王妃になりたかったからではなく
お久しぶりです。
結婚式当日ではなく、結婚式直前の小話みたいなものになりました。
後日談の番外編くらいの軽い気持ちでお読みいただけるとありがたいです。
ルイーズとテオフィルが再会してから季節が一周まわり、あと一週間もすればとうとう国をあげての結婚式が行われる。
二人の結婚式に参列するために、各国の要人はもちろんのこと、ルイーズが初めて会うような親戚も続々とこの国の王都に集まり始めていた。
ルイーズの目の前で退屈そうにあくびをする女の子、シャルロットもそのうちの一人だ。
シャルロットは母方の親戚筋の子で、東の果ての国の隣にある小国からルイーズ達の結婚式に参列するために今回初めてこの国に訪れた。
年は12歳、茶色がかった豊かな金髪をきつめに巻いて、実年齢から少し背伸びをした大人っぽいドレスを身にまとっている。
大人たちは、あからさまにつまらなそうな態度をとるシャルロットに苦笑しつつも、現在この場で最年少の彼女を優しい目で見守った。
はじめに彼女に声をかけたのはロアンヌの夫、ウィリアムだ。
「シャルロット、長旅ご苦労様。体調を崩していない?」
「……ええ」
シャルロットはウィリアムを一瞥し、髪を触りながらそっけなく返事をした。
するとウィリアムの横からロアンヌが口を開く。
「シャルロット、久しぶりだね。私のこと覚えている?きみが小さい時に一度会ったのだけど」
ロアンヌの言葉にシャルロットは少し考える仕草をしたあと、小さく首を横に振った。
「ごめんなさい」
「そうか、まああのときシャルロットは3歳だったからね、覚えていなくても無理はないよ」
そっけないシャルロットの返事にも、全く気を悪くした様子もなくロアンヌは快活に笑う。
するとそんなやり取りをみかねたシャルロットの母親が、横から口を挟んだ。
「不愛想でごめんなさいね。この子、この国の言葉を習ったばかりなものだから、まだ話し慣れていないの。聞き取るだけで精一杯で」
『余計なこと言わないでよ、お母様!』
母親のフォローに顔を赤くしたシャルロットがとたんに眉を吊り上げる。
一方、ルイーズの父マクシムはそれを聞いて申し訳なさそうにうなずきながら言った。
「そうか、言われてみればそうだろうね。……ルル、たしかルルはシャルロットの国の言葉も習得していたな?」
突然話を振られたルイーズは、内心驚きつつも父の言葉に返事をした。
「はい」
「この場はシャルロットには退屈だろう。話し相手になって差し上げなさい」
「わかりました」
父にうなずきながら、ルイーズはシャルロットに向き直る。
『よかったら簡単に王都を案内するけれど、どうかしら?ここからすぐのところにある王城の公開庭園はとても素敵よ』
『……お願いします』
シャルロットは少し不本意そうな顔をしながらも、ルイーズの言葉にうなずいた。
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『それでね、同じクラスの男の子なんてみんな子供っぽいでしょ?だから先輩に誰かかっこいい人いないか捜してて、』
シャルロットは特別扱いされたことを不満げにしていたが、やはり退屈そうだった理由は、母親の言う通り話ができなかったかららしい。
ルイーズが問題なく話せる相手だとわかると、さっきまでの不愛想はどこへやら、そのおしゃべりはとどまるところを知らなかった。
現在王城の公開庭園を歩きながらシャルロットの恋愛事情を聞かされているルイーズは、相槌を挟む暇もなくうんうんと頷く。
平静を装ってはいたが、テオフィルへの恋心を自覚するまでルイーズは恋愛とは無縁で過ごしてきたため、もしシャルロットに話題をふられたらどうしようかと内心冷や冷やしていた。
シャルロットはそんなルイーズに気付くことなく、話を続ける。
『でね、3つ上の先輩で、ヒューゴって人がなかなか良かったんだけど彼女がいてね、やっぱみんなが良いと思う人ってすでに相手がいるんだなって』
言いながら、シャルロットは唐突にルイーズをじっと見つめた。
『……ルイーズは、こんな小さい国の言葉まで覚えられちゃうほど頭が良くて見た目も悪くないのに、災難よね』
『え?』
シャルロットの言葉の意味がわからなくて、ルイーズは首を傾げた。
シャルロットは気の毒そうにルイーズに微笑みながら言う。
『わざわざ試験を受けて、王太子妃に選ばれたんでしょ?やっぱりマクシムおじさんにそうするように言われたからなの?』
『いいえ、私が参加したくて、お父様に頼んだのよ』
シャルロットの表情の意図が読めないながらも、ルイーズは正直に話す。するとシャルロットはさらに悲しそうな顔になった。
『そっか、じゃあルイーズにとっては仕事に就くのと同じようなかんじ?だってそうじゃなきゃわざわざ王族となんて結婚しないもんね。仕事内容だけみたら、王妃ってやりがいありそうだし一生安泰だし』
なんだか偏見だらけな言葉に、ルイーズはどこから説明していいやら困りながら返事をした。
『ええと、たしかに自分を試したかったのはあるけれど、私が最後まで選考に参加した理由は、テオが……王太子殿下が好きだからよ。それだけ』
言いながら顔を赤らめるルイーズを見て、シャルロットは目を潤ませて手を組んだ。
『まあ……!ルイーズは見た目で人を選ばないってことね!素敵』
どうしてそうなるのかわからず、ルイーズはますます頭を悩ませる。
たしかに見た目で選んだわけではないが、テオフィルはおそらく十人中十人が認めるほどの美貌の持ち主だ。
何も知らなければ、ルイーズが見た目でテオフィルを選んだと思う人もいるだろう。
混乱するルイーズをよそに、シャルロットは声のトーンを落として言葉を続けた。
『こんなこと、国の外でしか言えないけど……。どうして王族って皆あんなに太っているのかしら?歩き方もぼてぼてしてるし、ずっと汗もかいてるし、私はどうしても恋愛対象には見れないわ。偉くてお金持ちだから伴侶には困らないんでしょうけど』
この言葉を受けて、ルイーズはやっとシャルロットの話がみえてきた。
おそらく、シャルロットの国の王族は皆見た目や立ち居振る舞いがあまり良くないのだろう。
シャルロットはまだ子供で国を出るのも初めてだから、自国の常識が他国にも同じように当てはまると思い込んでしまっている。
そして、魅力のない王族にわざわざ試験を受けてまで嫁ぐルイーズをかわいそうだと思っているのだ。
やっと合点がいったルイーズは、笑って口を開いた。
『あのね、シャルロット。テオは……この国の王太子は、』
「ルル」
しかし、ルイーズの言葉は最後まで続かなかった。
耳を打つ響きの良い声に、ルイーズとシャルロットの二人が振り返る。
そこにはいつも通りの涼し気な顔立ちをしたテオフィルが立っていた。
テオフィルはルイーズの横にいるシャルロットに気が付くと、少し驚いた顔をして首をすくめてみせた。
「連れがいたのか。ごめん。姿が見えたから思わず声をかけてしまった」
「大丈夫よ。紹介するわ、私の親戚のシャルロットよ。結婚式に参列するために北東の小国から遠路はるばる来てくれたの」
「そうか」
テオフィルがうなずいたところで、テオフィルを凝視したまま固まっていたシャルロットが顔を真っ赤にして声をあげた。
『ちょ、ちょ、ちょっと、ルイーズ、このかっこいい人だれ!?!? ルイーズの知り合いなの!? 信じられない、こんなかっこいい人見たことない』
本人を目の前にして大騒ぎできてしまうのは、12歳という若さ故だろうか。
シャルロットの剣幕に少し圧倒されながらも、テオフィルは微笑んでシャルロットに向き直った。
『お褒めに預かり光栄です、レディ。俺はテオフィル、この国の王太子で、来週ルイーズと結婚する予定になっている。よろしく』
おどけたようにお辞儀をしながら挨拶するテオフィルに、シャルロットは目を白黒させた。
『え……ええっ!!!? 言葉、わかるの!? 恥ずかしい! でもそれより王太子って……ええええ!!??』
赤くなったり青くなったり忙しいシャルロットを、ルイーズもテオフィルも笑って見守る。
やがて少しだけ落ち着いたシャルロットは恥ずかしそうに両手で口元を隠しながらルイーズに言った。
『ちょっとまだ信じられないけど、本当にこの人がルイーズの結婚相手なの?』
『そうよ。幼馴染で、大好きなの』
『そりゃあそうでしょうよ!こんな人誰だって好きになるわよ!』
言いながらシャルロットはぶつぶつと呟く。
『もしかして本当は王族ってこれが普通なの……?うちの国がハズレなだけなの……?』
『シャルロット。世界にいろんな人がいるように、王族だからこう、というものはないの。何事もあまり型にはめて考えすぎては駄目よ』
咳払いをしながら年長らしくルイーズが諭すと、シャルロットは少し恥じ入るように首をすくめた。
それからまだ顔を赤くしつつも、スカートのはじをつまんでテオフィルに挨拶をする。
「失礼いたしました、王太子殿下。シャルロット・アンリと申します。以後お見知りおきを」
やっとその大人っぽいドレスにふさわしい振舞いで挨拶をしてみせたシャルロットに、ルイーズもテオフィルも嬉しそうに微笑んだ。
きっと挨拶はたくさん練習したのだろう。この国の言葉であっても非常に優雅で流暢だった。
それでもなお、挨拶を終えたシャルロットはつつつっとルイーズに近寄り、小さな声で耳打ちする。
『テオフィル殿下に未婚のご兄弟はいらっしゃらないの?』
シャルロットの懲りない言葉に、ルイーズは思わず声をあげて笑い、聞こえなかったテオフィルは不思議そうに首を傾げたのであった。
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次回こそ結婚式……!




