの?」
余裕そうなジュリエットを内心恨めしく思いながら、ルイーズは返す。
「私ばかり時間をもらうわけにはいかないし。あれで駄目なら、あきらめがつくと思って言ったのよ」
「直球勝負はルルお姉様らしくて好きですわ」
くすくすと笑うジュリエットはとても愛らしい。笑い声まで鈴を転がしているかのようだ。
そのまま二人はしばらく雑談を続けた。
そういえばジュリエットとこうしてゆっくり話すのも久しぶりだなと、ぼんやりルイーズが思ったところで、執務官が再びホールに入ってくる。
執務官の登場に令嬢たちの視線がそちらに集まると、執務官は会場を見渡してこう告げた。
「まだ話せていないご令嬢も多くいらっしゃるかとは思いますが、時間の関係でここで終わりとさせていただきます。このあとテオフィル殿下から結果をお聞きし、わたくしめが発表しますのでこちらでこのままお待ちください」
執務官が話している間に、ふと動く影がある。
ルイーズが気になってそちらを見ると、テオフィルが令嬢たちの間をすり抜け大広間の出口へ向かうところだった。
そのまま出ていくかと思われたテオフィルは、なぜか一度ルイーズの方を見る。
(な、なに……?)
ルイーズは戸惑いつつも、テオフィルを見つめ返した。
それは時間にして数秒だっただろうか。
やがて、テオフィルは再び視線を外して会場を後にした。
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今日のことを思い返したルイーズは、ベッドに腰かけたまま天井を仰ぎ見てつぶやく。
「まさか、通過するとは思わなかったわ……」
そう、ルイーズは、一回目の妃選考を通過した。
そして当然のように、ジュリエットも。
お前とは絶対に結婚しない、と言い放ったテオフィルが何を思ってルイーズを残してくれたのか、ルイーズにはさっぱりわからなかったが、とにかく通過することができた。
そして、あのまなざしの意味もよくわからない。
しかし、なんにせよおそらくテオフィルの方も幼馴染としての義理を感じていてくれたのだろう。
だとしたらテオフィルと幼馴染でよかった、とルイーズは安堵する。
テオフィルの言う“絶対”を覆せるかはわからないけれど、ルイーズはどうしてもこの選考で妃に選ばれたい。
そうなるとルイーズにできるのは次も頑張ることだけだった。
気持ちが落ち着いてくるのと同時に疲れからか突然眠気が襲い、ルイーズは寝る支度をするためにメイドを部屋へ呼ぶ。
(……でも、ブリジット嬢も通過したのは納得いかないわ)
やっぱり男は妖艶な美人が好きなのだろうか。
ルイーズは腑に落ちない気持ちになりながら、帰ってきてから数時間経ってやっと着替え始めたのであった。