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冬のローレン領にて

更新しなくなっても少しずつ増えていくブクマや評価がとても嬉しいです。

いつもありがとうございます。

今回はほっこり度が高め……だと思います(笑)

結婚式準備というには少しずれましたが、よろしくお願いします。


 ローレン領は、王都のすぐ北側にある広く温暖な領地だ。

 海産物が取れる海も、鉱物が取れる山もないかわりに、その広大な敷地で様々な農産物を収穫し、都に卸している。

 とはいえ、冬の訪れとともに厳しい寒さが続く現在はほとんどの畑が休耕中である。

 

 テオフィルは雪の積もった少しうら寂しい雰囲気のするローレン領を窓から覗きながら、馬車でローレン家の領地の屋敷へと向かっていた。


 ほどなくして屋敷に着き、馬車を降りるとマクシムの執事がテオフィルを出迎えてくれた。


「ようこそいらっしゃいました、王太子殿下。皆さまお待ちかねですよ」

「ああ、ありがとう」


 ローレン家の敷地内も敷地外同様に雪が積もっているが、屋敷へと向かうアプローチはしっかりと雪かきが施されていた。

 そのアプローチを踏みしめながら建物に向かって歩いていたテオフィルの視界に、ふと明るい紫色が映る。

 それは、テオフィルが着いたことに気が付いて屋敷から出てきたルイーズの髪の色だった。


「お疲れ様、テオ!久しぶりね」


 ルイーズは白い息を吐きながら、満面の笑顔でテオフィルに抱きついてくる。

 最近テオフィルに触れることを躊躇わなくなったルイーズを、テオフィルは内心嬉しく思っていた。


「久しぶりだな。一か月ぶりくらいか?」

「そうね、長かったわ。ありがとう」


 言いながらぎゅっと腕に力をこめたルイーズを、テオフィルは抱きしめ返す。

 すると、ルイーズの後ろから少しこわばった声がかけられた。


「ルイーズ。敷地内とはいえ、はしたないですよ。そんな風に飛び出していくものではありません」


 二人が慌てて離れ、振り向くと、そこにはルイーズの母パトリシアが立っていた。

 パトリシアはテオフィルと目が合うと、厳しい表情を少し和らげて言う。


「ようこそいらっしゃいました、テオフィル王太子殿下。お疲れでしょう、どうぞお入りください」

「ありがとう。もう皆揃っているのか?」

「ええ。残念ながらコラリーだけは来られませんでしたが、他は全員揃っております」

「そうか。楽しみだ」


 テオフィルはパトリシアと会話をしながらルイーズ家の玄関へと足を踏み入れた。

 

 この一か月、彼はルイーズとの結婚式を挙げるにあたって特に重要な諸侯に挨拶をするために、国内を周っていた。

 顔を出すべきところにすべて出し終え、最後に馬車を寄せたのがここローレン家である。

 ローレン家の当主とは王城でよく会う上に、そもそもルイーズの生家であることから挨拶の必要はなかったが、ちょうど領地に帰っていたルイーズに会いたい一心でテオフィルはここに立ち寄った。


 テオフィルとルイーズが揃って応接間に入ると、まずロアンヌが明るい声をあげる。


「テオフィル殿下、ご無沙汰しております。最終選考以来になりますね」

「ああ、ロアンヌ、久しぶり。例の件では本当に助かった」

「いえいえ。お役に立ててよかったです」


 ロアンヌとテオフィルが会話する横から、ジュリエットが近付いてきてテオフィルに笑顔を向けた。


「テオお兄様、お疲れ様です。挨拶は無事済みましたか?」

「ああ、終わった。ジュジュも来ていたんだな。ジュジュのいる研究機関は最近特に忙しいみたいだが大丈夫か?」

「ええ、見かねたオーガスティン様が休暇をくださいましたの」


 オーガスティンとは、テオフィルの弟でジュリエットの所属する研究機関の管理者だ。

 テオフィルはほっとしたように笑ってうなずいた。


「よかった、あいつもちゃんと仕事をしているんだな」

「ええ、たまにこっそりさぼっていらっしゃるようですが」


 くすくす笑いながら返されたジュリエットの言葉に、テオフィルは呆れた表情になって小さくため息をついた。

 するとその横から、背の高い影がテオフィルの肩を叩く。

 テオフィルが振り向くと、そこにはロアンヌの夫ウィリアムが立っていた。


「お久しぶりですね、テオフィル殿下!雪の中ようこそいらっしゃいました」


 快活に笑いながら挨拶するウィリアムに、テオフィルも気安い笑顔を向ける。


「ありがとう、ウィルも元気そうで何よりだ」

「ええ。今更ですけど、おめでとうございます!本当によかったですね」


 昔同時期に騎士団で稽古を行なっていたテオフィルとウィリアムの二人は、実は個人的に仲がよかった。

 テオフィルがルイーズに会えない間仕入れていたローレン家の情報は、ほとんどこのウィリアム発信である。

 テオフィルは明言こそしなかったものの、彼がルイーズを好きであることをウィリアムはしっかり察していた。


 ウィリアムの言葉にテオフィルは恥ずかしそうに目を逸らして答える。


「ああ、ウィルには世話になった。長いことありがとう。ところで例のものだが……」

「あれですね!できてますよ」


 横で黙って聞いていても何の話かさっぱり分からず、首をかしげるルイーズにウィンクして、ウィリアムは応接間から出て行った。


 ひと通り全員が話し終えたところで、一番奥に座っていたマクシムが立ち上がり、テオフィルに握手を求める。

 テオフィルがその手をしっかり握り返すと、マクシムは人の良さそうな笑みを浮かべた。


「テオフィル殿下、この度は娘との結婚のために各地を巡ってくださりありがとうございました」

「いや、必要なことだからな。こちらこそ、ルイーズ嬢との結婚を認めてくださってありがとう。改めてこれからもよろしく頼む」

「ええ、末永くよろしくお願い致します」

「お父様……」


 マクシムの“末永く”という言葉にこの場の全員が得も言われぬ感慨を覚えていると、応接間を出ていたウィリアムが何かを抱えて戻ってくる。ウィリアムはにこにこ笑いながらルイーズの目の前に立つと、その手に持ったものを丁寧に広げた。


「ルル、これは僕たちからの結婚のお祝いだよ。受け取って」

「……!」


 ルイーズはあまりの感動に言葉も忘れて息をのむ。

 ウィリアムが見せたものは、純白のウエディングドレスだった。

 首と腕の部分のレースや、細かい刺繍の入ったロングトレーンが目を引く上品で非常に美しいドレスだ。


 口に手を当てて喜びをかみしめるルイーズの隣にジュリエットが立って微笑んだ。


「トレーンの刺繍は、わたくしもお手伝い致しましたの。いかがですか?」

「私は何もできないから生地集めだけがんばったよ」


 ソファに座ったままのロアンヌも、笑いながら口を挟む。

 ルイーズは感激のままに涙を浮かべて頭を下げた。


「ありがとうございます……!本当に、嬉しい」

「あはは、気に入ってもらえたみたいでよかった。サイズは前回測らせてもらったものをそのまま使ったよ。実はこれ、テオフィル殿下から頼まれたんだ」


 ウィリアムの言葉に、ルイーズは驚いてテオフィルを見る。

 テオフィルは優しい笑顔を浮かべ、ルイーズを見つめていた。


 実はここのところルイーズはずっと結婚式のドレスのことで悩んでいた。

 もうすぐ式だというのに、良いドレスが見つからないのだ。

 王都にあるどこのドレスショップも、三回目の妃選考でルイーズを門前払いしてしまったうしろめたさから、無駄に豪華絢爛なドレスばかりを提案してくる。

 善意からくるその気遣いはありがたかったが、豪華なばかりでルイーズには似合わないことが明白で、ルイーズはどうしたらよいか頭を抱えていた。


「私が悩んでいることを知っていたの?」

「なんとなくだけどね。ドレスの話題になると、少し顔が曇っていたから。それに、単純にウィルが作ったドレスの方がきれいでルルも嬉しいだろ?」

「ありがとう……!テオ大好き」


 ルイーズはなんだか胸がいっぱいになってたまらなくなり、皆の面前であることも気にせずテオフィルに飛びついた。

 危なげなくルイーズを受け止めたテオフィルが嬉しそうに笑う。

 ルイーズ家の全員が、厳格な母でさえも、そんな二人を笑顔で見守った。


 ローレン領の冬の夜は長い。

 しんしんと雪が降り積もるなか、この日もにぎやかな笑い声が遅くまで屋敷内に響いていた。


次回は他に特に思いつかなければ、結婚式です。

またお時間があるときに読みに来ていただけたら嬉しいです!

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