二人きりの面会(3)
次に馬車がとまった場所は、城下町のなかでも飲食店が多く立ち並ぶ区域だった。
すでにお昼時は過ぎているため、行き交う人の数はあまり多くない。
テオフィルとルイーズは御者にお礼を言い、護衛を引き連れて馬車を降りた。
「お腹は空いているか?」
「そんなに空いていないけれど、軽く何か食べられたら嬉しいわ。そういえば、あそこはまだやっているかしら?ほら、昔一緒に町に来た時フルーツ飴を買ったお店」
「懐かしいな。行ってみよう」
目的地を決めた二人は、そこに向かって歩き出す。
そんなに回数は多くないけれど、一緒に勉強をしていた頃、こうして息抜きに並んで町を歩いたことがあった。
あの頃にはなかったお店も増えて、見える景色は少し変わってしまったが、それでもひどく懐かしい空気にルイーズはこっそり笑みをこぼした。
果たして、二人の向かったお店は変わらずそこにあった。
“フルーツ飴のお店”として認識していた店が、果物を使ったスイーツ全般を売るお店だったことを、改めて訪れたことで初めてルイーズは知る。
ルイーズの記憶より少し歳をとったおかみさんが、客として顔を出した二人に愛想よく声をかけた。
「いらっしゃい!お二人ですか?食べていきます?」
「ああ、食べていく」
おかみさんは、護衛を連れた二人を見て身分の高い人物だと判断したのだろう、奥まったところにある半個室に案内してくれた。
メニューを渡されて、二人で一緒にそれをのぞきこむ。
どうやらあの頃買ったフルーツ飴は、持ち帰り専用の商品だったようだ。
ここにメインで書かれているのは、フルーツを使ったアイスクリームやケーキ、飲み物ばかりである。
何にしようか悩む二人に、おかみさんは笑顔で言った。
「もし迷っているなら、メニューには載っていませんが、ギコラの実のシャーベットはいかがですか?今日入荷したばかりなんですよ」
「えっ!私、それにする……!」
ギコラの実はルイーズの好物だ。赤い小さなその実は、加工せずに生で食べてもとても甘くて舌がとろけるほどおいしい。
目を輝かせるルイーズを見て、テオフィルは思わず笑ってしまった。
「そういえば、ルルは昔もギコラの実の飴を買っていたな」
「お客さん、前も来てくださったことがあるんですか?」
意外そうに聞いてくるおかみさんに、テオフィルはうなずいてみせた。
「もう9年くらい前だが。飴をたくさんサービスしていただいた」
「あ…ああ!!あのときの!お二人とも、随分立派に成長されましたね」
感激した様子で声をあげるおかみさんに、ルイーズは驚く。まさか過去の一度きりの出来事を覚えてくれているとは思わなかったからだ。
目を丸くするルイーズを見て、おかみさんはいたずらっぽく笑って言った。
「そりゃあ、覚えてますよ。護衛を連れて歩く子供なんてこの辺りにはなかなかいませんからね。そうそう、あのときもあんまり嬉しそうにするものだから、ついついたくさんあげてしまったんでした」
おかみさんの言葉に、ルイーズは顔を赤くした。なんだか自分が幼い子供に戻ったような気分になる。
テオフィルはそんなルイーズを見ながら、おかみさんに言った。
「では、そのギコラの実のシャーベットをひとつと、サリュートのジュースをひとつ頼みたい」
「ええ、承りました。少々お待ちくださいね」
おかみさんはにこにこ笑いながら答え、調理場へと入って行った。
しばらくしておかみさんが持ってきてくれたギコラの実のシャーベットは、絶品だった。
「おいしい……!」
シャーベット自体にももちろんギコラの実が練りこまれているが、シャーベットの上にそのまま載せられた実もまた、キンキンに冷えていていつもと違った風味を感じさせる。
幸せな気持ちになったルイーズは、その上がったテンションのまま、シャーベットを掬ったスプーンをそのままテオフィルに差し出した。
「テオも、ひとくちどうぞ!」
突然スプーンが目の前にきたテオフィルは驚いて動きを止める。
一瞬(これはルルが口をつけたスプーン…)という思いが去来したが、にこにこ笑ってスプーンを差し出すルイーズには抗えない。
「…………」
柄にもなく頬をうっすら染めながら黙ってシャーベットを口にすると、ルイーズは嬉しそうに聞いてきた。
「おいしい?」
「……ああ、おいしい」
テオフィルの答えに、ルイーズはますます笑みを深め、うんうんとうなずく。
(ああ、そういえばこういうところも好きなんだったな……)
自分が嬉しかったり楽しかったりしたことを、ためらいなく人にも分け与えようとするところ。
昔もよく、家で食べておいしかったものを持ってきてくれたり、姉やジュリエットとやって楽しかった遊びをテオフィルともやろうとしてくれた。
(本当変わらないな、俺もルルも)
テオフィルはなんだか敗北感を感じながら、赤くなった顔を冷ますために一気にサリュートのジュースをあおった。




