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なんでも言うことひとつ聞く(2)


 四人が最初に向かった場所は、王城からほど近い場所にある自走車の乗り合い所だった。


 王都では少しずつ自走車の試用が始まっていて、王都内の道が整備されたところから公共交通機関としての自走車が走っている。

 安価ではやく移動ができる自走車は、あっという間に民衆の足として浸透しつつあった。


 乗り合い所にやってきた大型の自走車を見て、ティエリーは感激したようにため息をついて言った。


「これが自走車ですか。話には聞いていましたが、思っていたよりたくさんの人を乗せることができるんですね。それにスピードもとても速い」


 自走車を褒めてもらえてうれしくなったルイーズは、にこにこ笑ってティエリーに答える。


「ええ、それに思っていたより燃費も良いんです。ひとつかみのギオルマイトで、王都から馬車で4時間かかる場所まで走るんですよ」

「それは素晴らしい。我が国もはやく導入しなくては。これを提案したというそちらの王太子のお妃様は、先見の明がおありですね」


 思わぬ流れ弾をくらったルイーズは、顔を赤くして押し黙った。

 そんなルイーズをフォローするように、カサンドラがティエリーに声をかける。


「えっと、今回は乗り合いではなくて貸切の自走車を用意したので、よかったら少し乗ってみませんか?」


 ルイーズから視線をうつしたティエリーは、嬉しそうにうなずいた。


「ええ、ぜひ」


 ティエリーの返事を受けて、四人の元にこの国で造られた自走車の第一号となった車がやってきた。

 素っ気ない灰色のボディでできたその車は、運転席の後ろに半円状の4人掛け席がついている。屋根はなく、景色が広く見渡せる仕様だ。


 最初にカサンドラが乗り込むために、自走車に足をかけた。


 しかしこの自走車第一号はタイヤが大きく車高が高いため、ドレスを着たカサンドラはなかなかうまく乗り込めずにいた。


(この乗り込みづらさから、第二号は改良して段差をつけたのよね)


 落ちそうなカサンドラをはらはらと見守りつつルイーズがそんなことを考えていると、カサンドラがずるっと足を滑らせる。


「あっ」


 危ない、とルイーズが思ったその瞬間、落ちそうになったカサンドラをティエリーが抱き留めた。


「大丈夫かい?」

「え、ええ……」


 どぎまぎした様子で答えるカサンドラにティエリーはよかった、と微笑みかける。

 彼のオレンジ色の瞳が妖艶にきらめいた。

 その輝きに思わずカサンドラが見惚れると、ティエリーはカサンドラを抱き直して言った。


「失礼、このまま持ち上げるよ」


 そう言うやいなや、ティエリーはカサンドラを軽々と持ち上げて車に乗せる。

 そして自分もスマートな動作でその横に乗り込んだ。


(何勝手に触ってるんだか!もう)


 カサンドラは心の中で怒ってみせる。

 しかし自走車が走り出してしばらくしても、カサンドラの顔は赤くなったままだった。



 やがて、四人を乗せた自走車は王都の中心部にある噴水広場にたどり着いた。

 先に来ていた護衛騎士が四人に駆け寄ってくる。


 車を降りたティエリーは、街を見回して独り言のように言った。


「清潔で、活気のある良い街だ」


 顔の火照りがやっと落ち着いたカサンドラが、招いた側の人間としてティエリーに尋ねる。


「どういった場所が見たいですか?」


 カサンドラの言葉に、ティエリーはあごに手を当てて辺りをじっと観察した。

 そしてふと、広場の一角の盛り上がりに目を止める。


「あれはなんだい?」

「……なんでしょう?」


 首を傾げたカサンドラの代わりに、テオフィルが説明した。


「おそらく、あちらで何か大会が開かれている。行ってみるか?」


 ティエリーがうなずいたのを確認して、四人はその人だかりへと足を向けた。



 そこで行われていたのは、簡単なカードゲームの大会だった。

 明らかに貴族然とした四人が近寄ってきたのを見て、大会の主催者であろう男性が愛想よく四人に声をかける。


「いらっしゃい、簡単なゲームをやっていかないか?ルールは簡単、二人で対戦して、相手より大きい数を引いたほうが勝ち。相手の賭けたお金を貰えるよ。そのまま勝ち上がれば、一攫千金も夢じゃない」


 男性の言葉に四人は顔を見合わせた。

 別にお金には困っていないが、実はこういった勝負事が大好きなカサンドラがおずおずと手をあげる。


「あの、参加してもいいですか?」

「もちろん!参加料に100ギートもらうよ。賭ける金額は1000ギート以上なら自由だ。たくさん賭ければ賭けるほど、たくさんの人に勝負を挑まれるだろう」


 100ギートはこの国でジュースが1杯買えるくらいの金額だ。

 カサンドラは少し考えたあと、男性に告げた。


「それじゃ、40000ギート賭けます」


 カサンドラは常日頃父親から、“金は天下のまわりものだ。我々みたいにたくさん持っている者は使えるときにたくさん使ったらいい”と教えられている。

 そんなカサンドラの宣言に、周囲にはどよめきが走った。

 今までの賭け金は多くても5000ギートくらいだったからだ。


「40000ギートだとっ!?」

「おい、俺も参加するぞ」

「私もお願い!」


 会場は異様な盛り上がりをみせ、さっそくカサンドラは勝負の席についた。


「相手はおれだ。よろしくな、お嬢ちゃん」


 最初の相手は、頭にタオルを巻いた厳つい顔のおじさんだ。

 仕事の休憩中に参加しているのか、服は泥で汚れている。

 彼は自身の賭け金である3000ギートを机の端において、張り切って手の指を鳴らした。


「では、カードを選んでください」


 進行役の言葉に、カサンドラはテーブル上に並べられた50枚ほどのカードの中から迷わず一番右端にある一枚を手に取る。


 対しておじさんはしばらく迷った後、まんなかのカードを引いた。


「それでいいですね?では、裏返してください」


 おじさんとカサンドラは、同時にカードを裏返す。

 おじさんの数字は14。カサンドラの数字は32。


 カサンドラの勝利だ。


(……やったっ!)


 ティエリーの前で猫をかぶっているカサンドラは、飛び上がって喜びたいのをがまんして心の中で勝利を噛み締める。

 ルイーズがそんなカサンドラの背中に手を当てて嬉しそうに言った。


「やったわね、キャシー」

「くそっ、負けちまったな!ほらよっ」


 カサンドラの相手だったおじさんは、苦笑しながらカサンドラに自らの賭け金を投げてよこした。

 お礼を言って受け取ったカサンドラの前に、ほとんど間を置かずに次の挑戦者が座る。


「次はあたしよ、お嬢さん。ごめんなさいね、あたし勘は良い方なの」


 やって来たのは、夜の街で働いていそうなお姉さんだ。

 短いスカートで足を組み、襟ぐりが大きく開いた首元からは胸の谷間が見えていて、全体的に露出が多い。

 幼少期から紳士のマナーをたたきこまれたテオフィルは、すぐにその女性から視線をそらした。

 テオフィルが視線を逸らすのと同時に、テオフィルが女性に見惚れていないか確認するためにルイーズが彼の方を見たので、テオフィルにとっては間一髪であった。


 進行役は明らかに鼻の下をのばしてその女性を見つめながら合図を行なう。


「お二人とも、準備はいいですか?カードを選んでください」


 カードはシャッフルされて配り直され、再び場に置かれたカードは50枚。

 カサンドラが自分の目の前にあるカードに手を伸ばすと、女性はそれを見てセクシーにほほえみ、自身もまた目の前にあるカードを手に取った。


「そちらのカードでよろしいですか?」

「いや、ちょっと待って」


 止めたのは、ティエリーだ。カードに置かれたカサンドラの手に自身の手をそっと添えてカサンドラの動きを封じる。

 後ろからティエリーが覆いかぶさる形となったカサンドラは、目を白黒させてティエリーを見上げた。


「ちょ、な……」

「僕もわりと勘がいいんだ。多分このカードだと相手の女性に負ける。こっちにしてみて」


 ティエリーが指し示したのは、カサンドラの左手側にある一枚のカードだ。


 ティエリーは意地を張っているかのように動かないカサンドラを、ウィンクで促した。


「ね?」

「……っ、わかりましたっ」


 カサンドラはティエリーに言われたカードを勢いよくめくる。その数は48。

 相手の女性がふう、とため息をつきながらめくったカードには、47と書かれていた。


「……っ、わあ、ティエリー様すご!」

「あら、惜しい。負けちゃったわ」


 それまで取り澄ましていたカサンドラだったが、その僅差での勝利に思わず喜びの声をあげた。

 叫んでしまってから、はっとしたようにティエリーの方を振り向く。


(やばい、素をみせちゃった)


 公爵令嬢としてのカサンドラしかティエリーには見せていなかったため、引いただろうかと彼をうかがうも、ティエリーはにっこり笑って言った。


「よかったね。それが本来のカサンドラ嬢なのかな。とても元気で魅力的だ」


 今まで自分の素をみせると引いてしまう令息にしか会ったことのないカサンドラは、ティエリーの言葉に再度真っ赤になった。


(こいつ、ほんと、ちゃらい……!)


 ……でも、ありのままの私を褒めてくれるなんて、嬉しい。


 そうどこかで思ってしまう自分に、カサンドラは戸惑いを感じていた。


次回は明日(6/5)の朝更新します。


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どれも毛色の違うお話なので、もし気になるものがあればのぞいていっていただけるととても嬉しいです。

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