動き出す
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よろしくお願いします。
この季節には珍しい、土砂降りの雨が降ったある日の翌日。
テオフィルと会ってから一週間と少し経ち、ルイーズはいよいよおかしいと首を捻った。
王城から最終選考の詳しい案内が届かないのだ。
(たしか、前回執務官が、最終選考は三回目の選考から約三週間後と言っていたはず……)
それなのに、もう明日で三週間が経つ。
いつもなら選考の一週間は前に案内が届いているはずだし、遅れるなら遅れるで知らせがあっても良いはずだ。
しかし、おいそれと王城に問い合わせるわけにもいかない。もし案内がすでに滞りなく出されていたなら、案内を紛失したことで過失を問われてしまう可能性もある。
ルイーズはいつになく焦燥感を覚えていた。
(どうしたらいいのかしら……?執事に聞いても案内は届いていないというし……。キャシーに聞くしかないかしら)
正直、ルイーズは今になっても自分がテオフィルのことを恋愛として好きなのか自信を持てずにいた。
そのため今まで案内のことをきちんと確認できなかったともいえる。
行くかどうかわからないから、まだ案内が届かないことにほっとしてもいたのだ。
それでもさすがにこんなに日数が過ぎても届かないのはおかしい。
もしかしたら何かまた妨害工作をされているかもしれない、と今になってひどく焦りを覚える。
ルイーズが気もそぞろに部屋を出たところで、ちょうどルイーズの部屋の前の廊下を歩いていたジュリエットと鉢合わせた。
「あら、ルルお姉様。ごきげんよう」
「ジュジュ……」
ジュリエットはルイーズの情けない表情を見て眉をひそめる。
「どうなさいました、お姉様?お顔の色が」
ルイーズは反射的に「なんでもない」と言いかけた。知らないうちにたくさん助けてもらっておいて、ここでまた頼るのは姉として情けないと思ったからだ。
でも、そう考えたのも一瞬のことで、すぐにそんな矜持より最終選考に出られないかもしれない不安の方が競り勝った。
「……実は、最終選考の案内が届かないの。三回目の選考から三週間後くらいになるっていう話だったのだけれど」
「えっ」
ジュリエットは驚きの声をあげると、殊の外深刻そうな顔で考え込んだ。
彼女は顎に手を当て、しばらく物思いにふけっていたが、突然はっとしたように顔を上げてルイーズを見る。
「もし、王城側の手違いでなければ……もしかしたら、お父様が関係しているかもしれませんわ。ちょうど一週間ほど前に、お父様が何やら王城に向けて手紙を出すよう指示を出していたのを見ました」
「お父様が……?」
ルイーズはジュリエットの思いがけない言葉に眉根を寄せ、ふと最後に会った父の様子が少しおかしかったことを思い出した。
こちらをいたわるような、憐れむようなそんな表情をしていた父。
何か隠し事があるときに父は悲しそうな顔で笑う癖があったことを今更ながら思い出す。
「じゃあ……じゃあ、お父様にお手紙を書いて――」
言いながら、ルイーズは(違う、そうじゃない)と考えた。
ルイーズの心を読んだかのように、ジュリエットも言う。
「それではきっと間に合いません。ルルお姉様は今すぐお父様のところへ向かってください」
今までに事前連絡なく領地にいる父を訪ねたことはない。
きっと父も、そして父と同じく領地にいる、礼節を重んじる母も良い顔はしないだろう。
それでも、なぜだかルイーズは今すぐ行かなければならないと強く感じた。
「――ええ。行くわ」
確かな意思の籠るまなざしで頷く姉を見て、ジュリエットはほのかに笑顔を見せた。
「ルルお姉様、わたくしちょうどこれから出かける予定で、表門のところに馬車を用意させておりましたの。そちらをお使いください」
「えっ、でも、それじゃジュジュの用事が……」
「わたくしはまた別の馬車を用意いたしますから、大丈夫です。さあお姉様、はやく」
はじめは躊躇っていたルイーズだったが、ジュリエットの言葉に背中を押されて動き出す。
「ジュジュ、本当にありがとう。行ってきます」
「行ってらっしゃいませ、お姉様」
そうして歩き始めた姉の姿を、ジュリエットはその場でしばらく見守っていた。
(きっと二人はうまくいく。ルルお姉様、がんばって。
―――これで、わたくしはやっと初恋を忘れることができる)
ジュリエットは、ずっと、ルイーズとテオフィルが一緒にいる時間が、二人の空気が、そして、テオフィルが大好きだった。
姉が、そして、テオフィルが大好きだから、二人には幸せになってほしかったのだ。
ずっとくすぶっていた淡い初恋が、やっと思い出に変わっていく気配がして、ジュリエットは零れそうになる安堵の涙をこっそりと拭った。




