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最終選考(3)


 ブリジットが誇らしそうに差し出すその石を、テオフィルはまじまじと見つめる。

 それからしばらくしてゆっくり口を開いた。


「……その石が、なんだ?それはギオルマイトだよな?」

「えっ!?!?だ、だって、アランが……その女から聞いたって、この石を持ってたら妃に必ず選ばれるって……」


 ギオルマイトとは、昆力石、つまり、自走車の燃料に使われる鉱石だ。


 テオフィルの言葉のあまりの衝撃に、ブリジットはしどろもどろになって取り乱した。

 混乱のあまり失言していることにも気づいていない。

 彼女は右往左往すると、はっとしたように笑顔になって再びテオフィルに近づいた。


「もしかして、ただの石と勘違いなさっています?さあ、御覧になって」


 そうしてブリジットは石に口づける。

 

 すると、石がほんのりと光りはじめた。

 石の淡い神秘的な輝きに、その場にいた全員が一瞬魅了される。

 

 しかしテオフィルはいたって冷静だった。


「なるほど、本で知ってはいたが、光るところは初めて見た。なかなか綺麗な光だな」

「な、ど、どういうこと……?これは、女性の口づけにしか反応しない石なのです!ただの石ではないんですのよ!?」


 事態がなかなか飲み込めないブリジットに、横からルイーズがわざとブリジットの神経を逆なでするよう無邪気に説明する。


「ギオルマイトは、口紅に使われているベニバナの成分に反応して光る性質があるんですよ。男性は口紅をつけませんから、もちろん男性が口づけても反応しないでしょうね。……あら、もしかしてご存じなかったですか?」

「なんですって……?!」


 髪を振り乱す勢いでルイーズを振り向いたブリジットに、ルイーズはさらに追い打ちをかけた。


「そもそもこの()()は、私がアランさんと二人きりのときに話したものですけど。なぜブリジットさんがご存じなのでしょう?」


「……てめえ、はめやがったな!」


 茫然とするブリジットの代わりに叫んだのはアランだ。


 もともとの物腰の柔らかい雰囲気はどこへやら、目を剥いて真っ赤になりながらぎりぎりと歯ぎしりをしてルイーズをにらみつける。

 

 しかし、それを遮るようにテオフィルがアランとルイーズの間に入り込んだ。


「なんとなく話の流れはわかった。アラン、お前がルルを好きだというのも嘘だな?ブリジット嬢の証言も取れたことだし、おとなしく関与を認めろ」

「…………」


 しばらくテオフィルをにらみ続けていたアランだったが、やがて諦めたように視線を落とし、吐き捨てるように言う。


「……そうだよ。ブリジット様が、自分が妃に選ばれたあかつきには自分を側近として雇用した上で寵愛もくださるというからやった。ブリジット様に二回目と三回目の選考内容を事前に教えたのも俺だ。……これで満足だろ?」


 これには執務官も信じられない思いでアランを見る。


 まさか選考内容を横流しするような不正が行われていたとは思わなかったからだ。

 しかしこれで二回目の選考時、やけにブリジットの手際がよかったことにもうなずける。

 そういえば、三回目の選考内容の話し合い時に、パーティーの相手国として西の大国はどうかと提案したのはアランだった。

 おそらくこれもブリジットに有利な相手だから西の大国を提案したのだろう。

 まんまと乗ってしまった上に、部下の管理ができていなかった自分が不甲斐なく、執務官は無力感から肩を落とした。


 そして、国王と王妃も眉を吊り上げた。卑怯な手を使った上に、息子と結婚した後に浮気する予定だったと聞いては親として冷静ではいられない。


「アランっ!!」


 茫然としていたブリジットが、アランの暴露に我に返って憤りの声をあげる。


 しかしアランは厭世的な笑みを浮かべながらへらへらと言った。


「なんだよ、そもそもあんたがさっき勝手に俺の名前をばらしたんだろ?もうあんたの計画はすべてご破算。おとなしく負けを認めようぜ。それより、俺を愛人にしてくれる約束忘れてないよな?」

「あんたみたいな平凡な男、愛人になんてするわけないでしょ?ふざけないで」

「なんだって?!」


 今にもとびかからん勢いのアランを、ロアンヌが平然と押さえつける。

 それをみて調子に乗ったのか、ブリジットがさらにアランを挑発しようと口を開いたそのとき――


「ブリジット。いい加減にしろ」


 低く割れんばかりの大声が、謁見の間に響き渡る。


 突然そこに現れたのは、ブリジットの父、クラルティ辺境伯だった。


 クラルティ辺境伯は、自分にも人にも厳しい男として有名だ。熊のような見た目通り、力も非常に強い。


 そんなクラルティ辺境伯が怒りをあらわにする様子をみて、アランは穴の開いた風船のように一気にしぼんで元気をなくし、ブリジットは唇が紫になるくらいまで顔を青ざめさせた。


「お、お父様……なぜここに……」

「最終選考にお前が参加するから、という理由で王太子殿下に呼ばれていたのだ。話はすべて聞かせてもらった。この、クラルティ家の恥さらしめが」


 クラルティ辺境伯はそれだけで人を殺せそうな目線で娘をにらみつけると、玉座の方にむかって一礼した。


「……国王陛下、王太子殿下、この度は我が娘がご迷惑をおかけし、大変申し訳ありませんでした。これもすべて、私が父親として至らなかったせいです。厚かましいお願いですが、そこの男とブリジットをクラルティ領の領法で裁き、罰を与えることを許可いただけないでしょうか?」

「い、いやよ……!」


 クラルティ領の罪人への罰は、どこの領地よりも厳しいと評判だ。

 自身の行く末を察したブリジットは、真っ青な顔でいやいや、と首を横に振る。

 国王が頷くのを確認してから、クラルティ辺境伯は逃げだそうとするブリジットの腕をつかんだ。


「さあ、来い。これ以上我が家を貶めるな。……失礼いたしました」

「お父様、ごめんなさい……!許して!」

「黙れ」


 そしてブリジットは、入ってきたときのアランのように、引きずられる形で謁見の間から出て行くこととなった。


 二人の後に続いてロアンヌがアランを連れ、退出する。

 アランはもうすべてがどうでもよくなったのか、素直に歩いて出て行った。


******


 やっと訪れた静寂に、会場内にいた全員が緊張を解く。


 ルイーズはなんだか複雑な気持ちでブリジットたちを見送っていたが、国王が玉座から動く気配にはっと我に返った。


 国王は壇上に置かれたままになっていたテオフィルの剣を拾い上げると、テオフィルの前まで来てそれをテオフィルに渡し、言う。


「邪魔は入ってしまったが、さあ、妃選考を終わらせよう」


 テオフィルは父の言葉に黙ってうなずくと、剣を受け取った。


 そしてルイーズの前でその剣を置き、自身も跪く。

 ルイーズは真剣な目でテオフィルに見上げられ、胸が高鳴った。


「ルイーズ嬢。私の妃になってくださいますか?」

「……もちろんです。選んでくださって、ありがとうございます」


 ルイーズの返事にテオフィルは本当に幸せそうに笑い、ルイーズの手を取ってその甲に口づけた。

 それを受けてルイーズも顔を赤らめ、嬉しそうに微笑む。


 会場に残った全員がその光景を見て、祝福の拍手を送った。

次回、最終話です。

よろしくお願い致します……!

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