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二人きりの面会(1)


 さて、さらにそれから4日後のこと。


 馬車から降りたルイーズは、やや緊張気味に王城を見上げる。

 季節の変わり目は寒暖差が激しく、体調を崩しやすい。

 うっかり薄着で夜中まで勉強して風邪をひいてしまったルイーズは、本来4日前だったはずのテオフィルとの面会を今日に延期してもらっていた。


(テオに会うのは夜会以来ね……)


 ルイーズはあの夜会の日から、たびたびテオフィルに抱きしめられたときの彼の温度を思い出していた。

 力強いあの腕や、優しいラピスラズリの瞳を思い出すたびに顔に熱が集まる。

 そもそも風邪を引いたのだって、夜会でのテオフィルとのことを忘れようとがむしゃらに勉強したことが理由だ。

 わけのわからない感情のせいで体調管理もできない自分に、ルイーズはこっそり落ち込んでいた。


 ルイーズが王城を見上げたまま動けずにいると、ルイーズの姿を見つけた門番が向こうから近寄ってくる。

 過去三回の選考ですっかり顔なじみとなったその門番は、笑顔でルイーズに声をかけた。


「こんにちは、ルイーズ殿。殿下との面会でお越しですか?」


 にこやかにそう話しかけられては、このままテオフィルに会うのをためらっているわけにはいかない。

 ルイーズは意を決してうなずいた。


「ええ。案内をお願いできますか?」

「はい、殿下がお待ちですよ。さあ、こちらへ」


 ルイーズは門番に連れられるままに、緊張の面持ちで王城の中へ足を踏み入れた。


******


 だがしかし、あのとき以来に会うテオフィルは拍子抜けするほどいつも通りだった。


「久しぶり、ルル。体調はもう大丈夫か?」

「え、……ええ。ただの風邪だったわ。お手紙も送ったけれど、お見舞いのくだものをありがとう」

「そうか、よかった。じゃあさっそくだけど、出かけよう」

「え?」


 テオフィルの執務室に案内されたルイーズは、入室してすぐに行われたそのやりとりにぽかんとした表情を浮かべる。


 テオフィルはルイーズが来る直前まで仕事をしていたようだが、ルイーズが入ってきてすぐ手際よく書類を片付けて立ち上がった。


 てっきり今日は王城内で話をするだけだと思っていたルイーズは、戸惑ったような視線をテオフィルに向ける。


「あの、テオ、出かけるってどこへ?」

「自走車の試作工場だよ。さっそく実際に自走車を作ることが決まったんだ。作るところを見てみたくはないか?」

「!」


 テオフィルの言葉にルイーズは目を輝かせた。

 国が自走車の導入に奔走していることは知っていたけれど、こんなに早く作り始められるとは思っていなかったのだ。

 今までたくさんの知識を詰め込んできたが、その知識から出した自分の考えが形になるところなど初めて見る。

 わくわくしない方がおかしいだろう。


「行きたい……!」


 いつになく興奮して前のめりなルイーズの返事を聞いて、テオフィルは嬉しそうに笑った。


******


 工場へ向かう馬車の中は、とても盛り上がった。ルイーズも王城前で感じていた緊張はどこへやら、楽しそうに笑い声をあげる。


「テオ、4年くらい前に北の島国に行っていたそうね?どうだった?」

「夏なのにすごく寒かった。でも生き物も植物も見たことないものばかりで面白かったな」

「例えば?」

「例えば……そうだな、一番興味深かったのは、ユキファバシーかな」

「本で読んだことがあるわ。雪に擬態する動物よね?」

「ああ。でも、擬態なんてもんじゃなかったぞ。さわり心地も雪そのものだったし、体温も自分で変えられるらしくて、俺が触れたときはすごく冷たかった」

「へえ……それは、うっかり踏んでしまいそうね」

「俺は実際踏んでしまった。それでもじっとしているものだから、ガイドに教えてもらわなければ踏んだことにも気づかなかったよ」

「面白いわ。私も実際に見てみたい」


 お茶会のときと同じように、会わなかった期間のことで話すことはたくさんあった。

 ルイーズは自分と同じように楽しそうな笑顔を浮かべるテオフィルをそっと盗み見る。

 彼の笑顔をみているだけで、幸せな気持ちが胸に広がるのを感じた。


 話がふと途切れたところでテオフィルが馬車の窓から外を見て言った。


「もうそろそろ着く」


 自走車の試作工場は、王都のはずれの大きな川の傍にあった。

 そこは工場地帯で、古くから続く工場が川に沿って立ち並んでいる。

 そのなかでもひと際大きなその建物を見てルイーズの心臓はどきどきと音をたてた。


「……緊張してるのか?」


 テオフィルの言葉にルイーズは小さくうなずいた。


「そうかも。私、選考の発表では“この国にある技術と素材で十分に作れる”って言ってしまったけれど……本当に大丈夫かしら」

「それを、自分の目で確かめてみるといい」


 テオフィルはルイーズの様子を見てくすりと笑う。

 それと同時に馬車が工場の前で止まった。


「着いたな。ルル、手を」


 馬車から降りるルイーズをエスコートするために、テオフィルが手を伸ばす。

 あの日以来触れるテオフィルの手だ。

 ルイーズはさっきと別の意味でどきどきしながら、そっとその手を取った。


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